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3 迷子と黒

 住宅街に差し掛かった


 その道中のこと



 僕は、女の子の啜り泣く声を聞いた



 一度周りを見渡す

 暗くてよく見えないが、家の塀の下にしゃがみ込んでいる女の子を見つけた


 心配になった僕は近くに自転車を置いて、女の子の元へ駆け寄った


 フリルがついたドレスみたいな洋服と綺麗な金髪が目を引く女の子だった


 「どうしたの? 大丈夫?」


 女の子は顔を上げる

 まだまだ幼いけど可愛らしい顔立ち、まるで人形の様で幻想的なほどの愛らしさだった

 危ないロリコンとかに見つかる前で良かった...


「...お兄ちゃん、だれ?」


 そりゃぁ警戒するよね


「僕は、成瀬 零次って言うんだ、君のお名前を教えてくれるかな?」


 女の子は少しの間黙っていたが、やがて口を開いた


禍暁(まがあきら) 茅音(かやね)......」


「茅音ちゃん、か...いい名前だね」


「‼︎ でしょ! パパがつけてくれた名前なの!」


「へぇー、茅音ちゃんはパパが大好きなんだね」


「うん!」


 名前を褒めると茅音ちゃんは嬉しそうに顔を輝かせ、満面の笑みを浮かべた


「それで、茅音ちゃんはなんでこんなところにいるの?」


「えっとね、一緒にお出かけしてた子がいるんだけど、その子とはぐれちゃったの」


「そうなんだ...いつ逸れたか覚えてる?」


「うーんと...お空がオレンジ色だった時」


え、それじゃあこの子、少なくとも一時間はここに居るのか⁉︎


「お家がどこにあるか分かる?」


「えーっと...森の中」


「森の中?」


 森の中って...“あの”森の中?


「もしかして、ここを抜けた先にある、あの森?」


「うん、多分そう」


 うーん、この子が嘘を言ってる様には見えないし...

 とりあえず、誰かがついていれば大丈夫か


「よし、それじゃあお兄ちゃんと一緒に、森まで行こうか」


 茅音ちゃんに手を差し出す

 手を繋いでいればまた逸れることもないしね


「...うん」


 茅音ちゃんはゆっくりと僕の手をとった





 右手で自転車を押し、左手で茅音ちゃんと手をつなぎながら住宅街を歩いた


 道中茅音ちゃんは自分の家についてを聞いていた


 曰く、とても大きな家に住んでいると

 沢山の執事やメイドがいて、父親とその友人達で暮らしていること

 父親は、良いことをすれば褒めてくれるし、悪いことをすれば凄く叱るそう

 褒めてくれてる時の父親は好きだけど、怒っている時の父親は鬼みたいに怖いと言っていた、何回かご飯を抜きにされた時もあるらしい


 なぜ母親がいないかは少し気になったが、もしも僕と同じで亡くなってしまっていたら傷を思い起こさせてしまうかもしれないので、茅音ちゃんから話してくれるまで自分から母親についての話題を振ることはない


「ほら、見えてきたよ、この森であってる?」


「うん!......‼︎」


 あと少しで住宅街を抜ける頃、森が少し見えてたので茅音ちゃんに確認を取る

 嬉しそうに返事をしたかと思えば茅音ちゃんは急に顔を強張らせた


「ん? どうしたの?」


「来て、お兄ちゃん」


「うわ⁉︎ ちょっと⁉︎」


 茅音ちゃんが急に僕の腕を掴んで引っ張った

 幼女とは思えないほどのスピードで森への道を走っている


「どうしたの⁉︎」


 茅音ちゃんが後ろを振り向く


 それに釣られて僕も振り向くと



 目を疑う光景があった

 


 チカチカと点滅している街灯の下、謎の黒いモヤの様なものが集まっている

 それは一塊ずつ生き物の様に動いて一つになったかと思うと、やがて人型となった


 その姿は、写真や動画でしか見たことのない“あの”人型だった


「ッ...【愚羅】...⁉︎」


 その人型の目らしきものがこちらを向いている

 一瞬、その双黒と目があった、気がした


 その瞬間、愚羅は物凄い勢いでこちらに突っ込んできた


「うわぁぁ⁉︎」


「しゃがんで! お兄ちゃん!」


 反射的に腰と膝を曲げる

 上空では丁度僕の頭があった部分を愚羅が物凄い速度で通り過ぎて行った

 

