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ツンデレ赤ずきんはヤンデレ狼に呪われる

作者: 立川梨里杏
掲載日:2018/06/08

二作目です。

月の綺麗な夜でした。

「お腹が空いたよう…」

暗い森の中、しょんぼりと耳を垂らしながら覚束ない足取りで歩くのはまだ幼い狼。母親とはぐれてしまったのでした。もうどれほど歩いたかも分からず、ただ自分が全く知らない場所に迷い込んでしまったことだけは分かるのでした。

「お腹が空いたよう…」

もう一度呟く。このまま死んでしまうんだろうか…。限界を迎えた狼は地面に倒れこんでしまいました。もう駄目かと生きる気力を失う中、狼は急に気力を取り戻して飛び起き、走り出しました。食べ物のとても良い匂いがしたからです。



「スープ、作りすぎちゃったわ…。

つい、張り切りすぎちゃったわね」

大きな鍋いっぱいに入っているスープ。しかしその具材はマンドラゴラの根、龍のひげ、黒蜥蜴の干物と少々奇抜なものだが、それも当然だ。彼女は魔女なのだから。街に行って薬を売って生計をたてている。街の中にも胡散臭い店はあるのだが、その中でもやはり本物も混ざってはいるのだ。今日は偶然行きつけのそういった店に珍しい素材がたくさん入荷していたため、つい大人買いし過ぎてしまったのだった。お裾分けしようにも森の中に住んでいるためご近所さんなんて軽く10km以上離れている所だし、このスープに保存は効かない。

「さて、どうしよっかな…」

そう魔女は呟いたとき。

ドンドンドンッ!!

けたたましいノックの音がしました。

「何事っ!?」

魔女は長年愛用している箒を手にとってへっぴり腰で扉を開けました。魔女はビビリだったのです。

するとーー

「あのあのっ!! ぼく! お腹がすいて死にそうで、 その、あのっ! 美味しい匂いがしたのでっ!」

小さな頭からは茶色い耳、尻尾は垂れ下がって今にも泣き出しそうな狼がいました。


か、か、かわえええええええ〜〜!!!

え、何この可愛い生き物!目くりくりしてるし、ウルウルしてるし、ほっぺやわらかそうだし、あの尻尾モフモフしていいかな!?


魔女の内心は荒ぶっていました。


「フンッ! い、いきなり訪ねて来てご飯を強請るな んて非常識にも程があるわね! でも家の前で野垂れ死なれても困るから、仕方なく、仕方なく! 入れてあげるんだからね!」

魔女は立派なツンデレになりました。


狼は物凄い勢いであれだけ沢山あったスープを平らげました。

「あの、ご馳走さまでした…。

ところで、あなたは…?」

食事を終えた狼は改めて魔女に尋ねます。

狼の可愛さに我を忘れていた魔女ははっと自分を取り戻しました。

「あんた、今頃聞くなんて遅いのよ!…まあいいわ。あんたに名乗ってあげるような名はないわ。でも街の人たちは皆あたしのこと、赤ずきんって呼んでる。」

なるほど確かに魔女は真っ赤なフードをかぶっています。それは代々受け継がれてきたローブで、魔女はあの有名な赤ずきんちゃんの子孫なのでした。

「赤ずきんさん…」

「それなんかちょっと違う」

こうして2人の生活は始まったのです。



魔女、もといこれからは赤ずきんちゃんと呼びましょう。赤ずきんちゃんは名前のなかった狼に、アルフと名付けました。赤ずきんちゃんとアルフは意外にも気があったのか、順調に共に生活していました。しかし3ヶ月もすると、アレフが急激に成長きてきました。

「えええええ!? あんた狼だったの!!?」

赤ずきんちゃんはアルフのことを狼ではなく犬だと思っていたのでした。

(わあああ…っっ!!!

やばいやばいどうしようーー!!!)

