武闘派悪役令嬢 019a
男女が待ち合わせをして、どこかへ出掛けるということ。
そんなデートという行為をするのは、はたしていつぶりだろうか。少なくともこの世界で生を授かってからは、初めての経験と言えるだろう。フォルティスとは婚約者の間柄であるが、家が勝手に決めたことで当人同士はろくに交流していなかったので、私は彼ともデートをしたことはなかった。
つまり――ルフ・ファージェルが初デートの相手というわけである。
……が、とくに緊張も高揚もなかった。まあ当たり前だけど。
「……やっと、来たわね」
学園の正門付近で、壁に背もたれて腕組みをしていた私は、向こうからやってくる人影を認めて呟いた。
時刻は朝と昼の中間、といった頃合いだろうか。朝食を取り、着替えや手回り品などを用意して、学園の出入り口で待ち合わせをする。それがルフと事前に話し合って決めたことであった。
「――申し訳ない。少し準備に手間取ってしまって……」
開口一番、ルフはそう謝罪を述べた。
「女の子を待たせるなんて、好感度が下がりますわよ」
「いやはや、反論できないな。……こういう時の身支度に、あまり慣れてなくてね」
「……ふぅん」
私は腕組みを解き、壁から背を離すと――ルフの姿をざっと眺めた。
学生はパーティーイベントなどを除き、基本的には地味な服装をするようにと指導されているが、休日の場合はある程度の自由を許されている。今の彼は落ち着いた赤色のウェストコートを身につけ、その上に、薄手の外套を前開きにして着流していた。派手な色を一つに留めていて、なかなかうまく色彩を調和させている。意外と服装のセンスは良いらしい。
こういう時の身支度にあまり慣れていない――ということは、ルフは“デート”自体の経験がほとんどないのだろうか。あれだけ女の子に声をかけているのなら、外出に誘う機会はそれなりにあっただろうに。
思考する私に対して、ルフは少し困惑したように声をかけてきた。
「……意外だったな。きみは、あんまり華美な服を好まないのかな?」
――それは、私のファッションに対する感想だった。
ルフの疑問も妥当である。私は袖長のシュミーズを下着に、ソフトステイズと、ペティコートを重ねたスカートを身につけ、スカーフやショートガウンで肌を隠していた。アクセサリーもほとんどなく、携えているのはお金などを入れた巾着型のポシェットくらいである。煌びやかさなどどこにもない、貴族というより平民のような装いだった。
「あら、街中で目立ったほうがよろしかったでしょうか?」
「……いや」
ルフは苦笑して首を振る。
わざわざ学園の外で、上流階級の人間をアピールする必要などもなかった。私は注目を浴びて喜ぶようなタイプではないのだ。……どこかの誰かとは違って。
「さて――」
私は正門に体を向けると、ちらりとルフの顔を見て言った。
「行きましょうか……“デート”に」
「……ああ、よろしく」
どこかぎこちない感じの笑みを浮かべつつも、彼はゆっくりと頷く。
――こうして、私とルフのデートは幕を開けた。
◇
都市というものは拡大を続ける運命にある。この国の王都もまた、その宿命からは逃れられなかったらしい。
私たちの学び舎であるソムニウム魔法学園のあるフリス地区は、上流階級の人間が多く住まう区域だった。王宮や大学や寺院などがここに密集しており、いずれも初期に建設された城壁の内側となっている。
旧い城壁は都市の拡張にしたがって一部が解体されたが、ある程度の市壁は今なお残っており、富裕層とそれ以外の領域を明確に分け隔てていた。旧城壁の内側と外側では治安が違うから用心しろ、という話はよく耳にするものである。
「――それで」
私は王都の中央から遠ざかるように通りを歩きながら、隣のルフに言葉を投げかけた。
「行き先のご希望はありまして?」
「……できるだけ、目立たない場所がいいかな。ほかの学生たちが行かないような場所のほうが好ましい」
「なら、フリス地区を抜けるほうがいいでしょうね」
