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【第63話】穴があったら入りたい

 宙を舞う人影に気づいた群衆の中の何人かが見上げる中、空中で体勢を整えたロシュートはサーロッテに相対している男のひとりに狙いを定めた。


 彼は何も考えずに自らを射出したわけではない。


 近距離戦闘が苦手そうなリリシアを助けるより、包囲さえ突破できれば素早く動けるサーロッテに加勢したほうが結果的に多くの戦力を確保できるとの判断だった。


 というわけで。


「【地属性】キックを食らえ悪党がッ!」

「なんっグホォ!?」


 意識外の仰角から突然突っ込んできたロシュートを避けられるはずもなく、着弾の直前で気づいて叫び声を上げることしかできなかった男は胸元に射出の勢いを全て乗せられた蹴りを食らって転倒する。ロシュート自身は男をクッションにしたため無傷だ。


「な、お前はロシュート!?」

「状況はよくわからんが加勢するぜ、サーロッテ!」


 驚くサーロッテに叫び返しつつ体勢を整えると、ロシュートは彼女を囲む賊のもう一人に素早く接近する。


「なんだこいつどこからっ!?」

「不意打ちですまねえな!」


 ロシュートは腰の短剣を抜き、その柄を突然の増援に狼狽している賊の顎へ叩きつけ、さらに魔導書の背表紙でこめかみへ殴打を見舞う。脳を揺さぶられ平衡感覚を失った賊の男を、さらに腰へ体当たりして石畳上に倒し、その下の地面から引っ張り出した『ソイルウィップ』で素早く拘束する。


「だけど先に仕掛けたのはお前らなんだろ?なら文句はないよな」

「おい、誰かアイツを止めろ!」


 立ち上がったロシュートの元へ駆けてくる賊は2人。彼らが手にしている魔導書による遠距離攻撃と大型のナイフを同時に振るわれた場合、両方への対処は困難だ。接近される前にどちらかを戦闘不能にするしかないが『ソイルショット』では射程が足りない。


 一見不利にも見える状況で、彼はイヤな汗が噴き出るのを自覚しつつも笑っていた。


「ぶっつけ本番だが、上等だ!」


 魔導書と短剣をベルトに突っ込み、開いた手でポーチからある物を取り出す。植物の繊維を編み、さらに妹のアドバイスを受けて加工した丈夫なワイヤーだ。軽く伸ばしたそれを持ったまま両手を地に突く。


「『フレクソイル』!」


 詠唱し、石畳の奥へと伝った魔力が土を隆起させ、巻き込まれたワイヤーはピンと張る。しかしワイヤーが切れることはなく、発生した張力が棒状に固まった土をしならせた。


 ただ固めただけでは脆い土を、魔力の作用で補強して柔軟性を与える。妹が「応用のし甲斐はあるだろうから使えるようにしておきな」と投げた論文を懸命に読み込み得た新魔法は、彼の手に新たな武器、土の弓を生み出した。


「ま、魔導書に触れずに魔法を!?」


 突如出現した弓を構えるロシュートを見て驚きを露わにした賊の男たちは一瞬たじろいだ。その隙を見逃さず、彼はさらに『ソイルショット』、正しくはその応用魔法によって生み出した土の矢をつがえる。


「俺も知らなかったんだが、魔導書を身に着けてりゃ()()()()()()()()()()()くらいなら触れずとも誘導魔力とやらで起動できるんだとさ!持つべきものは天才冒険者の妹だなっ!」


 賊たちへ叫び返したロシュートは呼吸を止めた。

 風の流れさえも見えるほど時の流れが淀む、そんな感覚。

 彼はゆっくりと狙いを定め、矢を放った。


 ヒュッと風切り音がして、世界の感覚が元に戻る。

 矢は、相対する2人の男たちのはるか後方へ飛んでいた。


「外したなっ、バカが!」


 勢いを取り戻した賊がナイフを構えてロシュートに迫る。だが彼は冷静に魔導書に触れ、詠唱。弓を土の鞭(ソイルウィップ)に変えて賊のナイフを弾き、その足をがんじがらめにして転倒させた。


「チッ!だがまだ後ろに……」


 地に伏した賊が意識しているのはまだ後方に魔導書を構えていた仲間。目の前に立つ黒髪の乱入者は接近した自分にはほぼ完ぺきに対処したが、これだけの時間があれば高火力の魔法を詠唱する時間すらある。ダメージを受けるのは必至のはずだ、と。


 だが。


「そっちはもう対処済みだ」

「なっ!?」


 乱入者が慌てている様子はない。逆に狼狽した賊は上体を捻って後方を確認すると、彼の仲間はすでに倒れていた。魔導書を持っていたはずの手には、冷たく輝く青白い光の十字架が突き刺さっている。接近戦を仕掛けて動きを封じていたはずの、リリシア・コースタスの攻撃によるものだ。


「まさかあの女が、だが攻撃する隙があったというのか!?」

「なかったから作ったんだ。さっきな」


 ロシュートがチョイチョイ、と指差す先にはもう一人胸に十字架が突き刺さった男が倒れており、そのそばにはクロスボウを構えたリリシアが立っていた。倒れた男のズボンの裾が土の矢で射抜かれ、石畳に縫い留められている。


