第2話 また明日どの明日?
一人の少女の話をしよう。それが今回の前書きだ。
その少女はいつも一つの言葉を聞かされていた。その言葉は洗脳のように少女を蝕み動かしていった。
少女は救っていた。関係のない他人を意味無く救っていた。見返りも求めずただ機械のように救うだけ。
少女は知っていた。その行為に意味が無いことも無駄だということもわかっていた。けれど少女は動くしかなかった。それ以外に意味を感じなかったからだ。
少女はある時出会った。人がみれば希望の光だろうが少女からみれば自らの存在意義を消す物だった。しかしその光は少女の存在意義を奪わなかった。むしろ少女の力になった。だから少女は余計に救った。無駄な救いを無意味な救いを続けた。
少女は気づいた。この無駄な救いは自分のシアワセじゃない事に気がついた。そして少女は自分のシアワセの為に力を使うようになった。
少女は静かに自分に誓う。今度こそは自分をシアワセにすると、心の底から誓うのだった。
さてさて、今回の前書きはこの程度にしておこう。
なら、引き続きこのシアワセな少女の物語にお付きあいくださいませ
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「また明日……か」
正直明日と言われてもこの世界に明日があるのかすら分からない。
こんな世界なのだ。今日人が殺されて殺される前に戻ったのなら明日は来ないのだろう。戻ってしまっているんだから。
「まぁ、どうしようもないか。叶えようもねぇしな」
彼女の願いは俺には叶えられるものではなかった。彼女のシアワセは自分の手でつかみとるものだ。普通に生きて普通に暮らしたい。それが望みなら力を捨てるべきなのだ。こんな世界もルールも壊すべきだった。しかし彼女にはそれができなかった。自分の努力を壊すのが嫌だったんだろう。
「なら、俺は死なない人生を楽しませてもらおうかな」
そう言って寝ようとしたが三日も寝ていたらさすがに眠くはないか。困ったなすることがない。見舞いでも来てくれれば暇潰しもできるんだけどなぁ
「…………麻鈴でも来てくれたらなぁ~」
すると病室の扉をノックする音が聞こえた。誰だろうか。家族……か?いや、分からない。殺し屋かもしれない。殺されるようなことしてないけど。
「どちら様ですかー」
「麻鈴様ですよー」
麻鈴だった。というか自分の事を様付けするのかよ。ナルシストなのかも知れない。そんな子に育てた記憶はないんだがなぁ
「どうぞお入りくださいませ~」
「はーい」
そういうと麻鈴は扉をバンッと音がなる程度の勢いで開け病室に入ってきた。
「麻鈴さん……扉はそんなに強く開けなくても開くよ……」
「うるさい。お兄ぃは黙って寝てて」
そう言うと麻鈴は持っていたビニール袋から果物ナイフを取り出した。
え、待って俺殺されるの?いやいやおかしいおかしい。なんで俺が殺されにゃならんのだ。
そのナイフを棚の上に置くとビニール袋からリンゴを取り出してナイフで向き始めた。よかった殺害用のナイフじゃなくて。スゲー怖かった。
「今日は優しいのな」
「今日はじゃなくて今日もでしょ。お兄ぃ」
「三日眠ってたんだしわかんねーよ」
「それもそっか」
麻鈴は器用にリンゴの皮を剥いでいた。どこでそんな家事能力を手に入れたのだろうか。母さんかな?
「そういえばさぁ~麻鈴さんよー」
「ん?なに」
俺はこの世界について麻鈴に聞いてみることにした。
「もしもの話。死なない世界が有ったらどう思う?」
「死なない世界?」
麻鈴は顔をこちらに向けて手元を見ずにリンゴを剥いている。危ない
「お兄ぃがもしもの話なんて珍しいね。なんか怪しいや」
「いやいや全く怪しくないぞ!ちょっと気になっただけだ」
そんな、もしもの話をするだけで怪しまれるなんて……
冗談しか言ってない俺が悪いんだけどさ。
「……ていうか急に聞かれても想像できないって。死なない世界とか」
「だよなぁ。俺も想像できねぇや」
「じゃあ私もお兄ぃに質問していい?」
「おう!なんでもこいや!!」
そう言うと麻鈴は急に笑顔になり手を止めた。何故だろうか凄く嫌な予感がする。けど答えると言っちゃった手前逃げだしにくい。
なら諦めよう。答えるしかないのだ。
「ねぇ、さっきお兄ぃの病室から出てきた女の子……誰?」
底冷えするような声だった。冷や汗が止まらない。本能が告げた。逃げろ!今すぐ!
俺は本能に従って逃げようとした。しかしまわりこまれてしまった。
退路がない!?どうすればいい?ハハッ簡単だ答えるしかない。だがどう説明すればいい。
「さっきの女の子は……誰?」
催促がきた。だが答えが出ていない。答えようがないぞこれ!!
「……さっきの女の子はそこら辺で知り合った友達だ」
ほんとにこう言うしかなかった。ほかにどう言えば良かったんだ。
だがこの答えは正解だったらしい。いつのまにか優しい笑顔になっている。
「なーんだ。なら良かった。お兄ぃがロリコンなんじゃないかと疑っちゃった」
「それだけは否定させてくれ。違う!!」
「知ってるよ。このシスコンお兄ぃ」
「それは胸を張って自慢するね!麻鈴大好きです!!」
そんな俺のシスコン自慢をしていた時、何かが軋む音がした。砕けるような音がした。けれど麻鈴は気付いていない。
その時、俺はこの世界のルールを思い出した。
そうだ、この世界は死ねば戻るんだ。ならこれはルールが発動したという事か。
後ろに引っ張られるような感覚と割れるような音。
意識が消えかけているのがわかる。
戻っているのがわかる。
繰り返そうとしているのがわかる。
彼女は言った。「また明日」と。けれどこの繰り返しの先には今日があるのだ。なら彼女が言った明日はどれだ。どの明日だ。
そんな俺の思考を置いて世界は戻ったらしい。
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そして病室に居た少女はこう言った。
「また明日。どの明日?」と