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彼女は今日もシアワセに  作者: 楠木黒猫きな粉
第一幕 シアワセな物語
2/11

第1話 変わり変わって幕は開く

唐突な話をしよう。世界はとっくに変わっている。必ず終わる未来があった世界は終わらない世界に変わっている。

しかしその変化は人の望みでもあったかも知れない。

なら人はその変化を否定することを許されないのだ。

さてさて、今回の前書きはこの程度で充分だろうか。

なら幕を開こう。


終わらない世界のオモチャ達のお話を始めよう。


────────────────────


目を開く。しらない天井があった。しかし、ここが何処だかはすぐに分かった。

病院だ。


「おかしい。病院は橋の先にあったはずなのに……」


確か、橋の先の町は全て無くなっていたはずだ。あんな隕石がぶつかって無事なはずがない。


「あー……やっと起きたんだー」


目の前にあの少女がいた。町を壊した張本人がいた。


「ねぇねぇ、そろそろオモチャとしての自覚はできた?」


できるわけがない。それもこんな短時間で


「え?貴方……三日は寝てたよ?足りないの?」

「は?」


三日寝てた?いやいやおかしい三日で崩壊していた町が戻るはずはない。現代科学はそんなに進行していない。


「あーやっぱり疑問に思っちゃうんだね。この町が元に戻ってる理由とか」

「そりゃあな」


すると少女は人差し指を唇に当てて


「黙ってね?オモチャは私の許可がないと喋っちゃダメだから」


黙っての部分を強調して言われた。怖い。というか喋るなってどういうことだよ。意志疎通もできないじゃないか。


「別に喋らなくてもわかるしね」


話さなくても分かるって……神かなんかかよ。


「まぁまぁ、そういう部分も説明してあげるからねー」


だから黙って聞いててね?と少女はつけたし語り始めた。


「どこから話せばいいかなぁ~……まぁ、はじめからでいいや─────」


それは昔話のように荒唐無稽で理解ができない話だった。

けれど少女は真実を語っているんだろう。


「まぁ、意味がわかんないのも無理はないよ。いきなり神様だーって言われてもね」


そりゃそうだ。この子が語った事は『自分は神で人のシアワセを叶えていたけど自分がシアワセになれなかったから作り替えた』ってことになる。ならこの町が元に戻っているのも彼女がもどしたんだろう。


「全部本当の事だよ。ただの子供の妄言に聞こえるかもしれないけど貴方なら信じてくれるでしょ?」

「………………なぁ」

「ん?なに?」


俺は思った質問をそのままぶつける。


「君が叶えたシアワセって……なんだ」


すると少女は笑ってこう言った。


「貴方達は必ず思うでしょ?死にたくないってさ?だから私は死なない世界を作ったの。死ねない世界に作り替えたの」


少女は自慢気にそう言った。死なない世界を作った。死ねないように作り替えた。だから誰も死なないのか……この世界は。

これで辻褄があった。一度この世界は滅びたのだ。少女が起こした大災害によって滅んだんだ。そして人が死んだ瞬間に少女が作り替えたルールによって死んだ場所も人も生物も星でさえも全て元に戻ったのだろう。


「ピンポンピンポーン!だーいせーかーい!!そう、世界は一度死んで巻き戻ったの死ぬ前の世界に。だから人は死ねないの」

「でもそれじゃあ寿命で死んだ人はどうなる」

「そんなの記憶をそのままにして若返らしたに決まってるじゃん」


少女はさも当たり前のように言った。人が死なない世界……誰も犠牲にならない世界。誰もが望んだ世界だろうな


「そう、この終わった世界は貴方達が望んだ世界だよ。けど」

「けど?」

「けど今は私のシアワセの為の世界なんだよ」


自分のシアワセの為の世界だと少女は言った。

そうだ、この世界は人は彼女にとっては本当にオモチャ程度の価値しかないのだ。壊しても直せば良い都合のいいペット。


「なら君のシアワセってなんだ」


しかし問題は彼女の為の世界という部分ではない。そこは別にいいんだが彼女のシアワセが分からなければどうしようもない


「私のシアワセ?そんなの決まってる。ただ普通に暮らしたい。普通に生きて普通に学校にも行って普通の女の子みたいになりたい。それだけでいいの。それがシアワセなんだよ」


彼女の望みは自分のやってきた事を否定することだった。普通に生きて普通に暮らしたい。それが彼女にとっての憧れのようなシアワセなのだろう。

だから俺はどうしようもなかった。これは彼女の為だけのシアワセなんだと思ったからだ。

神として……いや、人にして神になってしまった少女が望んだシアワセ。神として人のシアワセを叶えた代わりに自分のシアワセを消してしまった少女。


「なら、その憧れはどうして生まれたんだ」

「知らないよそんなの」


答えた少女の声には諦めや絶望が混じっていたと思う


「はぁーあ、やっぱり私のシアワセはオモチャじゃ叶えられないのかぁ…………まぁ、いいやそれじゃあオモチャのおにーさんまた明日」


彼女はそう言って病室から居なくなった。

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