 愚羅はそのまま道端の道路標識に突っ込んで轟音を上げた


 その音で近隣住民が愚羅の存在に気づき出す


 悲鳴を上げる者、恐怖で倒れ込む者、現実味が無く笑っている者もいる


 騒動の中、愚羅が家の窓から顔を出している一人の男に顔を向けた

 そして


 ビュンッ


 躊躇いなくその男の右腕を、切り裂いた


「あ、うっうわぁぁぁっぁぁ‼︎⁉︎?」


「嘘...だよな...」


 その男の部屋中に血飛沫が舞う


 ショックで僕が呆然としていると、僕の左手を掴んでいる茅音ちゃんが喋りかけてきた


「ボーッとしないで、走って!」


 その一言で正気に戻った僕は茅音ちゃんに連れられるまま、森の方へ走った


 しかし住宅街最後の曲がり角で、不運にも女性にぶつかってしまう


「あ、すみません!......‼︎?」


 その女性は、昨晩僕が夢に見た

 殺され、無惨な肉塊にされていた、あの時の女性だった

 

「いいえ、大丈夫ですよ。それより、住宅街が騒がしい様ですが、何かあったんですか?」


「あの、それが......え?」


 僕が言葉を切った理由それは単純に、驚愕と恐怖だった


 あの女性の真後ろに、あの真っ黒な人型の影が


「あら? どうしt」


 その言葉が終わる前に、女性の体は斜めに切り落とされた


「は?」


 黒い人型はそのままその女性の肢体を切り刻み、踏みつけ、こちらにも血飛沫が飛んでくる程の勢いで、ミンチにしていった


「‼︎ 今のうちに急いで! お兄ちゃん!」


「でも、人が!」


「もうその人は死んでる!」


 そのまま茅音ちゃんに腕を引っ張られて森までたどり着いた


『緊急怪異警報発令中 煌穂区にお住まいの皆様は至急、地下シェルターに避難するか警戒地区外へ避難して下さい。繰り返します、緊急怪異警報発令中...』


 今更だが街中に緊急怪異警報のアナウンスが流れ始める


「早く来て、お兄ちゃん!」


「え、でもここ森⁉︎」

「私の家まで行けば大丈夫!」


 茅音ちゃんに引っ張られるまま、森の中に入って行った




 そのまま走りにくい道とも言えない道を走った

 常に後ろから聞こえる轟音と物凄い勢いで土を蹴る音を聞きながら


 それにしても

 茅音ちゃんはなんでこんなに早く長い間走っていられるんだ


 僕でも既にちょっと疲れてきてるのに

 あきらかに僕よりも年齢の低い子に体力で負けるってなんか複雑な気持ちだな


「って、うわ!」


「‼︎ お兄ちゃん!」


 集中力が乱れてしまった僕は気の根っこに足が引っかかり、そのまま倒れてしまった


「お兄ちゃん!」


「待って! 君は行ってくれ!」


「そっ そんなこと!」


 茅音ちゃんはそんなことできないって言いそうだけど

 僕は母親が死んでから、引きこもっていろんな人に迷惑かけて

 引きこもりから脱却しても、ずっと何かが欠け落ちた様な感覚だった


 茅音ちゃんの家はもう暫くかかるらしいし、茅音ちゃんが僕を連れて絶対に逃げ切れるとは限らない

 茅音ちゃんと愚羅では少しの差で愚羅の方が早い

 僕がここで少しでも足止めできれば、茅音ちゃんはきっと無事に生きて帰れるだろう


 どうせ、このまま違和感を感じて生きていくより

 ここで一人の少女を助けた方が、沢山の人に迷惑をかけた僕の人生も報われるとゆうものではないだろうか


「それでもだ! どうせ僕は明日が来ても悪夢を見て雫に起こされて照美に心配されて、恩返しの一つもできずに過ごすんだ! そんなので人生伸ばして生きるより、ここで少しでも君を助けて死んだ方が、僕にとっても本望だ!」


「お兄ちゃん.........決めた。」


 茅音ちゃんが走り出す

 ああ、良かった


「お兄ちゃん!」


 少し遠くまで行った茅音ちゃんが叫ぶ


「しばらくしたら、きっと助かる、だから死なないで!」


 ......うん

 お願いされたら、しょうがない


「分かった。僕は死なない、だから早く君は逃げて!」


 茅音ちゃんがまた走り出すのを見送る

 そして後ろを向くと


 目の前に、黒い人影が迫っていた






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感想なども気軽にどうぞ


どうか、モチベーションupの為にどうか...!

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