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月は望む  作者: 月見団子
2/2

入学編二 再会、そして

花びらの舞い散る桜並木を進んだ先に見えてきた白い煉瓦の塀それの向かって正面、校門をくぐると大きな洋館風の建物が幾つか見えた。

薄い水色の本館に並び両隣に建つ白の一回り小さな同じ見かけ三つの建物。三つ目の校舎は向かって左の教室棟の奥にあるのでここからは見えない。

とても学校の校舎とは思えないそれは、この春から俺たちが通う黎輪学園の本校舎だ。向かって左の二つが教室棟、右が文科系クラブの部活棟である。

今いる本校舎前の噴水広場から本校舎を抜けた先には校庭がある。その校庭の隣に体育館(地下に温水プール有)、体育系クラブの部室が並んでいる。

そして、今日から俺たちが暮らす寮は噴水広場の右側、文科系クラブ棟の向かいにある。

「にしても、本当に広いな。ってあれ?」明日可が居ない。おかしいさっき校門を抜けて広場に入ったときには一緒だったはずなんだが

「おーい明日可―」

四方八方見渡してみたが明日可の姿は見えなかった。

「あいつ、一体この短時間でどこ行ったんだよ。おーい」

噴水広場の左、教室棟の向かいにある庭園エリアに向かう。ここでは季節の花や色々な樹木、植物が園芸委員と教師たちにより整備されている。

一部温室もあり、ベンチや机も要所要所に設置されているので生徒たちの昼食や休憩の際に利用され、人気を集めている。

学園のパンフに書いてあった箇所を、明日可が見入っていたのを思い出して向かう。

広場を抜け庭園の中に入っていく。

入り口にはプランターに色とりどりの小さな花々が咲いていた。

その先に水が流れてる音を聞きつけ、その音の方に向かう。道の両側の植え込みにはハナミズキや桜草が植わっており、桜の木や銀杏、遠くにはメタセコイアも立っていた。桜の花は散りはじめだった。

 狭かった通路を進んだ先に現れたのは小川だった。人工の、コンクリートで岸を固められた物ではなく、本当の、天然の川に思えた。

 心地よい小川の水の流れる音で耳を潤し、先へと進んだが、相変わらず明日可の居る気配は無かった。

戻ろうか、と思ったその時。木の間からレンガ造りの建物が目に入った。

 気が付いた時、俺はその建物の目の前に来ていた。こげ茶色のレンガで造られた二階建で、所々に窓はあったが全てカーテンが閉められていた。

建物は決して大きくは無く、歩いて三分と掛からず一周出来るほど小さかった。入り口の扉は両開きの木製の扉で、シンメトリーに成っているようで、翼を広げる大いなる中生代最大級の翼竜の姿が描かれていた。

「ケッツアルコアトルス」その二頭がお互いを睨んでいるかのような、今にも動き出しそうなほど生き生きとしたそれが彫られていた。

 扉を押し開け、室内に入ろうとしたが、立ち止まる。

真っ暗な事は外に居てもある程度想像していたが、本当に真っ暗ではないという方が不気味さは増すという物だ。

 俺が立ち止まったのはその不気味感だけではなくもう一つ。

 一つに、建物の内部構造に見惚れていた。ということだ。

 二階立てという部分は正しかったが二階と呼べる場所は一階の中央にある階段を登った所から両手に伸び、壁を一周する様に作られている本棚と通路。階段を登った両端に置かれている蝋燭の明りが益々、俺の興味を引き立てた。

 一階と二階どこを見ても面白そうな本が並んでいる。ここは是非ゆっくり見て回りたいところだが、今はどこに行ったのか分からない明日可を探す事が先決だと考え図書館?を出た。

 改めて噴水広場に戻ったがやはり、明日可の姿は見えなかった。

 探すのを一旦諦めて俺は噴水広場の正面、本校舎一階の職員室に向かった。今日一番初めのタスクは本来明日可を探す事ではなく、職員室に顔を出し入寮の手続きを二人分済ますことだった。それなのにあいつは、などと考えている内に職員室に到着。