デートをする……などと約束はしたものの、じつは詳細なプランは最初から決めていない。ただ、ルフからは「女の子とデートをする時の予行演習がしたい」と言われていた。つまり――こうして街を散策しながらデート場所を探すのが、今日の“デート”の目的である。
迷いなく足を進める私に対して、ルフは少し困惑したように尋ねてきた。
「……休みの日は、よく外に出るのかい?」
「ええ。都市を抜けて農園地まで行くこともありますわ」
「……冗談だろ? 行って戻ってくるだけで一日が終わるぞ」
疑うような視線で言葉を返すルフ。きわめて常識的な反応だが、私が言っていることは事実である。都市の外側のアルスの家だろうと、私の脚力からすれば大した距離にはならなかった。
そして休みの日、どころか平日にも外を出回っているので、王都はもはや庭のようなものである。夜間は通行が禁止されている市街の門もあるが、建築物の“上”を跳べば移動に何も問題はなかった。いわゆるパルクールというやつは、もはや意識せずとも完璧にこなせる体となっていたりする。
「――デートでほかの学生の目を気にするなんて、あなたらしくありませんわね?」
歩きながら、私は先ほどの彼の発言について言及した。その瞬間、ルフは困ったような表情を浮かべる。答えにくい事柄だったのだろうか。
「その……好きな人と時間を過ごすなら、ひっそりとしたほうが雰囲気がいいだろ? 劇場に行っても周りが知り合いの学生だらけだった、なんてことになると……デートの空気にならないじゃないか」
「まあ、たしかに言えてますわね」
外に遊びにいく、と言っても学生の大半はフリス地区で過ごすだろうから、どこに行っても顔見知りと鉢合わせしてしまいがちである。狭い世界から抜け出してデートをしたい、という想いはそれなりに理解できた。
私たちは適当に雑談をしながら、旧城壁の門までたどり着く。暇そうに通行者を監視している衛兵を横目に、さっさと門を通り抜けて向こうの地区へと足を踏み入れた。
「……こっちは、ほとんど来たことがないな」
少し心配そうな口調で、ルフはそう呟いた。私は王都を自由に動き回っているから気にならないが、街を闊歩することのない彼にとっては、慣れない場所に不安があるのだろうか。
私はふいに立ち止まると、ルフのほうを見据えて口を開いた。
「さて、ここからは――ほかの学生に見られることもないでしょう」
「……だろうね」
「ここから東の通りを行けば、小劇や大道芸などの見世物もあるし、いろいろ屋台もありますわよ。そして南の広場周辺なら、もっといろいろお店が広がっているはず」
娯楽の種類は多くはないが、それでも学園内にはない楽しみがいろいろあった。ルフのような箱入り育ちにとっては、ほとんどのことが新鮮に感じるだろう。
――私は左腕を上げて、彼のほうへ差し出した。
その挙動の意味がわからなかったのか、ルフは困惑したような顔をしている。が、道行く人々の中に腕を組んで歩くカップルがいるのを目にして、ようやく思い至ったようだ。
表情をどこか恥ずかしそうなものに変えたルフは、ゆっくりと右腕を少し持ち上げる。私はその隙間に左手を通し、彼と恋人同士のように腕を組んだ。
「こっちの地区はスリなども出る可能性があるので、気をつけてくださいまし」
「……な、なるほど」
「本番のデートの時は、あなたがエスコートする側ですわよ」
「……心得ておこう」
今は私がいるのでどこへ行こうと安全だが、ルフが本命の女性とデートする時は彼が相手を守るしかない。杖を携帯していても、群衆の中だと魔法をぶっ放すことができない場合もあるのだ。フリス地区を抜けるなら意識的に警戒するというのも必要だった。
「とりあえず――このまま、通りに沿って歩きましょうか」
「あ、ああ……」
女性とのやり取りには慣れているはずのルフだが、どうにもさっきから緊張している様子である。どうやら異性との外出は、本当に経験が少ないらしい。意外な一面だった。
――日差しで彩られた石畳の通りを進みながら、私は周囲の人々の姿をなんとなしに眺める。
ここはまだ王都の中心に近く、貧民も少ないので道行く市民の顔は明るかった。徴税権を私人に売り渡していないため、わりと真っ当な政治運営がなされているのも大きいのだろう。