赤ずきんちゃんがこんなに取り乱すのには理由があるのでした。赤ずきんちゃんはお母さんやお祖母さんから、決して狼と関わってはならないと言いつけられていました。狼と関わると呪われてしまうのだという言い伝えがあるのです。

「赤ずきんちゃん……。

僕、何か悪いことしちゃった……?」

アルフの耳はペタリとしなだれてしまっています。赤ずきんちゃんはたじろぎます。そうです、アルフは何も悪いことなしていないのです。それなのに今更追い出すなんてことは、赤ずきんちゃんが悪い奴らだと言い聞かせられている狼よりも悪いことのように思えて仕方がないのでした。赤ずきんちゃんは自分で思っていた以上にアルフのことを大切に思っていたのでした。今まで何もなかったのだからこれからもきっと大丈夫。

このときは、そう思っていたのでした。



更に月日は経ち、赤ずきんちゃんとアルフが一緒に暮らすようになってもうすぐ二年がたとうとしていました。二人はもはやお互いにとってなくてはならない存在になっていたのです。そんなある日、赤ずきんちゃんが書斎の掃除をしていると、古い本を落としてしまいました。突然赤ずきんちゃんの右腕が鋭く痛みました。手から滑り落ちたカップが音を立てて割れます。

「赤ずきんちゃん、どうしたの!?」

血相を変えてうずくまる赤ずきんちゃんの元にやって来たのはアルフ。

「ううん……何でもないわ。大丈夫。」

もう腕の痛みはすっかりおさまっていました。しきりに心配するアルフをなだめ、落ちた本が気になったので自室で読んでみることにしました。



古い本を開いて見てみると、それはどうやらある少女の日記のようでした。




私は掟を破ってしまった。でもそうなることはきっと決まっていた。


最初にこのような言葉が綴られていました。




今日は野イチゴ摘みに行ったけれど、摘み食いが過ぎてバレて怒られちゃった。今度はバレないようにしようっと。


カレンに彼氏が出来たんだって!すっごく羨ましい!いいなあ…


最初の言葉とは裏腹に、ごく普通の年頃の女の子のような日記が綴られていました。







森の中を歩いてたら狼に会ったわ。お母さんは狼と関わってはいけないっていうけど、どうしてかしら?愛想も良かったし、話してて楽しかったし、そんなに悪い感じじゃなかったわ。




「狼」という単語に赤ずきんちゃんはハッとしました。震える手で日記のページをめくります。




私は妊娠していた。彼との子だ。彼との子を授かったのはとても嬉しいことだが、呪いは私の身をひどくむしばみ始めた。今まで薬で何とか抑えていたが、それももう限界のようだ。しかし私は死ぬわけにはいかない。この子のためにも生きなければならない。

彼には、私は呪いを薄めるために自分の記憶を消すと言った。彼はとても苦しそうな顔をして、姿を消した。最後に愛してると言葉を残して。

夜、狼の遠吠えが響いた。月の綺麗な夜だった。

狼は番を失ったら生きてはいけない。

涙が止まらなかった。


次に日記を書くのはいつだろうか。

いよいよ私が死ぬ時だろう。記憶は完全に消すことは出来ない。こんなに強く想う心は完全には消えないだろう。



しばらくページが途切れていました。

赤ずきんちゃんは震える手で日記のページをめくります。



久しぶりに日記を書く。きっとこれが最後の日記になるだろう。腕の痛みは段々と心臓へと近づいてくる。忘れていた思いが少しずつ思い出されて、それに比例して呪いも強くなっていく。横には何も知らずにすやすやと眠る娘。私がこの子のためにしてあげられることはあと少しだけ。


