前編・10話(シンデレラ、赤ずきんなど)
うさぎ「かけっこの競争をしよう!」
カメ 「イヤ」
■シンデレラ
王子「昨日の舞踏会で踊ったお嬢さんに、また会いたい!」
側近「なんで、名前も訊かずに帰しちゃうんですかね~?」
王子「だって、お嬢さん。突然『もうすぐ、12時の鐘が鳴っちゃうわ! マジヤバ』って喚きつつ、全力疾走で消えちゃったし……」
側近「そこはかとなく、〝地雷女〟のカオリが……。それで、何か女性を捜すための手掛かりはあるんですか?」
王子「うん。彼女は、ガラスの靴を落としていったんだ。この靴にピッタリ合う足の女性を見付ければ……」
側近「王子、貴方様はお馬鹿なのですか?」
王子「何で?」
側近「同じサイズの靴を履いている女性が、この国には何人居るとお思いですか?」
王子「それは……」
側近「お嬢さんの容貌で捜索したほうが、手っ取り早いです。人相書きを作りましょう」
王子「イヤ。彼女の顔は、良く覚えていないんだ」
側近「ど~してですか?」
王子「彼女の胸ばっかり、見ていたので」
側近「…………」
王子「Eカップだった」
側近「他に、特徴は?」
王子「そうだなぁ……。あ、そう言えば、彼女からはカボチャのニオイがした」
側近「ハ?」
王子「カボチャ」
側近「…………」
シンデレラは王宮の舞踏会へ、魔法使いが用意してくれたカボチャの馬車に乗って向かったのです。彼女の身体にカボチャのニオイが染みついていたのも、無理からぬことでしょう。
数日後、王国中に『王子様が、ある女性を捜しています。「恋してしまった。結婚したい」と仰せです。先日の舞踏会で落ちていたガラスの靴に足がピッタリで、胸はEカップで、全身からカボチャのニオイがする方は、ぜひ名乗り出てください』との布告が出されました。
誰も名乗り出ませんでした。
■一休さん
ある日、小坊主の一休さんが町へお出掛けしました。
町の中を流れる川には、橋が架かっています。ところが、その橋は通行止めになっていました。渡り口の傍らには掲示板が立てられており、『このはし、わたるべからず』と書かれています。
一休さんはその立て札を眺め、笑いました。
「アッハッハ。〝端〟を渡っちゃいけないんだったら、〝真ん中〟を行けば良いんだ。僕って、お利口~」
意気揚々と橋を渡りはじめた一休さんですが、途中で川へ落っこちてしまいました。橋の床板は酷く傷んでおり、そこを踏み抜いてしまったのです。
町の人達の手によって、一休さんは救出されました。けれど「やれやれ、坊主。この橋は、修理中なんだ。ちゃんと掲示板に『この橋、渡るべからず』とあっただろう? 注意書きは、守らなくちゃダメだぞ」と皆に叱られてしまいました。
■マッチ売りの少女
少女は、放火未遂の現行犯として逮捕されました。
出所後、マッチ箱に広告印刷する商法を思いつき、大富豪になりました。
マッチで財をなし、《ミス・マッチ》と讃えられる一方、男運は終生悪かったと言うことです。付き合う男性との相性が、常にミスマッチだったのです。
■赤ずきん
森の中を1人で歩く赤ずきんちゃんを、たまたま通りかかったオオカミさんが見掛けました。
赤ずきんちゃんの行く先は、お祖母さんの家。オオカミさんは先回りし、お祖母さんが1人で住んでいることを確認します。
オオカミさんは、赤ずきんちゃんの自宅を訪ねました。
「アンタが、赤ずきんの母親か?」
「はい、そうですけど」
「あんな小さい子に1人で森の中を歩かせるとは、不注意にも程がある! アンタは、もっと母親としての自覚を持つべきだ。それに、年老いたお祖母さんを森の奥で1人暮らしさせているのも怪しからん。嫁失格だ!」
オオカミさんは、お節介なヤツでした。
(なにコイツ、うざい)とお母さんは思います。
「あの、オオカミさん」
「なんだ、迂闊な女」
「うちの旦那の職業をご存じ?」
「知らないが?」
「猟師です」
「…………」
「…………」
オオカミさんは、立ち去りました。
■金の斧と銀の斧
樵が、斧を泉の中に落としました。
泉の底に居た女神様は、斧の直撃を受けてお亡くなりになりました。
後日復活した女神様は、樵の家に斧を持って現れ……(以下、自粛)。