建物のほうに視線を移すと、紅茶を出す喫茶店のテラスが目に移った。テーブルではそれなりの身なりの男たちが、お茶を飲みながらチェッカーの類をやっている。横に硬貨を積んでいるところからすると、どうやら賭け試合に興じているらしい。
それをルフも眺めつつ、少し笑って言葉をこぼした。
「賭け事はみんな好きなんだな」
「あら、ファージェル様もそういうのがお好きなのかしら?」
「寮だとみんなやっているよ。ボクもビリヤードで友達とよく賭け試合をしている」
「学園の規則で賭け事は禁止されているはずですけれど?」
「律儀に守っているやつなんていないさ」
ルフは朗らかな笑顔を浮かべた。
「遊戯室ではビリヤード以外に何をなされるのです? 男子寮にはダーツなどもあると耳にしましたが」
「ダーツか……あれは苦手だなぁ。というか、最近は一部の学生がずっとダーツを占領しているから触る機会もないし」
うわぁ、レオドくん……あなた公共物を私物化しているのね……。
「ファージェル様は、同性のお友達もたくさんいらっしゃいますの?」
「……いや、故郷の縁がある数名の友人だけかな」
「あら、伯爵家の長男でしたらもっと親しくなろうとする方々も多いのではなくて?」
「……痛い質問だなぁ。日頃の振る舞いのせいで、どうにもボクの評判は悪いようでね」
ルフは笑みを苦笑に変えて、あまり元気なく答えた。言い方からすると、女性をナンパしまくっていることが悪評を招いていることは自覚しているらしい。つまるところ――その不利益を上回る何かが、彼にとっては存在しているのだろう。
「女性を追いかけないほうが、あなたモテますわよ?」
「……うーん、追いかけなければ叶わない恋もあるからね」
意味深に返された言葉に目を細めていると、歩いている先から笛や弦楽器の音が鳴り響いてきた。フリス地区の外の大通りでは、楽器の演奏や手品などのショーをして投げ銭をもらう大道芸人をよく見かける。都市の貴族が楽しむものよりも世俗的だが、私としてはこういった民衆の音楽のほうが好きだった。
「故郷を思い出すような音色だ」
懐かしむように笑うルフに、私も心中で同意する。大貴族の領主の子供は、ほとんどが直営地の屋敷で生まれ育っているものである。ようするに風土が田舎寄りで、音楽などの文化も民衆的な色が強かった。学園のイベントなどで演奏される高尚な音楽よりも、こういう安っぽい楽器の音色のほうに親近感を抱くのは、地方出身者の証といえるだろう。
――すっかり緊張がほぐれた様子で、ルフは私とともに街中を歩く。
聞こえてくる演奏を楽しんでいると、彼はふと前方を指差した。その先には木造の掛け小屋が設営されており、舞台の上で役者が劇を演じているようだ。
「……あれは?」
「市民が好む劇ですわ。大劇場を観るお金のない方々は、ああいった人通りで開催される小規模な演劇を楽しんだりしているようです」
「……なるほど。そういえば故郷の園遊会で、旅芸人の一座が招かれてあれに近い芝居をやっていたな」
演劇や芝居は普遍的な娯楽である。こうした大通りだけでなく、酒場にもステージを設けて劇を開催している店がいくつかあったりする。民衆劇に対する弾圧や規制も今のところないので、平和的な空気の中で市民は観劇していた。
ルフが気になっている素振りを見せていたので、私はそれに合わせて立ち止まる。
「途中からですが、ご覧になります?」
「……いいかな?」
「では、少し寄っていきましょう」
やや離れたところから、私たちは遠目で劇を眺めることにした。
屋外の仮設舞台だと激しい動きもできないので、この手の演劇は掛け合いを重視した内容がほとんどである。役者たちは大仰な身振りと声で演技をしていた。どうやら街に住む男女の色恋沙汰をテーマにした話で、妻に隠れて浮気をする男が必死にバレないように立ち回るコメディのようだ。
大劇場ではまず演じられないような筋書きだが、話の面白さはルフにも伝わっているのだろう。ちらりと見た彼の横顔は、明るい笑みだった。