愛しい娘。

狼には気をつけなさい。

心臓を奪われたら呪われてしまうよ。


それでももし心を奪われてしまったら。

名前を教えてあげなさい。名前は互いを縛る呪なのだから。相手に永遠に捧げることのできる唯一のものよ。

私はきっと間違えた。それでも後悔はしていないの。もしあの時に戻っても私はまた何度でも間違えるわ。そして愛しい彼に出会って、愛しいあなたを守るの。

もうじき時間だわ。それじゃあね。

願わくば、あなたがこの手記を必要としないことを。



アリア




赤ずきんちゃんは日記をそっと置きました。

アリアとは赤ずきんちゃんの母親の名前です。アリアもまた、赤ずきんちゃんと同じように狼と恋に落ち呪われてしまったのでした。しかし、赤ずきんちゃんが何よりも心配だったのは自分が死んでしまって、アルフが取り残されてしまうことです。赤ずきんちゃんは悩んだ挙句、手遅れにならないうちにアルフを解放することに決めました。



「アルフ、ここを出て行って欲しいの。」

アルフは何を言われたかまるで理解できないような呆けた顔をしていました。

「な……なんで!?

赤ずきんちゃん、どうしたの!?」

顔を歪めて今にも泣きそうなアルフに胸が張り裂けそうになりますが赤ずきんちゃんは無情に見えるように冷ややかに言い放ちます。

「もうあなたのこと、どうでも良くなったの。

今すぐ出て行って頂戴。」

ついにアルフは泣き出してしまいましたが、赤ずきんちゃんは魔法で追い出してしまいました。




アルフは追い出されてしまいましたが、赤ずきんちゃんのことを諦めきれませんでした。優しい赤ずきんちゃんがあんな事を言う筈がない。何か理由があるはずだと、書斎へと向かいました。書斎の扉には魔法がかかっていましたが、狼の手で扉ごと破壊しました。検索魔法でお目当ての本を探します。

狼が手に取った本にはこう書いてありました。



心臓捧げの術





「ゔ……ぁっ」

赤ずきんちゃんは今までにないほどの激痛におそわれていました。心臓が焼け付くように痛いのです。しかし、それ以上にアルフにあんな顔をさせてしまったことが何よりも痛かったのです。まるで半身を引き裂かれたかのような痛み。

ああ、

アルフはあたしの半身だったんだな……

薄れゆく意識の中、アルフの声が聞こえてきました。

「…ちゃん、赤ずきんちゃん! 聞こえる?」

霞む視界の中、赤ずきんちゃんは懸命にアルフの声がする方へと手を伸ばします。

「アル…フ」

手を強く握られたような感覚に赤ずきんちゃんは最後の力を振り絞ります。

「アル…フ。

あた…しの、な、まえは…フィリア」


「僕の名前はアルフだよ、フィリア」


光が二人を包みました。



アルフは禁術を行使するために自分の心臓を捧げ、赤ずきんちゃんも心臓を捧げました。

赤ずきんちゃんが生き返るか、二人とも死んでしまうか、大きな賭けでした。

しかし、赤ずきんちゃんとアルフは賭けにかちました。


「ばかアルフっ!! 禁術なんて使って!!

あんたまで死んだらどうするのよ!!」

赤ずきんちゃんは大泣きしながらアルフを殴っています。

「赤ずき……フィリア。

僕はとっても悲しかったんだよ?

フィリアが僕を捨てようとするから。

だから、しっかり縛ってこれからもずっと一緒にい たかったんだ」

アルフはどこか黒さを含んだ笑顔でにっこりと笑います。

(な…なんだか黒い気がするわ……!

育て方間違えたかしら…?)

赤ずきんちゃんは冷や汗を垂らしましたが、

「フィリア、愛してるよ」

これ以上ないくらい愛おしげな目で、これ以上ないほど幸せそうな顔で笑うのでもう良いかと思ってしまうのでした。

「あたしも…愛してるわ、アルフ」




こうして赤ずきんちゃんと狼の呪いは無事に解け、二人は幸せに暮らしました。

しかし、数十年が経った後、赤ずきんちゃんは歳をとり、安らかに息を引き取りました。

その晩、狼の遠吠えが響きました。

月の綺麗な夜でした。


読んでいただき、ありがとうございました!

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