 ドアをノックし職員室に入る。

 入ってすぐの場所に、見覚えのある教師を見つける。

 「、次年度一年生の月原真耶です。入寮の手続きをしに来ました」

 「こんにちは、月原君、物理教師の坂井直臣です。来期から君の担任になります。よろしく、それと、入寮の手続きはそこに座っている大隅先生にお願いしてくれ」

  「了解しました」

坂井先生の左手にあるデスクに座っている先生に改めてお願いする。

 「大隅先生お願いします。ここまで一緒に来ていた菊野明日可の分もお願いできますかね?」

「分かりました、もしはぐれたりしていない、という事なら、後ほど菊野さんに職員室に来るように言ってください」

「分かりました。伝えておきます」

ほんの何十秒かパソコンでの入寮の手続きを仮生徒証を貰った。

「新学期が本格的に始まったら、担任の先生から本証を受け取るので、それまではこれではこちらを。この仮生徒証は本証配布の際に回収するので、それまでは無くさないでくださいね。後学外に出るとき、敷地内に入る際はこの仮生徒証を入り口のカードリーダーにかざすとロックが外れるのでそのように。何か質問ありますか?」

質問の必要がない程しっかり教えてくれたので礼を述べ、部屋を出た。

本校舎の左側、これまた立派な建物。白が基調で所々に様々な絵が線画でえがかれている。 よく見るとアルファベットをモチーフにしたものみたいだ。様々に工夫されており、見ていて楽しかった。

建物の正面。寮の入り口の左側にはQを右側にはWをベースにしたものが描かれていた。

寮の玄関は外のような意匠は施されていなかったが、安心感を感じるような場所だった。

寮に入って左側に、事務所があった。が、事務所に入る扉の横に一台起動しているパソコンがあって、そこには「生徒用入寮手続き」と書かれた画面が出ていた。

そこで入寮手続きの最終確認を済ませると、パソコンにの横にあった棚の引き出しが自動で開き、なかから、俺の名前の入ったルームキーが出てきた。RN2—01と書いていた。しかし、そこで俺はしばらく固まる。何故か俺専用のルームキーだと思っていたらその裏、ルームメイトの欄には「雷土 透」と書かれていた。俺はその人物を知っていた。

雷土と書いてあずまどと読む。彼は俺のいた中学校で、恐らく一番の有名人。そして、女なのだ。

いや、実際には男だ。なのだが、本人はそう扱われるのが好きじゃ無いらしく、そう扱ってほしいらしい。病気とかではなく、個人的な希望だという。

雷土とは実は小学校以来の知り合いなのだが、昔に少しあり、今ではすっかり疎遠になってしまった。そんなこんなで雷土と同室というのはどうも気まずい。

あえて俺と透が同室だったことに意味を見出すとしたら、何も知らない奴が雷土とルームメイトにならなくて良かったということぐらいだ。

入って右側に見えた階段を登り、二階に上がる。登って右側、すぐそこに2-01号室があった。

ノブを回したが、開かない。先ほどの鍵を使い、解鍵する。

部屋の内装はパンフを見たときにある程度知っていた。勉強机の上にベッドが付いている一体型のデスクベッドが二つ、その間に折りたたみ式のちゃぶ台、トイレやクローゼットは入ってすぐのところにあるが、部屋の窓際にもスペースがあるので自分でカスタマイズすることも出来る。

入って右側のデスクに荷物を下ろす。椅子に座り、一息つくとデスクの上に置いてあった。自宅から俺が送った段ボールの中身を出し、これまた俺が送った愛用の収納棚に収めていく。荷物の整理が終えたところで私服に着替えた。

寮生は寮内又、学内の広場や庭園での私服着用を許可されている。勿論、ある程度の節度を守って。

着替え終わると部屋を出た。

改めて広場や庭園まで見て回ったがやはり、明日可の姿は見えなかった。メッセージも送っているが何の返信もない。ここまでになると何かあったのかと少し心配になる。その時。

