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【第39話】静謐の庵

「サーシャ、そこ隙間あるぞ。気をつけろ」


 日没が迫り、真夜中のように暗くなってきた森の中でロシュートは後ろからついてくるサーシャに手を伸ばす。


 大きな薙刀杖を持ったサーシャは静かに頷くと、岩から岩へと少し助走をつけて跳ぶ。


「ひゃっ!」

「おっと危ねえ」


 着地の瞬間バランスを崩したサーシャを、ロシュートは抱きかかえるようにして支えた。


「あわわわロシュートお兄ちゃん!?」


 腕の中で幼馴染が着地に失敗した以上に慌てふためいているのを、彼女がパニックになっていると勘違いした彼は抱きしめる腕にさらに力を込める。


「落ち着け落ち着け。慌てると滑り落ちちまうぞ」

「ごめんなひゃいっ!」

「ほら、深呼吸しろよ。大丈夫だ」

「そ、それでは遠慮なく……ふふふ今はサーシャだけのお兄ちゃん……」


 ぶつぶつと何を呟いているのかは聞き取れなかったものの、サーシャが腕の中でたっぷり深呼吸をして落ち着いたのを確認したロシュートは彼女を離してちゃんと立てるのを確認した。心なしか顔が熱っぽいのが気になるが、今は先に進むのが優先だ。


「落ち着いたみたいだな。カエデが作ってくれた地図によれば、そろそろ儀式場につくはずだ。見張りも出てくるだろうから用心していくぞ」


 サーシャがこくこく、と頷くのを確認し、ロシュートは周囲の木の上を見渡した。パッと見ではよくわからないが、所々にエルフの青年たちが立っておりロシュートに手振りで了解の旨を返答している。


 エルフたちは森で長いこと暮らしているだけあり、木々の上を飛び移るようにして移動している。もちろん初めて森に入るサーシャや、2週間は訓練したロシュートにさえマネできる芸当ではなく、彼はこの数時間でカエデが手加減してくれていたことを痛感していた。


 ロシュートはカエデとユイナが共同で作成した地図をしまい、マントを羽織りなおす。


 地図は森の地形こそわからないが、ユイナが探知した魔法機の設置場所と星の位置を参照して位置を特定できるものだ。この地図のおかげで彼らは魔法機の探知範囲の隙間を縫うようにして儀式場に接近できているのである。


 そしてロシュート含む全員が羽織っているマントもまた、ユイナが考案したものだ。


「探知用魔力波を吸収してほとんど放出しない魔法陣をあしらったステルスマント、とか言ってたっけ。ユイナは本当すげえよな。意味が分からんことを除けば、だが」

「私の新しい杖もユイナさんの設計ですし、ロシュートお兄ちゃんの新しい弓も。ユイナさん、実はこの国全体で見ても相当希少な人材な気がしています」

「本当にな。時折暴走して宿屋を吹っ飛ばしたりいたいけなエルフ少年を素っ裸にしたりしなければ、王都の魔法研究職に推薦したいくらいだ」

「あはは……宿屋はいいですけど、王城を吹き飛ばしたりしたら大変ですからね」


 宿屋なら吹き飛ばしてもいいわけじゃないから借金を背負っているのだが。


 そうツッコミを入れる代わりに、ロシュートは手で後ろからついてくるサーシャを制した。


「……ロシュートお兄ちゃん」

「ああ。いる」


 サーシャと共に静かにしゃがんで茂みに身を隠し、ロシュートは弓を構える。


「大風の使徒の見張りだ」


 木々の隙間から見た暗がりの中、ロシュートたちの居る方へ歩いてくる赤衣の者たち。普通の人間が2人、緋髪のエルフが4人の計6人。それぞれ手に魔導書を携え、臨戦態勢だ。


