THE LEGEND ドン底からの奇跡
2020年、なろうデスゲーム。
英雄はダンジョンから来た。なろうデスゲーム史上ただ1作、
"前回3ケタPVから1桁順位まで上り詰めた作品"
現代ダンジョンマスターの生存戦略〜日常が崩壊した世界で植物系迷宮主になったので生き残る方法を模索中です〜
奇跡を起こした来訪者。
・“530”からの奇跡
前回と比較して100倍ものPVを稼ぎ、堂々ベスト5に名乗りを上げたのは平和な松ノ樹先生の作品。第2回中間発表におけるPV数はたったの530。これは、投稿日が第2回中間報告の前日であることに起因している。作者は、ここから凄まじい伸びを見せた要因を『ランキングに載れたから』と語っている。
これは、ランキングに載ることができれば奇跡をその手に握ることができるも同然であるという事実の証明に繋がる。早速この作品を分析していこう。
・分析:PV数
PV数の推移は以下の通りである。
まるで反り立つ壁のような増え方をしているのが分かるだろうか。投稿序盤はそこまで強い伸びを見せていないが、4日目に日間4桁PVの大台に乗ると、そこからさらに上昇。投稿8日目頃から伸びが強くなり始め、10日目には1万PVを達成。そこからも最低7千PVは稼ぐことができるようになり、終わってみれば5万PV達成と結果としては上々のものである。
・分析:投稿頻度
投稿頻度を調べるにあたってはこの小説はとても楽であった。なぜなら、すべて予約投稿で行われているからである。予約投稿は他の作品に埋もれるデメリットが強調される傾向にあるが、それでもこのように結果を残せたというのは面白いデータではないだろうか?
傾向として、1日2回の投稿をゲーム終了まで行っている。さらに、投稿初日には朝昼晩と3回の投稿。やはり、1日に複数回投稿するというのはある程度有効な手段であると考えられる。
さらに面白いのが、1日2回の投稿にパターンを見出せないという点だ。午前と午後に投稿されていることまでは分かるが、具体的な時間となるとてんでバラバラなのである。この効果でいろんな時間帯に存在するであろう読者を、まるで投げ網のようにすくい取ろうとしていたと考えられる。
・分析:小説そのもの
①文字数
文字数の平均は2320文字。分量不足と言うには多いが、かといって分量が足りているかといえばそうでもない微妙なラインだ。しかし、1話ごとが短めであってもPV数という点においてはそこまで影響がないとみてもいいだろう。
②文字の硬さ
はいはいいつもの。とても柔らかいという結果になった。この作品の序盤は主人公のモノローグでほぼ構成されているが、どれも独り言を話しているという印象があるので、この判断は正しいとみている。
これは序盤を切り抜けても同様で、地の文の分量が異常に多い。そうなれば、地の文が硬くなってしまうのは致命的である。あえて地の文を多くする戦法をとるのであれば、フニャフニャになるまで文章を軟らかくする作戦は理にかなっていると言えよう。
③タグ
タグについては以下の通りである。
残酷な描写あり ダンジョンマスター ダンジョン運営 ダンジョン経営 現代ファンタジー ステータス 植物 人外 魔王 勇者 チート? 魔法物理 ポイント制 掲示板
ダンジョン運営とダンジョン経営って何か違うんすかねと一瞬思ってしまった。分かんないときは検索をかけてみよう。
ダンジョン運営:207
ダンジョン経営:300
ダンジョンマスター:841
ダンジョン:14294
ダンジョンがゲシュタルト崩壊を起こしそうになってくるが、10月22日現在で検索をかけるとこの通りである。まず普通にダンジョンとサーチしただけでは14294もの小説の中から探し出すことになってしまう。そこにある程度の追加要素を入れることで、サーチの絞り込みを狙ったのだろう。
