愛してるよ。誰よりも深く
「おかえり、ゆうくん。どうしたの?」
「ただいま、なっちゃん」
勇人は私の幼馴染。小さいころからずっと一緒にいて、今は訳あって同居している。
そんな勇人は最近帰宅すると暗い顔をしている。
今日も例にもれず暗い顔をして帰宅した。
「何でもないよ」
「何でもなくないでしょ。ゆうくんが暗い顔するようになってからもう1週間も経つんだよ? 心配にもなるよ!」
「なっちゃん……」
「何があったのか教えて。 ね?」
「うん、実は……」
そういって勇人はここ最近の学校での出来事を教えてくれた。
「1週間前に俺が学校へ行くと机の上に花が置いてあったんだ」
「花?」
「うん、花。初めは軽い嫌がらせかなと思ってどけて授業を受けた。でも、この1週間俺が登校すると絶対に机の上に花が置いてあるんだ」
「友達は何も言わないの?」
「聞こうとしても無視するんだ。俺のこと嫌いになったのかな」
「嫌いになったなんてそんなこと……」
「花が置かれるようになった数日前に俺は……」
「どうしたの?」
「俺は何をしたんだっけ?」
「へ?」
「確かあいつらに嫌われるかもしれないと思ったことがあったはずなんだけど……」
うーん、なんだっけ。とうなりだす。
「思い出せないならたいしたことでもなかったんじゃない?」
「でも、きっとそれが原因だと思うんだ。みんなと仲直りしたいから何としても思い出さないと」
「そう? 別に私は無理に思い出さなくてもいいと思うんだけどな」
「意外ときついんだぞ。机に花を置かれたり無視されたりすんの」
「そうだけど。でも、ゆうくんには私がついてるじゃない。学校は違うけど家に帰れば私がいる。学校のみんなとお話しできない分、私と話せばいいじゃない」
「なっちゃん……。ありがとう、元気出た」
「そっか」
「うん、明日もめげずに皆に話しかけてみる! でも、また無視されたらなっちゃん、励ましてくれない?」
「もちろん。いつだってゆうくんの味方だよ」
1か月ほど前から、勇人はめっきり私にかまってくれなくなった。
なぜだかはわからなかった。私が何かしてしまったのだろうかと考えて眠れなくなる日が続いた。そんなある日、勇人が同じ学校の女の子と楽しそうに歩いているところを見てしまった。
勇人は昔から私と違って同性の友達はもちろん異性の友達も多くいた。だから、その女の子も友達だと思った。
「彼女と放課後デートか? 見せつけやがって。これだから彼女のいる奴は」
「くそ、なぜ俺達には彼女がいないんだ!」
「仕方ないだろ。お前たちとは顔の作りが違うんだよ」
「「イケメンよ、滅びてしまえ!!!」」
「というかお前、なっちゃんはどうしたんだよ?」
「なっちゃん? 誰それ?」
彼女と言われた女は勇人の腕にべったりとくっつく。
「ああ、なっちゃんはただの幼馴染だよ」
「ただのってなんだよ。俺も女の子の幼馴染ほしーわ」
「やめとけよ。前まではいいかもって思ってたけど、最近うっとうしいんだよね。嫌になってくるよ」
「なっちゃんは優しい子じゃないか」
「あんなやつ、いらねーよ」
「おい、それはいくら何でもなっちゃんに失礼じゃないか?」
聞いていられなくなって私はその場を離れた。
私はずっと勇人のことを考えて行動していた。
勇人に美味しいって言ってもらえるように料理を頑張った。
掃除だって、苦手だったけど勇人に快適に生活してほしくて頑張った。
全ては勇人に認めてほしくて勇人のためを思ってのことだった。
それを勇人はうっとうしいと感じていた。
私というものがありながら、彼女を作った勇人。
違う学校に通いようになってから、私の知らない友達がたくさんできた勇人。
私をないがしろにし始めた勇人。
全ては高校に入ってから。高校に入るまではこんなんじゃなかったのに……
なんでこんなになっちゃったんだろう。
私はこんなにも愛しているのに何で伝わらないの?
私の気持ち、勇人にもわかってほしい。
私だけを見ていてほしい。
「ねぇ、ゆうくん。今日はゆうくんの大好きなハンバーグ作ったんだ」
「あー、俺もうご飯食べてきたんだよね」
「えっ」
勇人が彼女とご飯を食べて帰ってくることは知っていた。
それでも、知らないふりをする。
「ゆうくん、昨日はそんなこと言ってなかったじゃん」
「いきなり決まったんだよ。部活の帰りにみんなで食べに行こうってさ」
違う。
昨日、彼女と電話してたよね。一緒にご飯食べに行こうって。
私、知ってるよ。聞いてたから。
なのに、なんで嘘つくの?
「せっかく作ったのに……」
「わかったよ、食うからさ」
「ほんとに? 今、用意するね」
「はい、ゆうくん。どうぞ」
「ありがとう。うん、うまい」
「そっか。よかった」
ゆうくんが私の作ったハンバーグを食べてくれて。
優しいゆうくんなら食べてくれるだろうって思ってたけど、もし食べてくれなかったらと思うとひやひやしてたんだ。
食べてくれなかったらゆうくん、苦しくなっちゃうかもしれないから。
「なんか、眠い」
「無理せず寝ていいんだよ」
「でも、まだ風呂入ってないし」
「そんなこと気にしなくていいから」
「でも……」
「明日休みなんだから、朝にゆっくり入ればいいじゃん」
「それもそうだな。じゃあ、おやすみ」
「うん、おやすみ。ゆうくん」
勇人はしばらくは起きないだろう。
なんてったって大量の睡眠薬入りのハンバーグを食べたのだから。
「よく寝てる。ゆうくん、普段全く薬飲まないから効きがいいんだろうね」
そして私は寝ている勇人の頭を思いっきり灰皿で殴った。
勇人の頭部がぼこぼこになるまで。
「ゆうくんがイケメンだからいっぱい人が寄ってきちゃうんだよね。人が寄ってくるから私のことうっとうしくなっちゃうんだよね。ゆうくんに人さえ寄ってこなければ……」
数時間にわたり殴り続けようやく気がすんだ私は勇人が息をしていないことを確認した。
「うん、これでもうゆうくんによって来る人は少なくなったよね」
大好きなゆうくん。
こんな顔になっちゃったら、きっと彼女もいなくなっちゃうね。
それでも、私はずっと一緒だよ?
これから、ずーっと一緒。
私のことだけを考えてね。
学校の友達も彼女も勇人のことは見えていないようだ。
きっとそれは、勇人に向ける愛が足りないせいだろう。
だって、私には見えているし会話だってできる。
私は勇人のことを誰よりも深く愛しているから。
今までもそしてこれからも愛し続けるから。
だからずーっと一緒にいようね、ゆうくん。