 会話が聞こえてくる。


「クソッ、このタイミングで共振結晶を破壊して回る冒険者が現れるなんて。我々の計画が見抜かれているのか!?」

「その可能性はあるだろうな。向こうには『離反者』カエデが居る。儀式の準備をしていることくらいは遅かれ早かれバレていたさ。それより油断するなよ。いま動いている冒険者共がカエデと直接関係しているかはわからんが、混乱に乗じて『静謐の庵』を叩きに来る別部隊が居るかもしれん。これだけ暗いんだ、奇襲にはうってつけの状況だろ」


 それを聞いてロシュートは思わず鋭いな、と呟きそうになるが、代わりに無言で弓に矢をつがえた。茂みから少し身を乗り出し、男たちの進行方向の地面に狙いをつける。


 大風の使徒たちはロシュートの姿に気づかない。だが、逆に彼からはその姿はよく見えていた。


 ロシュートは瞳孔が開いた目を凝らし、呼吸を止める。


 瞬間、周囲の時の流れが遅くなるような感覚が訪れ、大風の使徒たちの身にまとう風の流れが可視化される。狙った地面までの距離を感覚的に把握したロシュートは、その土が踏まれる直前のタイミングを見計らって矢を放った。


 木々の間を縫うように飛行する矢。その羽には細い糸がくくりつけられている。


 矢は糸状の細い軌跡を残し、ロシュートの狙い通り使徒たちの先頭にいる男の足元に突き刺さった。


「なんだっ!?」


 暗闇の中、突如足元に何かが突き刺さった男ははじめて自分たち以外の存在を意識する。


 だが、もう遅い。


 ロシュートは腰のポーチから伸びた糸を右手で掴み、ベルトに挟んだ魔導書に触れながら詠唱する。


「『ソイルウィップ』っ!」

「なっ?うわああああああああああ!?」


 彼の詠唱から瞬きほどの時間を置いたのち、声に驚いた赤衣の男の足元ーーー矢の着弾地点から蛇のようにうねる土の鞭が踊り、素早くその両足に巻き付いて拘束する。


 矢にくくりつけられた紐を伝って魔力が流れ込み、魔法を遠隔発動させたのだ。紐には魔力伝導液が練り込まれており、もちろんユイナのアイデアだ。


「サーシャっ!」

「『エンレグレス』っ!」


 掛け声に合わせて詠唱したサーシャの薙刀杖から放射状の光が放たれると、それを浴びたロシュートの脚部が熱を帯びる。


 彼はそのまま駆け出すと倒木や岩を軽々と飛び越えながら疾走し、あっという間に6人の大風の使徒たちの前に躍り出る。


「お前、いったいどこから!」

「その質問には答えられねえな!『ソイルウィップ』!」


 驚愕する男に体当たりして倒したロシュートはそのまま両手を土の鞭で縛り上げる。


「まずい、襲げっ!?」


 目の前の仲間があっという間に無力化されたのを見て反撃に出ようとする残りの使徒たち。だが彼らが最後まで発声することはできなかった。


 木の上から飛び降りたエルフの青年たちは使徒たちがロシュートに注意を奪われている間に背後から接近し、ロープで首を絞め彼らの脳への酸素供給を停止させた。使徒たちはもがくが、意識の埒外(らちがい)からくる完全な不意打ちに対応できるはずもなくひとり、またひとりと意識を奪われていく。


 ロシュートが取り押さえた男の元にも、サーシャが駆け寄ってきて薙刀杖を向けた。


「貴様ら、なぜ私たちのことがそんなにも視えている!?」


 背中にかけられた圧力に屈しない意思を示すように男は声を絞り出す。

 その目は薙刀杖を持つ少女を睨みつけ、彼女は申し訳なさそうに頭を下げるが薙刀を下げることはない。


「痛いと思いますけど、ごめんなさいっ!」


 ゴッ、ゴッ。


 サーシャに薙刀杖の柄部分で殴打され、取り押さえられていた男の身体から力が抜ける。医療術を学んだ彼女が男を的確に気絶させるその迫力にロシュートは少々おののいた。


「サーシャ。お前がやらなくても俺が気絶させることもできたんだが……」

「いえ、ロシュートお兄ちゃんの手を煩わせるまでもないです!こう見えても腕力にはちょっと自信あるんですよ。宿の手伝いって結構力を使うので。そ、それに今はユイナさんから教えてもらった魔法でちょっと強化もできますし!」