さらに面白いのが『チート?』である。これはチートでも引っかかるのだが、なんと『チート?』のタグだけでも1000件近くヒットしたのだ! 分からなくても取りあえずなんか埋めとけは定期テストの常套手段であるが、どうやらそれは小説家になろうでも同じのようだ。
④総評
地の文が多く占めるこの作品であるが、あえて地の文を多くして会話を減らすことで主人公への没入感を高めているのではないかと考えられる。この没入感というものがなろうにおいてはよく語られている。
これは私個人の考え方ではあるのだが、なろう読者が没入しているのは主人公そのものではなくて、主人公のもつ能力ではないかというものだ。読者が主人公の能力を間借りして気持ちよくなる。そんな意志をどうもひしひしと感じてならない。
当然これがすべてでは無いが、ともすれば会話が邪魔であるという状況に陥る作品というのも存在しうる話だ。この作品ではダンジョンマスターという観点から見て、会話を必要としないと判断したのだろう。それならば、スナック菓子のような地の文を大量に配置するというのは理にかなっている。
・個人的感想
ローファンタジーってダンジョンもの多いイメージあるし、ハイファンタジーと比較すればまだ見られやすいのかも? 作品としてはなろう特有のステータス表示にスキルと、読者ウケもバッチリ。なろうテンプレを苦無く読めるのであれば気に入る人が多い作品であると思う。
・追記
なんと作者様ご本人から感想をいただくことができました。誠にありがとうございます。その感想を辿ってみると、本文で述べたこと以外にも述べるべきポイントが存在することが判明したので、ここで追記させてもらう。
① 序盤の戦法
序盤に複数話投稿することの優位性は何度も述べてきたが、なぜ複数話投稿すべきなのかという点に関してはあやふやな部分が存在していた。当然複数話投稿すれば読者の目に入る確率が上がる。では、何のために確率を上げるのか? 作者が述べたのは、ミスマッチの減少である。
ひとくちになろう読者と言っても、文章の好みは大きく分かれる。会話文主体の作品が良いのか、地の文主体の作品が良いのか、地の文は硬めがよいか柔らかめがよいか。話は軽いほうがいいのか重い方がいいのか。家系ラーメンかな?
序盤に複数話投稿することは、それらの指標を読者に向けてアピールすることに繋がる。作品が示している方向性をアピールすることで、それを好む初期読者をつける。その結果が、わずかな日数であっても3桁PV稼ぐことができたきっかけだろう。
② 投稿時間
投稿時間がバラバラなのはどの時間が伸びがよいかを探るため。やっぱり作者の人そこまで考えてないじゃないか。だが、この試みは一つの事実を提供することに繋がった。
投稿時間のベストは読者層によって異なる。今回紹介した作品の場合は、7時、14時、21時がよいと語っていた。しかし、それが全ての作品で普遍的であるとは限らない。
大事なのは、『その作品がどの層を狙った作品か』である。学生を狙うのであれば登校と下校のタイミング。会社員等の大人を狙うのであれば昼休みと夜寝る前だとか、そういうものだ。下手な鉄砲も数打ちゃ当たるとは言うものの、ある程度絞って撃つのが肝要だ。
③ 文章やわらかめ味濃油少
地の文が柔らかいと本文で述べたが、作者はやはりこれを狙って生み出していた。一度文章を完成させた後に、読みやすくなるまで砕いた後語尾を修正して投稿。ボトルシップでも作っているのかと言わんばかりの工程によって文章の軟らかさが生み出されていたのだ。この手法は参考になる人も多いのではないだろうか?
