幕開け 『日常に溺れる』
私はどこかで間違えているらしい。ある人は狂っていると言った。ある人は異常だと罵った。けれど私はそれでよかった。そんな言葉で誰かが救われるのなら私は甘んじてそれを受けた。
けれど彼は違った。罵倒せず、ただ現実を受け止めた。
そう、これは間違っている。間違いだからこそ生まれた世界だ。そんな世界で私は掴めるのだろうか。本物のシアワセを私の手でつかめる日は来るのだろうか。
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憂鬱だ。
俺の予定は勝手に決められた。というか強制的だろう。ドタキャンは許さないというような威圧があった。
「でもなんで俺は病院を抜け出してまでここにいるんだ……」
逃げればただでは済まないのはわかっているけど謎の使命感が俺を無理矢理突き動かした。
だが俺もその程度ではこれほど鬱にはならない。原因は俺のとなりにいる奴のせいだろう。
「お兄いの彼女さんを私が見極めてあげるからね!!」
「はいはい……もう勝手にしてくれ……」
そう俺の愛する妹がここがいるのだ。どうしてこうなったと言うと俺にも分からない。だって俺が病院から出るのを目撃していた麻鈴が急についてきたのだ。服装もバッチリ決めていた。盗み聞きでもされてたのだろうか。そうだとしたら普通に怖い。
「……にしても、あいつ遅いな」
「そうだねぇ~。律儀に時間指定までしていったのにね」
……なんで知ってるんですかねぇ。そんな言葉が口からでかかったが知りたくもない事を話されそうなのでやめた。
「おーい!!おにーさぁぁぁん!!」
遠くから俺を呼ぶ知った声が聞こえてくる。というより俺を無理矢理誘った張本人だ。しかし問題は別の所にある。彼女は10歳程度の身長だが俺は普通の男子高校生並の身長がある。そんな彼女が俺に向かってきているのだ。どこからどう見ても事案の予感しかない。
「おーい!!じゃねぇよ……」
「あらら……お兄いが完璧に犯罪者だよね。この状態だと」
流石に俺も不味いとは思っている。こんな事で通報からのポリスメンに連行とか洒落にならない。俺はポリスメンと遊びたいと思ったことは一回もない。
しかしそんなこと知らないと一蹴りするように彼女は笑って俺の傍まできた。
「ねぇ……待った?」
定番の台詞を吐いてくる。お前はヒロインかとツッコミをいれそうになったがここはノッてやろう。
「いいや、全然待ってない。さっき来たばっかりだからな」
「お兄い……カッコつけなくてもいいよ……ホントは一時間くらい待ったんだから」
「ノッてやったら別のところからぶったぎられた件について」
そんなやり取りをみて少女は笑った。このやり取りのどこが面白かったのだろうか。それともこんな日常を送れなかったから笑っているのだろうか。
「……それじゃあ、いくか」
「うん!れっつごー!!」
彼女はどこかを指差してそう言った。そんな彼女の楽しそうな笑顔が暗くなってしまうのがなんとなく俺は怖くなったんだ。