「そ、そうか。偉いぞ、うん」


 サーシャが興奮のあまりすこしおかしくなっているような気もするが、ロシュートはとりあえず男の背中から降りると残りの使徒たちも土の鞭で縛り上げ、魔導書も取りあげて近くの茂みに隠した。これで目を覚ましたとしても、しばらくは動けないはずだ。


「しっかしなんで視える、ねえ。確かに不思議だよなぁ、こんな暗闇で見えるってのは」


 ロシュートは気絶する直前に男が口走っていたことを思い出して呟いた。


 現在ロシュートたちはサーシャの【生命力】魔法で眼を暗闇に適応させていた。


 魔法の考案者はユイナで、曰く「瞳孔を拡大するのと、視神経の感度をちょっと上げることで暗視が可能になる魔法、名付けて『梟の眼(オウルアイ)』!元の論文をちょっと応用したらこんなことができるなんて、破格の便利さだな【生命力】の魔法!さっすが新分類!」とのこと。


「この人たちって、気絶している間に魔物に食べられちゃったりはしないんでしょうか……」


 いましがた自分が殴って気絶させた男の顔を見ながらサーシャは心配そうに呟いた。彼女にとって彼らは確かに敵ではあるが、命を奪おうとまでは思えないのだ。


 そんな彼女の懸念をエルフの青年、アダンは否定する。


「今はまだ完全に夜にはなってないし、魔物たちは基本的に臆病だからね。これだけ騒いでいればここらにはもういないだろうし、人の匂いが消えるまでは近づこうともしないはずだよ。ただよっぽどお腹が減っているか、あるいは……」

「体内の魔法陣が暴走していたら別、ということですよね。ならなおさら早く事態を収拾しないと」

「それも大事だけど、サーシャちゃんは怪我とかないかい?」

「え?はい、大丈夫ですよ。さっき転びかけましたけど、ロシュートお兄ちゃんが支えてくれましたし」

「そうか。まあでも、無理はしないでね。言ってくれれば僕らが全力で手助けするよ」

「ありがとうございます。助かります」


 サーシャを囲んでやいのやいのと騒がしいエルフの青年たちに彼女が丁寧に礼をすると、彼らは一層盛り上がった。


 森での行動に不慣れな彼女がそれでもロシュートたちと共に地上部隊に配属されている理由のひとつは彼女の操る【生命力】魔法がかなり応用の利く代物であり、彼らよりも数で勝る大風の使徒たちを打倒するのに不可欠である、というもの。


 彼女は暗視以外にも、村に来る際にトカゲに使った『サンプル4』を応用した身体強化の魔法が使えるようになっており、実際先ほどもロシュートは『エンレグレス』で脚を強化することで大風の使徒をひとり無力化するのに成功している。


 そしてもうひとつの理由は(これはロシュートしか聞かされていないが)エルフの青年たちの士気を高めるためとのこと。作戦説明の際にも目立っていたが、サーシャはエルフの青年たちに熱烈な人気を誇っている。


 作戦立案者(ユイナ)曰く「ほら、俺が守護(まも)る!ってやつよ。聖女枠っていうの?戦いを仕掛ける側なんだから、女神(ヒロイン)のひとりでもいた方が先走りすぎずにイイ感じでまとまると思うんだよね」とのこと。


 ユイナの読み通り、エルフの青年たちはサーシャを囲むことで戦いに赴く緊張感を程よく緩和できているように見えるが、ロシュートは彼らの中に妻帯者もいるのはいいのかな、と事が済んだ後のことが少し怖くなった。


