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男は顔

「いいか、裕子。男には十分注意しろ!」


 そうお姉ちゃんたちから言い聞かされて早10年が経ちました。

 ずっと女子校で育ってきた私にとって男性といえば学校の先生くらい。

 若い男性の先生になんて見かけたことはない母校を卒業し、今まさに共学という未知の世界に足を踏み入れようとしています。



 お姉ちゃんたちにはそれはもう反対された。

 あんたには共学は無理だと。

 でも、私ももう16歳です。後、数年もすれば社会人となって男性が少なからずいるところで働かなくてはいけません。

 だから、私は少しずつでもなれるように共学を選んだのです。



 反対し続けたお姉ちゃんたちを説得したときに1番上のお姉ちゃん、久子お姉ちゃんが言いました。

「裕子、男は顔で判断しろ」


「はい?」


「勘違いするなよ。何も顔を見ただけでそいつのすべてがわかるわけではない。でも、判断基準にはなる」


「でもお姉ちゃん。昔先生に人を顔で判断してはいけませんよ、って言われましたよ?」


「ああ、そうだな。私も言われた。でも、信じた結果がこれだ!」

 そういって久子お姉ちゃんは2番目のお姉ちゃんの由希子お姉ちゃんを指さしました。

 お姉ちゃんは俗にいう引きこもりというやつです。

 中学に入ってからしばらくして学校に行くのが嫌になったそうです。

 初めは学校に行きたくないと言い出し、今では家から外に出たがりません。

 前に理由を聞いたところ、外には男の人がいるからと言っていました。

 学校で何があったのかは教えてはくれませんでした。



「でも……」


「私だってな……」

 久子お姉ちゃんは感傷モードに入ってしまいました。

 こうなったお姉ちゃんはしばらく動かなくなってしまいます。

 いつも2~3分くらい経つと泣きだしてしまうので、今のうちにティッシュを持ってきてしまいましょう。


 久子お姉ちゃんは、5年前に結婚しているハズなのですが、結婚後1か月もたたないうちに我が家に帰ってきてしまいました。

 それからというもの家からあまり出たがりません。

 夫の博之さんと何があったのかは私にはわかりません。


「……でだな」

「お姉ちゃん、はい」

 そういって私はぐすっぐすと鼻をすすり鼻声になってきた久子お姉ちゃんにティッシュをボックスごと渡しました。


「ああ、ありがとう」


「だから、男には注意しろって言ってるんだ」


「はい」

 多分いつも通り博之さんの愚痴を言っていたのでしょう。

 私が見た感じでは悪い人には見えないし、結婚するまでは久子お姉ちゃんは博之さんとのノロケばかり話していたのですが……。

 結婚してみないとわからないものなのかもしれませんね。




「お姉ちゃん、私もう行かなきゃ。入学式に遅刻しちゃう」


「ああ、姉ちゃんたちは見に行けないけど頑張ってくるんだぞ」


「お姉ちゃん、入学式に頑張るも何もないよ」


「いいか、くれぐれも男、特にイケメンには注意するように。奴らは恐ろしいからな」


「はいはい」

 久子お姉ちゃんはどうやらイケメンさんが嫌いのようだ。

 久子お姉ちゃんだけではない。由希子お姉ちゃんもお母さんも。


 イケメンさんに会う機会なんてそうそうないというのに、私が共学に行くと決めた日からそればっかり。

 みんな心配性ですね。

 それも私を心配してのことだということぐらいわかってはいます。



 私だって漫画でイケメンさんについて予習ぐらいしてありますよ。

 イケメンさんってツボを売りつけたりとかしてくるらしいです。

 気を付けなくっちゃいけませんね。



 って気合を入れたはずなのに、なぜ私は今イケメンさんと一緒にいるのでしょうか?


「裕子さん、美味しいですか?」


「はあ」

 私は今、イケメンスマイルという名の凶器を向けられています。

 それに呼応するかの如くいたるところから向けられる殺気。


 ただ笑みを浮かべているだけなのに、これほどの攻撃力を持つとは……。

 はっきり言って怖いです。


 入学式が終わってからまだ1時間もたっていないんですよ?

 私は何もしていないはずなのに、気が付いたらイケメンさんがお気に入りなのだとかいうこの喫茶店にいて一緒にお茶なんか飲んでいる。


 イケメンさんは魔法でも使うのですか?


 この場から一刻も早く逃げ出したい。

 これはどうすれば逃げ出せるのでしょうか。

 教えてください、お姉ちゃん!


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