「ウマコトのパーティにいる冒険者だ。隙を一瞬作れば反撃くらいできると思ってな。こっちに加勢してくれることを期待して助けてみた」


 放った矢は目の前の2人の賊ではなく、後方のリリシアに相対していた賊の自由を一瞬奪った。その瞬間リリシアは近づかれてしまっていた賊へ十字架を突き刺し無力化し、クロスボウでロシュートへ魔法を放とうとしていたもう一人を狙撃したのだ。何か気に食わないのか、リリシアが人を殺せそうな恐ろしい表情で自身を睨みつけていること以外は、ロシュートの思惑通りに事が運んだ。


「あとは残りのやつらだけど……大丈夫そうだな」


 ロシュートが周辺を見渡すと、かなりの数いたはずの賊はもう誰ひとり戦闘を続行していなかった。彼が唯一加勢しなかった岩みたいな大女ことグレース・ロックベルトは軽い擦り傷、切り傷などはあるようだがロシュートを見て満面の笑みを浮かべており満足げだ。彼女の足元には大勢の賊が昏倒しており、一対多の戦闘における彼女の実力を如実に示していた。


 戦闘の終了を確認したロシュートは屈んで足元の賊の顔を覗き込む。


「さて、お前らは何が目的だったんだ。こんな街のド真ん中でコトを起こしたらウマコトたちじゃなくても衛兵が殺到してきて大変なことになるとか思わなかったのかよ」

「そ、それは……というか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「聞いてた話?どうしたんだよ急に丁寧な感じになって……」


 賊、いや、賊のハズの男が明らかに態度を変え、どちらかといえば困った役所職員のような表情で見上げてきたことでロシュートの頭はすさまじく混乱した。疑問符に埋め尽くされた彼を我に帰したのはポン、と肩に置かれた柔らかな感触。振り向けば、そこには同じく困り顔のサーロッテが彼の肩を肉球のある手のひらで叩いて首を振っていた。


「ロシュート、咄嗟の判断で助けに入ってくれたのはまあ、良かったのニャ。いつもはそうしてほしい。ただ、今回に限ってはあんまり助けなくても良かったのニャ」

「ど、どういうこと……?だって、街の中で賊が……」


 と、そこまで呟いたロシュートはハッとして周囲をもう一度見渡してみた。戦っていた広場を見るのではなく、そのさらに周り。広場を取り囲んでいた群衆を。


 彼らは驚いたような表情を浮かべている者もいたが、恐怖におびえているものはひとりもいなかった。普通、街中で賊が出たとなれば興味以前に恐怖が勝る。避難をすることもなく、悲鳴も上げず、ただその場にとどまって見物などするものだろうか?まして、今の彼らは笑顔を浮かべたり、拍手を送っている者さえいる。非常事態にしてはどこか抜けているというか、端的に言えば全然本気にしていないのである。


 倒れていた賊たちもロシュートが昏倒させた一人を除いて次々身を起こし、ある者は困惑を、ある者は苦笑いをそれぞれ浮かべて戦闘への乱入者へ視線を注いでいる。


 イヤな予感がする。

 もしかして自分は、何か、盛大な勘違いをしていたのではないだろうか。


 ロシュートがある可能性に思い至ったその時だった。


「さてさてさて、これはいったいどうオチをつけたら良いのかな?」


 コツ、コツ、と静かに歩いてくる革靴の音。それとは対照的に軽薄な、しかし同時に底知れなさを感じさせるような男の声色。男が歩けば、特に何をするわけでもないのに自然と群衆の壁が割れ、道ができる。


 身に着けた黒いマントスーツが示すのはその身分、王都貴族院。しかし銀行に現れた男とは違い、被った艶のある帽子と肩には暗い赤色のラインで装飾が施され、胸元にもいくつかの金属製のバッジがついている。一見薄い山吹色に見える髪は光の加減で薄く緑色にも輝いて見え、その端正な目鼻立ちと美麗な微笑みを浮かべるその顔はその背の高さに反して少年のようなあどけない印象すらある。


「ああ、でもとりあえずオレが号令をかけないことにはどうしようもないか。それじゃあ……」


 男は両手を軽く持ち上げつつ、肩をすくめて言う。


「ハイ、衛兵の諸君。今日の演習は現時点で終わりね。とりあえずケガの治療をしちゃって欲しいな。色々な反省会はまたあとでやろうか?」


 演習。


 その二文字を聞いて、ロシュートは意識が遠のくようだった。

 いやむしろ、意識が手放せたらどんなに良かったか。


 結果ただけ見ると、自分はこの大観衆の中で、早とちりと勘違いで演習へ乱入してしまったあげく、ガチで戦って一人気絶させてしまったヤバい奴である。


 耐えがたい羞恥の中、ユイナの故郷では恥ずかしくて死にたい、というのを穴があったら入りたいと言い換えるらしいことを思い出した。

予定より1日遅れたけど更新します!

思ったより長引いちゃって分割したので、続きは近いうちに上がる予定です。


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