 もっとも、その場合に詰められるのはサーシャではないだろうが。




 最初の戦闘のあと、見張りを排除しながら森の中を進むこと数刻。


「みんな、止まって」


 ロシュートは手で合図しつつ、小声で言った。彼の隣をついてきているサーシャはもちろん、彼の声を風属性の魔法で拾っているエルフたちも進行を停止する。


 皆の動きを確認したロシュートは息を潜めつつ、静かに前方へにじり寄る。


 彼らはなだらかな丘状になっている森林を進んでいたが、木々があるのはロシュートのすぐ前方まで。緩やかな坂道は崖状の地形によって途切れている。


 その崖側まで近寄ったロシュートは、眼前に広がる光景に思わず息を呑み、つぶやいた。


「ここが『静謐の庵』……!」


 彼の目の前に現れたのは、ひとつの村かと思えるほど大規模な円形の広場だった。


 ウィンディアン村を出発してから辿り着くまで一切手の加わった様子のなかった森林に突如ぽっかりと出現したその地形は、明らかに人工的な工事によって掘り下げられたものだ。


 広場には赤衣を纏った者たちが大勢ひしめいており、忙しなく動き回るもの、膝をついて祈るものなど様々だ。彼らの足元では薄く透き通った水を張った地面が明かりを反射して煌めき、松明の持ち主が移動するたびに発生する小さな波に揺らぐ光の残像を生み出す。


 さながら湖面に人間が立っているかのような不思議な光景。


 その中央には一目でそれとわかる『祭壇』がある。


 祭壇は中央にあるモノを囲むように輪状の足場を積み上げたような形をしており、所々に小さな階段が設置されている。各所に松明が灯り、捧げ物をするための小さな台なども多く見られることからロシュートの考える儀式場の雰囲気と全く同じ様子だ。


 しかし決定的に異様な点がひとつある。


「カエデの話と違う。さてはあいつら切り倒したな?」


 ロシュートはカエデから儀式場の中央には祈りを捧げる御神木、神聖な大木があると聞かされていたが、目の前の光景の中にそれは見当たらない。


 代わりにあるのは巨大な切り株と、その上に設置された大掛かりな魔法機とその土台。


 ロシュートとカエデが見た魔法機、それをはるかに上回るサイズの巨大な結晶が儀式場の中央でゆっくりと回転していた。土台に接続されている多数の魔法陣の側には大風の使徒たちが配置され、彼らから供給される魔力で中央の結晶を制御しているという点は同じのようだ。


 だがロシュートの眼前にあるそれは、明らかにその禍々しさにおいて各地に設置されているそれを凌駕している。


 細長く縦に伸びた巨大な赤い結晶の表面には古傷のように複雑な魔法陣が浮かび上がっている。それらの路が欠陥のように張り巡らされた中央には休憩の赤い塊が埋め込まれている。


 ロシュートはそれを初めて見る。が、すぐにそれが何かを直感した。


「あの魔法機、心臓があるのか……!」


 儀式場の中央、親機と思われるその巨大魔法機に埋め込まれた赤い核は脈動していた。硬質な結晶内部で蠢くそれは、あまり宗教的信仰に熱心でないロシュートでもすこしクラッとくるほどに冒涜的だ。


 心の臓に見立てた核。


 身体中を駆け巡るかのような魔法陣の路。


 魔力伝導性の高い液体、赤き血潮。


 結晶魔法機、その親機は無機質でありながら、構造(システム)として生物を模倣して組み立てられているのだ。


「あ、あんなものを神聖な森に……」


 ロシュートに続いて『静謐の庵』を見たエルフたちは、自らの信仰を侵されるような感覚に言葉を失った。『凪神様』信仰を持たず、さらに医療術を学んだことで多少なりとも生命が持つグロテスクには慣れているサーシャでさえ、おぞましい魔法機を見ていられなくて目を背けた。


「……冷静になるんだ、みんな。俺たちは、アレを止めるためにここに来たのだから。もっと状況を把握しないと」


 全員の気勢が削がれたのを察知したロシュートは、自らが先立って精神的な衝撃を振り払おうと言葉を紡ぎつつ、更なる情報はないかと目線を動かす。


 と、祭壇の上に登る人物が目に留まった。


 白銀に褪せてはいるが、元々は金色であったのであろう髪。狂気に満ちた右眼と、閉じられた左眼。手の骨で作った首飾りに真紅のローブ、その下には包帯の隙間から生々しい傷としての魔法陣を刻まれた病的な素肌が覗いている。


