8 走る
成瀬宅から出た私は駅まで全力で走った
陸上部で培った体力と脚力かどうかは知らないけど、十五分ほどで駅に着き電車に乗る
家を出てからと言うもの零次のことが頭をぐるぐる回っている
一刻も早く零次の顔を確認したい
早く零次と会いたい
そんな欲求と戦っている内に病院へと辿り着く
第三病棟の受付で零次のことを聞き、手術室の前まで行く
手術室では手術中の電灯が光っており
部屋の前の通路では声村医師が緊張した面持ちで座っていた
「声村先生...零次は...」
こちらに気づいた声村医師が私に向かって手招きをし、隣に座らせた
「...照美ちゃん、零次くんは【愚羅】によって右腕を切断されて...呪いの摘出に成功しないと、後遺症として右半身が麻痺する可能性があるわ」
「愚羅...って、零次は愚羅にやられたんですか⁉︎ それに呪いって...」
「呪いというのは愚羅の体表面に付着している粒子の名前で、人体に入ると神経が麻痺するの。幸い零次くんは切断されてすぐに発見されたから手術の成功率は高いけどね」
手術の成功率が高いと聞いて一度はホッとした私だったが
すぐに気を引き締めて零次の詳しい容態を聞く
声村医師によると見つかったのは電話をかける二十分前
零次の家の近くにある森の中で崩れかけの愚羅の体と共に発見された
発見時既に意識が無く、右腕が切断され大量に出血していたと
声村医師と話していると手術中の電灯が消えた
そして、扉の中から 零次が出て来た
「っ...零次...」
零次の体はボロボロで右腕の上腕から先が消失していた
この姿を雫が見たら今この場で零次に飛びつき泣き出してしまうだろう
「......照美ちゃん、もう今日は帰りなさい。これ以上ここにいたら時間が遅くなってしまうわ」
「......わかり、ました」
声村医師の言うことを聞いて家路に着く
親に一言入れて今日は成瀬宅で夜を越すことになった
あのままの雫じゃ何をしでかすかわからない
一度家に帰り、制服や着替えなどのものを準備する
「あら、どうしたの? 照美」
「あ、お母さん...実は......」
お母さんに今までのことを説明した
「そう...確かに雫ちゃんが心配ね、いいわ、零次くんが回復するまで成瀬さんの家で寝泊まりしていいわよ」
「ありがとう、お母さん」
お母さんの許可も貰ったことだし
改めて着替えを用意して成瀬宅へ向かった
「お邪魔しまーす」
合鍵を使って成瀬宅に入る
変わらずリビングにライトは付いておりその中央にあるソファに雫ちゃんが座っていた
「雫ちゃん...?」
雫ちゃんの近くによって俯いている雫ちゃんの顔を覗き込んでみる
「お兄様...」
雫ちゃんの目は虚ろに
気が狂った様に零次のことを呟いている
「雫ちゃん!」
目を覚まさせるためにはやむを得まいと、一度頬を叩く
「お兄......あれ...照美...ちゃん?」
雫ちゃんの瞳に光が戻った
「雫ちゃん、零次なら大丈夫...今のところ後遺症の可能性は低いし、心肺停止したわけじゃない。貴女がちゃんとしないと、零次の目が覚めたときに安心して家に帰ってこれないよ」
「照美ちゃん...すみません、気を取り乱しました...」
「よし! 今日から特別に、零次が目を覚ますまで私が雫ちゃんのお姉ちゃんになってあげよう!」
「ふふっ、照美お姉様、ですね」
その後、もう夜も遅いから寝よう
とゆうことになり
私と雫ちゃんで一緒にお風呂に入って
同じ布団で寝た
ただ、
二人とも何か欠けていた
零次が居なくなるだけでこんなにも足りなくなるなんて
「零次......」「お兄様......」
二人の呟きは、何もない天井に消えていった
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