ちなみに地の文多めのスタイルは作者の癖だそうだ。癖は時にして大きな武器となる。
④ タグ
最も参考になるのはタグの選び方だ。タイトルの破壊力も大事だが、タグの付け方も戦況を大きく左右する。作者がどのような心理でタグを付けたのかを見てみよう。
まず、ダンジョンマスターに関する作品でかつトップ層の作品のタグを集め、その後に設定を詰めている。まさにコペルニクス的転回、作品からタグを生み出すのではなく、タグから作品を生み出していたのだ! 強いタグをパーツとして作品を組むというのはTCGにおけるデッキの組み方に通じるところがある。かつての遊戯王で存在したプトレノヴァインフィニティに近しいか。
さらに強力な誘引効果のあるタグとして、人外、ステータス、TS、職業などが上げられた。これらに関しては、根強いファンが一定数存在するタグであり、それらのパーツを主要素としてデッキを組むことができる。
そしてTCG『小説家になろう』界において禁止カード行きに近しい汎用性の高いカードを入れる。ただしこの入れ方も工夫すれば、『流行ってるデッキで勝つのはちょっと……』とお思いの心優しい投稿者の助けになるだろう。
汎用性の高いカードとは何か。『主人公最強』『チート』『ハーレム』『ざまぁ』の四天王である。恐ろしいのが、このカードだけでシナジーが存在する点。なんならこれを主軸にして作品を書いてしまうということもできなくはない。当然これをそのまま入れるのもよいが、変化球を投げることもできる。
ここで本デスゲームでも話題になったノクターンノベルズの話をしたい。ノクターンノベルズは言わずと知れたエロの宝庫であるが、当然、そこもなろうと同じくタグが存在する。筆者はNTR(寝取られ)ものが好きであるため、NTRで検索をかけることがある。その度にこう思うのだ。
『NTR要素はありません』まで一緒に出すんじゃねぇ!
もう言いたいことは分かるだろう。なろうにおける検索とは、あくまで検索文言が存在するか否かを判別している。故に、『主人公最強?』だとか『チート?』だとか、ちょっと匂わせる程度でもちゃーんとヒットしてしまう。ここまでは筆者も確認済みである。
しかしさらに上を行く事実が判明。以下、作者様が送ってくださった感想欄より引用。
『後同じく強いのは、【主人公最強】から検索で出る【主人公いずれ最強】です。
なろう最強ワードで入れるのは強いです。』
引用終了。……えっ、マジで? これが正しいならば、『主人公最強』で検索すると、筆者が書いたデスゲーム用作品に投入したタグ『主人公≠最強』がヒットすることになるのではないか? 実際に調査してみた。
調査の結果、『主人公最強』と検索しただけでは出てこない。その代わりに『主人公最強?』のタグが付けられた作品はしっかりとヒットしていた。『主人公 最強』で検索を行うと、筆者の作品もヒットする。『主人公いずれ最強』も出てくるのは明白だ。
おそらくプロのなろう読者は『主人公最強』で検索することで純度の高い最強主人公を抽出している。しかし、グーグル検索でもするかのように『主人公 最強』でヒットする可能性も十分に存在する。そこに販路の拡大を示すのはアリだろう。
もしも今このエッセイを読んでいる読者様の中で、デスゲームに参加した上でえげつないPV数を取りたいというデスゲームからの成り上がりを切に望む者がいるのであれば。『チート要素はありません』のような、四天王に絡めつつそれが存在しないことを示す文言をあらすじやタグには入れないことをオススメする。
タイトルで『チートがなくてもがんばるぞい!』みたいに書かれていればまだ理解できるし、ちょっと応援したい、みたいな情が湧くだろう。だが、まるで地雷のようにあらすじやタグに仕込むとどうなるか。
『ちょっと待って! チートが入ってないやん! チートものが読みたかったから検索したの!』
と要らぬ反発を招いてしまうだろう。
⑤ ジャンル
ローファンタジーやVRゲームのような、比較的ランキングに乗りやすいジャンルというのは一度乗ってしまうと一気にブーストできるというのは確かなようだ。
⑥ まとめ
作者様の実感と、比較的読者側に近い筆者が想定した思惑を適合させることで、かなり有意義な調査になったのではないかと思う。本話のタイトルは『ドン底からの奇跡』と銘打ってはいるが、やはり奇跡というものは起きるべくして起きるものだと改めて実感する次第である。
分析した作品はこちらです。
https://ncode.syosetu.com/n8061gn/