「ヴェルヴェット、大風の使徒の司祭……!」


 ヴェルヴェットが祭壇の頂点、大魔法機のそばに立つと大風の使徒たちは彼女を向いて跪いた。ロシュートたちのいる方にちょうど背を向ける形だ。


 どうやら背中側に回り込めたらしいとわかったロシュートは少し安堵したが、わずかな夜明かりを覆う巨大な影がその感情を押しつぶす。


 ブラッドワイバーンだ。


 ブラッドワイバーンは儀式場の真上を軽く旋回すると、大魔法機のすぐそばに降り立った。まるでヴェルヴェットに従う騎士のように、首を振って大風の使徒たちを睨みつけている。


 分かってはいても恐怖を覚えるブラッドワイバーンの姿にロシュートたちだけでなく周囲の全ての生命体が静まり返ったところで、ヴェルヴェットは口を開いた。


「偉大なる『荒神様』の使徒たちよ。ついにこの日が来た!これより『目覚めの儀』を行い、大嵐の主ラ・テンペスタを復活させこの国を救済する!」


 声量では遠く及ばないのに、不思議とよく通る声でヴェルヴェットは演説する。


「我々、翅のない二本足の徒は生まれ落ちたその日より背負いし罪によって他者を赦せず、他者を蹴落とし、同胞でさえも食い物にしなくてはならない。これは肉体を持つ限り我らが手放せない業でありながら、この国ではそれを自覚すらしていないものたちが我が物顔で他者を、自然を搾取し、矮小な種族内の王さえ定めてのさばっている!我々『大風の使徒』の使命は自らの愚に無知である彼らを肉体の檻から解き放つことで救済し、自らもまた救済することだ!」


 ヴェルヴェットの他に誰も言葉を発しない。だが『静謐の庵』には狂気とないまぜになった静かな熱気が確かに立ち込めていた。


 白銀の女は演説を続けつつ、後ろ手で大魔法機に触れた。結晶の回転が速くなり、その頂点付近にあるキノコの傘のような構造体が展開を始める。


 ロシュートはそれを見て、妹から渡されていた道具を取り出した。筒状になっているソレには紐がついており、引っ張ることで元々練り込んであった魔力が内部の魔法陣に流れ込んで小さい火の玉が打ち上げられる仕組みだ。


 ユイナ曰く信号弾。


 簡略化した狼煙のようなもので、待機中のユイナ、カエデに作戦開始を伝えるための手段だ。


 当然多くの目がある状況で使えば目立つため、ロシュートはなるべく大風の使徒たちの目線が逸れるタイミングを見計らっていた。幸いヴェルヴェットは背を向けているわけだから、使用するチャンスはあるはずだ。


 そう考えつつ彼が待ち構えていると、幸運なことにその機会はすぐに訪れた。


「我々の使命を果たすには『荒神様』の復活は不可欠である!首を垂れよ。荒神様は今宵、我々を、国を、救済してくださるのだ!」


 ヴェルヴェットの演説により、周囲の大風の使徒たちが一斉に頭を下げた。ヴェルヴェット自身も、ロシュートたちに背を向けている。


(今だ!)


 ロシュートが紐を一気に引き抜いた次の瞬間、シュッ、と小さな音と共に火球が空へと打ち上げられる。彼は空を見上げ、森のはるか上空まで飛んだ火球がしばらく滞空したのちに消えるのを確認した。


 これでユイナにも合図が見えたはず。


 彼は再び視線を儀式場のヴェルヴェットに戻す。



「なるほど、そこにいたんだぁ」



 そして()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ロシュートたちに背を向けていたはずの、見えていなかったはずのヴェルヴェットは、それでも彼の方を正確に振り向いたのだ。


「そっちの方から来るなんて、手間が省けるね。さて、私の(いと)しい(いと)しいカエデはどこにいるのかな?」

読んでいただきありがとうございます!

長くなってきたので明日も更新します!

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