■おむすびころりん
おむすびは三角形でした。
転がりませんでした。
■猿蟹合戦
偉い学者先生「現在、世間に良く知られている猿蟹合戦の内容は、江戸時代に書かれた軍記物、つまりは2次史料がもととなっています。実際に合戦が行われた時代の1次史料によると、その経過はもっと単純で、発端も単なる猿と蟹の縄張り争いであり……」
歴史のロマンが……(泣)。
■オオカミ少年
ある村に、羊飼いの少年が居ました。
少年が「オオカミが羊を襲いにきたぞ~」と叫びます。村人みんなは慌ててやって来ましたが、オオカミの姿は何処にも見あたりません。
しょっちゅう、少年は「オオカミが来たぞ~」と騒ぎ、そのたびに村人は集まってきます。
そしてとうとうある日、村へオオカミの大群が襲来します。
少年が「オオカミが来た~!!!」と大声を出すや、手に手に武器を持った村人たちは迅速に集結し、あっと言う間にオオカミの群を追っ払ってしまいました。
賢い少年は、緊急事態に即応するためには、日頃の予行演習が如何に重要であるかを知っていたのです。
■シンデレラ・その2
義姉(長女)「シンデレラ。なんで『ガラスの靴を落としていったのは、私です』って、王子様に名乗り出なかったの?」
シンデレラ「お姉様たちだって、私の性格は知っているでしょ? 私は臆病で繊細……靴だけじゃ無く、ハートもガラスなんだから」
義姉(次女)「〝ガラスのハート〟ね~。招かれてもいない王宮の舞踏会へ単身で乗り込んでいった、そのド根性。心臓に毛が生えているとしか、思えないんだけど……」
■忠臣蔵
元禄15年12月14日、赤穂浪士は吉良邸に討ち入りました。
昭和の御代。
「やぁやぁ、吉良上野介さん」
「これはこれは、大石内蔵助さん」
「寒くなってきましたね」
「今年も12月がやってまいりましたな~」
「本年もお屋敷へ討ち入らせてもらいますので、どうぞ宜しくお願いいたしますね」
「ハイハイ。準備万端に整え、お待ちしておりますよ」
「毎年毎年、申し訳無い」
「いえいえ。『忠臣蔵』は日本の伝統。映画・舞台・TVドラマと、まさに師走の風物詩。これが無いと、よい年末は迎えられません。私も討ち取られるのを、毎年楽しみにしているのですよ」
「さすが、吉良さん」
「では、屋敷で首を洗って待っています」
「私も、そろそろ同志に声を掛けないと……」
平成の御代。
「やぁやぁ、吉良上野介さん」
「これはこれは、大石内蔵助さん」
「今年は、討ち入りますよ!」
「良かったです。去年は討ち入りが無かったもので……今年も無いんじゃないかと、心配していたところです」
「最近は『忠臣蔵』の知名度が落ちてきていて……」
「『新撰組』などが人気ですからな~」
「新撰組の方々が、私たち赤穂浪士をリスペクトしていたことなど、平成の日本人にも知って欲しいです。あの新撰組隊士制服のだんだら羽織も、私たち赤穂浪士の討ち入り装束を参考にしたものなのに……」
「歌舞伎バージョンの装束ではありますが」
「今年の討ち入りは盛り上げて、『忠臣蔵』への支持を取り戻しましょう!」
「良いですな~。陣太鼓も、派手に鳴らしてください」
「一打ち、二打ち、三流れ。これぞ、山鹿流の陣太鼓~」
「であえ~、であえ~」
令和の御代。
「……やぁやぁ、吉良上野介さん」
「……これはこれは、大石内蔵助さん」
「討ち入りは今年も……」
「無しですか」
「時代劇自体の人気が、下火でして……」
「令和になってから、いつも討ち入り無しで年末を迎えています」
「私も近頃、陣太鼓を鳴らした記憶が……」
「昔は、あんなに討ち取られていたのに……」
「多いときには、年に3回くらい討ち入っていましたからね」
「このままでは、〝斬られロス〟になってしまう」
「斬られロス……」
「斬られたい、斬られたい、吉良れたい、吉良屋敷のKILLれ隊……」
「吉良さん、しっかり!」
吉良上野介さんの健康のためにも、令和での『忠臣蔵』人気復活をお祈りしています。
「雪女です。沖縄県出身です!」
「嘘はダメ」
「砂かけ婆です。ぴちぴちの16歳です!」
「嘘はダメ」
「一寸法師です。将来の夢はビッグになることです!」
「だろうね~」