「あれ?真耶もう着替えたんだ。」

後ろから聞き覚えのある声に話しかけられる

「明日可!今までどこにいたんだよ。」

不意に現れた明日可に驚きつつ少し苛ついていた。

「ごっごめん!入ってすぐのところに可愛い猫がいて、つい」

本人曰く可愛い猫がいたので追いかけて行った。というのだ。

「急にいなくなるなよ、びっくりするだろ」

「はーい」

「入寮手続き、しておいてやったから職員室行っておけよ。いちよ本人が来ないとダメみたいだから」

「はーい、じゃあ今行ってくるね」

そう言うと職員室の方にかけて行った。

いろいろ一段落したので俺は寮に戻った。

部屋に戻り、椅子に座ったとこで気がつく。向かいのデスクに見たことあるカバンんが置かれていた。透が来たのだろう。しかし、姿が見えないということはどこかに行っているのだろう。あと少しはゆっくりできると思っていた矢先。

ガチャ、ドアが開き彼女が入ってきた。

「やあ、真耶君卒業式以来だね。」

「わざわざ言うほどでもないだろ、昨日なんだし」

椅子を回し入ってきた透の方を向いた。

「どうしたの?真耶君」彼女がそう言うのもそのはず、俺は風呂上がりであろう、彼女の体から湯気が立ち上っている姿を見て椅子から転げ落ちそうになったのだ。

「いやいやいやいや、なんでバスタオルだけなんだよ‼‼」

「へ?風呂上がりだからに決まっているじゃないか」

その平然とした振る舞いに今も俺は信じられずにいた。

中学校の沖縄へ行った修学旅行の二日目の晩。最終日の市内観光を残し、後は布団に入って寝るだけ。そんな時、風呂場から悲鳴が聞こえてきた。

みんなが布団に入り、就寝時間になってからわざわざ風呂の鍵まで施錠してから入浴していた透と他のルームメイトが洗面台で鉢合わせしたようで俺も声の大きさに驚かされ風呂場に向かった。が、洗面所の外で立っていたルームメイトは気まずそうに布団の方に戻っていった。ノックをしてから何も返事がないのが気がかりでゆっくりと入る。

鏡の前にバスタオル姿の透が立っていた。

どうした?と、聞く前に透は

「何もないよ、おやすみ」

そう言うと少し空いて出て行って。とばかりに背を向けた。

「おやすみ透」

そう言うと俺もあいつ同様布団に戻った。透からの返事はなかった。

しかし、次の日の朝からは何もなかったように振舞っていたので俺もそれ以上は気にしなかった。

そんなことがあったので今の透の行動に俺は疑問を抱いていた。

「取り敢えず服着ろよ、春だからって侮ると風邪ひくぞ」

「分かってる、だから服出し忘れていたの思い出して取りに来たんだよ」

あ、なるほど。

「でさ、真耶君」

「なんだ?」

「少し、むこう向いておいてよ。」

「そうか?わかった」

そこには着替えている男子とそれを見ないように少し照れながら反対側を見ている男子がいた。何やってんだろ俺。

しばらくして、着替え終わったらしく、いろいろ話したいなと思って振り返るとそこには長めの髪を纏めてポーニーテルにし、Tシャツに薄めの上着を羽織り、短パンで裸足。の端から見ると本当に女の子じゃないのかと思うような子が居た。というか、透なのだが。

「ねえ、真耶君はなんでこんなとこにきたの?」

「へっ?ああ、俺は明日可に誘われてきたんだよ。俺自身行きたいところはなかったからさ」

「そうだったんだ。まあ、これからもよろしくね」

そう言うとなぜか寂しい顔を少し見せた。

「どうかしたのか?」

「ううん、なんでもないよ。明日可ちゃんも居るのか、楽しいだろうな。もしかして風ちゃんもいるの?」

「ああ、いるよ。あいつが来るのはまだ先だけどな」

「そっか、本当に変わらないんだな三人は」

「そうだよ、俺たちはずっと三人だったからな。勿論これからも」

「……楽しかったなぁ、あの時までは」

「へ?なんか言った?」

「ううん、なんでもないよ」

「そうか?そういえば透はなんでここに?」

「ここは思い出の場所だから」

「ほう、誰か大切な人がここに通っていたのか?」

すこし、言葉に詰まったように見えた

「うん、とっても大事な人が居たんだよ」

すごく寂しそうな顔をする。その刹那俺の事を見られたような気がした。

「それよりさ、とっておきの場所があるんだ。一緒に行かない?」

透は立ち上がり俺に手を伸ばす。

「よし、行こうか」

手を取り立ち上がる。

薄目のTシャツだけだったので上に一枚羽織り、部屋を出だ。

寮を出て、教室等を越え、体育館のさらに向こう。今まで行ったことのない場所だったが透の先導で体育館の横の山道を登っていく。途中運動靴で出てきてよかったと、思うような場所もあったのだが、透は軽々サンダルで進んでいっていた。すげえなこの道を。