やがてストーリーは終局へ向かい、けっきょく浮気を知られた男が散々な目に遭いながら、妻に最愛を誓うことで終演となった。お話自体はたいして捻りもなかったが、それでもコミカルな演技に市民たちは満足したらしい。小銀貨をステージに投げて拍手をする人も多かった。
「ご感想は?」
「面白かったよ。貴族が登場しない劇なんて初めて観たかもしれない」
「貴族向けに演劇する時は、上流階級の主人公が大半でしょうからね」
だからルフにとっては、新鮮な体験だったに違いない。
私はそう思いながら、ポシェットから取り出した銀貨を親指で弾いて投げ銭する。それを見ていたルフは、びっくりしたような声を上げた。
「今の、6セオル銀貨か?」
「気前のよさは美徳の一つですわよ」
いちばん小さな銀貨が1セオルだが、その6倍の重量で鋳造されているのが先ほどの銀貨だった。労働者の日給がだいたい8セオル程度なので、投げ銭としては言うまでもなく破格である。
「……見習っておこう」
ルフはそう笑うと、同じように6セオル銀貨を舞台に投げ入れた。
――役者たちが感謝の言葉を述べるのを横目に、私たちは群衆から離れてふたたび通りを歩きだす。
ジャグリングを披露する芸人や、グラスワインやチーズを売る屋台を眺めながら、ルフはふいに尋ねてきた。
「ああいう演劇は、週末にいつもやっているのかな?」
「大抵は。……もし大通りでやっていなくても、誰かに尋ねれば劇を開催している小劇場や酒場を教えてくれますわよ」
「……そうか。参考にするよ」
本命の女の子とデートをする時に、ということだろう。真剣そうに考える彼は、ホールで二股が発覚した時の軽薄そうな印象がどこにもなかった。
私はその差異に興味を抱きつつも――彼に次の行き先を提案する。
「お昼の食事はどうなさいます?」
「うーん……雰囲気がいいところはないかな?」
「お上品なレストランはフリス地区へ戻らないとないでしょう」
だよねぇ、とルフは苦笑した。
凝った料理を出すレストランというものは、いちおう都市に存在するものの――やはり大衆向けではない。フリス地区以外でどうしても外食するとなれば、酒場や喫茶店などで、パンやビスケット、スープなどを置いているところを当たるしかなかった。
「……フリス地区の店だと、ほかの学生と鉢合わせる可能性がある。できれば、こっちのほうで食事をしたいな」
「人目を気になさるのですね」
「いろいろあって、ね」
曖昧な表情を浮かべるルフに、私は「わかりました」と頷いた。
「――食事も出す酒場を知っていますわ。そこに案内いたします」
(例によって長すぎるので分割。22時ごろに後半も投稿します)
・脚注
《シュミーズ》
シュミーズはローマ時代のチュニックから発展した下着である。もともとは男女の肌着の全般を指してしたが、時代とともに男性用の肌着をシャツ、女性用の肌着をシュミーズと区別するようになった。現代とは違い、当時のシュミーズは長袖が一般的であった。
下着としてのシュミーズは20世紀初頭から廃れていき、ブラジャーやパンティーなどに置き換わっていった。
《ステイズ》
補正下着、いわゆる「コルセット」のこと。張り骨で補強されたボディスのことをステイズと呼んだ。また、より緩やかで張り骨の少ないソフトステイズは「ジャンプス」とも呼ばれた。
コルセットという単語が使われるようになったのは、1770年代になってからである。この頃のコルセットは張り骨がなく、キルティングリネンで作られており、非常にソフトな衣服であった。
このように多数の呼び名がある補正下着は、19世紀に入ってからより体をきつく締め付けるものへと変わっていき、またステイズとコルセットは同じ意味で使われるようになっていった。
《ペティコート》
スカートやドレスの下に着用される下着の一種とされるが、時代によって定義に揺れが存在する。この呼び名自体は「pety coat(小さなコート)」から由来しており、フランス語では「ジュープ」と呼ばれていた。
ペティコートは下着としての保温機能のほか、スカートの膨らみを強調する役割を持っており、そのために何枚も重ね着されることがあった。このようなファッション的機能は、のちに「クリノリン」へと発展していった。
《旧い城壁は都市の拡張にしたがって一部が解体されたが……》
城郭都市、あるいは囲郭都市と呼ばれる都市は、外敵から身を守るために城壁で囲われていたが、これらの壁は同時に都市の発展と拡張を妨げるものでもあった。そのため都市人口が増えてくると、新しく城壁を広げて都市面積を増やす政策が採られることも多かった。
もっとも有名なのはパリであり、ローマの時代から数えてじつに6回も城壁の拡張を繰り返してきた歴史がある。
《パルクール》
特別な道具を用いずに、街の段差や壁、障害物や横木などを乗り越えたり飛び移ったりして、効率的な身のこなしを発揮するスポーツ。フランスの軍事訓練において古典的な、「parcours du combattant(戦闘コース、障害物コース)」が由来となっている。フリーランニングとも呼ばれる。
ちなみに、このパルクールを初めて映画に取り入れたのは、2000年のフランス映画『TAXi2』である。
《徴税権を私人に売り渡していないため……》
都市における税収はさまざまなものがあるが、外から入ってくる物品に対する入市税はとくに基本的なものであった。農村に代表される貢納や地代などの直接的な税よりも、市民が間接的に負担する税がメインであり、城壁で囲まれた都市の門はしばしば徴税所の役割も兼ねていた。
また、課税が多岐にわたり複雑化してくると、徴税権を一定の契約で私人に委託する徴税請負人の制度が西ヨーロッパ各地で見られた。とくにフランスのパリでは、徴税請負人たちが入市税をさらに取り立てるために、王に新しい城壁の提案までおこなった。これが有名な「徴税請負人の壁」であったが、徴税請負人による搾取は市民の怒りを募らせる結果となり、のちのフランス革命のきっかけにもなった。
《チェッカー》
チェスボードのような盤を用いて、相手の駒を取り合うゲーム。ドラフツとも呼ばれる。ボードのマスの数、ルールあるいは配置などが異なる亜種ゲームが非常に多い。
この手のゲームは古くから親しまれており、チェッカーボードに似たボードは紀元前3000年のウルでも発見されている。
《ジョングルール》
フランス語で大道芸人を表す言葉。都市などの人が多い場所では、演奏や歌、ジャグリングや曲芸などのパフォーマンスで稼ぐジョングルールやミンストレル、あるいはグリーマンと呼ばれる者たちがいた。
イギリスやフランスなどでは、このような芸能人たちのギルドも存在したが、17世紀にはほとんど消滅してしまった。その一方で、組織ではなく個人で糧を得る大道芸人は、19世紀まで長く生き残っていたようである。
《直営地》
領民である農民の賦役によって経営される土地。領主の強い支配が及ぶのが直営地である。
歴史的には貨幣経済が進行すると、領主は農民に農地を任せて地代だけを取り立てる地主になりがちである。現実の西ヨーロッパでは、時代とともに領主の直営地が減っていき、領主と領民の関係性は希薄になっていった。また価格革命や黒死病(人口減少)による煽りを受け、封建領主の多くは没落していった。
《いちばん小さな銀貨が1セオルだが……》
世界の多くの地域では、かつて銀が貨幣として使われていた。これは銀自体に貴金属としての価値があったためである。日本語における「路銀」や「銀行」などの言葉に示されるとおり、銀とはすなわち「お金」を意味していた。
銀貨は各地でさまざまなものが作られたが、現代の硬貨とは違って流通総量が少ないこともあり、少額取引にはどうしても不便が発生した。その場合は補助貨幣の銅貨が使われることもあったが、銀貨を半分や1/4に切断して使用することも多かった。
参考として、1590年頃のイギリスのパン屋の職人が1週間30ペンス=1日4~5ペンスの賃金であった。(当時の1ペニーは約0.5gの重量、12mmの直径と、かなり小型の銀貨になっていた)
まったくの余談であるが、銀(silver)は古英語だとseolforと書く。