五分ぐらい山を登った辺りで開けたところに出る。そこに現れたのは小さな山小屋だった。透は自然に中に入っていく。一瞬躊躇したが俺も続く。

小屋の中は真っ暗だったが、奥にうっすら非常灯らしきものが見えた。その瞬間、透が電気を点けたのだろう。眩しい光とともに部屋の全貌が明らかになる。見えてきたのは使い古された黒板、十人ほどが掛けれそうな机と椅子のセットにこれまた十人分ぐらいの荷物が入ろうな個別ロッカー。何かの部室か?と思って見渡していると、

「ここね、地学部の部室なんだ、ま、名ばかりで今は使われていないんだけどね」

「ここか?来たかった場所って?」

「ちがうよ、この奥、ついてきて。あ、そこの懐中電灯を一つ持ってきてね」言われるがままにライトをとり、後に続く。

小屋の一番山側、本来なら壁があるだろう場所にそれはなかった。

「ここにあった壁、何年も前の先輩たちがなくしたらしいよ」

そして、不自然に、壁の真ん中に置かれている棚を押し始めた。きつそうだったので俺も手伝う。

棚をどかすとその後ろから洞穴が現れた。

「何でこんなとこのに洞穴が?」

「過去何年かの先輩たちが掘ったらしい。で、見せたいものはこの奥」

そう言うとさっさと、洞穴の奥まで歩いて行ってしまう。

穴は十メートルもないところで終わっていたそれでも人が通れるサイズでここまで掘ったのはすごいと思う。

突き当たりまで行くとそこにビーチチェアが二つ並べてあった。なぜこんなところにこんなものが?

「座って、後ライトも消してね」

言われるままにする。

頭上。洞穴の天井に広がっていたのは満天の星空のような美しい光景だった。不規則に散らばる、大小様々な淡い緋色の輝きは暗闇でひときわ美しく思えた。

これか、透が俺に見せたかったのは。

「素敵でしょ、私の一番好きな場所。」

本当の、曇りのない、星でいっぱいの夜空を見たこともあるがその時に感じた感動とはまた別、なんとなく暖かさを感じる空だった。いや、空ではないのだが。本当の空に感じる寂しさや感動とはまた違う。何か別のときめきを思わせる素敵な場所だ。

どれくらい時間が経ったのかも覚えていない。

少しの間寝ていたのかもしれない。

気がつくと、そこに透はいなかった。

ライトをつけ、地学部の外まで戻るが、彼女の姿はなかった。登ってきたのとは逆。さらに山を登る道があった。その先にいる気がして俺は道を登った。すると、大きな一本の杉の木が目に入ってきた。その気の根元に彼女は腰を下ろして本を読んでいた。

「透、どこに行ったかと思ったよ」

「やあ、おはよう。あそこよく寝れるでしょ?」

「そのようだな。」

地学部室から出たあたりから気づいていたが、もう日が傾きかけていた。どうやら四.五時間近く眠っていたみたいだ。

透は足を崩し、立ち上がる。

「戻ろうか」

そう言って透は歩き出した。

透が根元に座っていた杉の木の大きさに驚き眺めているうちに透は先に降りて行った。すれ違いざま、見えた透の目の端が赤くなっていた。

来た道を下り、教室棟を抜けた辺り、山間から刺す西日が眩しかった。

「遅い!どこ行ってたの⁉」

明日可がいた。

「あ、それに透くんまで!」そういえば、明日可は透のことを君付けで呼んでいたんだった。二人の会話をあまり聞いたことがなかったので忘れていた。

「すこし、な。さあ、入ろ」

寮に入り部屋で今日の地学部室での出来事を明日可に話した。プラネタリウムみたい!と興奮して明日また行く事になった。透は乗り気では無かったので、俺と明日可だけで行く事になった。


読んでいただきありがとうございます。

早く書けるようになりたいです。

これからもよろしくお願いします。

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