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月は望む  作者: 月見団子
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入学編 一 始まり

月は望む





 俺の名前は月原 真耶


 中学三年生の夏休みのことだ。俺は行きたい高校がまだ決まらずにいた。


そんな時、幼馴染の菊野 明日可が私立黎輪学園と言う高校に一緒に行かないかと進学先の候補として教えてくれた。明日可はオープンスクールの際にその学校の雰囲気を気に入ったらしく、早めの段階から進学先にと決めていた学校らしい。


 明日可があまりにも進めてくるので親の許可を得て黎輪学園に進学する事を決めた。さいわい、学力的な問題なかった。だが、そこは今住んでいる場所からかなり距離があり、少し抵抗があった。 学園は四方が山に囲まれており、田舎というよりは、山の中だった。俺は山よりは海が好きだが、山に囲まれている学校というのもいい物だと感じた。


 学園の雰囲気に魅せられたのか、俺も学園の事が好きになった。それでも、残っていた家族とはなれるという不安が無くなったのは明日可と一緒だったからだろうか。




四月の頭、三年間続いた中学生としての長かった生活は終わりを告げた。


卒業式を明日に控えた俺と明日可、そして友人の花田 風音の三人で今、風音の家の部屋に集まっていた。俺たち三人は親同士が仲良しだった事で赤ちゃんのときに知り合い、今日までずっと仲良くやってきた。そんな三人だったが、そんな仲のいい三人でも偶に喧嘩をした事もあった、ひどい時は一日中口の聞かなかったりもした。でも、いつもいた三人組みが一番だということに皆気づいていたから直ぐに仲直りした。天真爛漫な笑顔が可愛い風音、その可愛い風音を愛でる明日可、そして、そんな幸せそうな二人を眺めるのが俺は大好きだ。


 その晩は三人ではしゃぎ明かした、それでも、日付が変わり、二時ぐらいになると三人、疲れ果て、何年ぶりだろう、朝まで三人川の字で寝てしまっていた。何も知らない人に見られると、何か変な勘違いをされ、浮きだった噂なんかを流されそうだが、この三人はそんな事を気にする様な仲じゃなかった。傍から見るとただの仲のよい兄妹の様なのだから。



 次の日は三人ともとても早かった、真耶と明日可の家は直ぐ近くなので六時代には風音の家を出て二人とも帰宅した。


 再び、着替えて学校で会ったときにはいつものまじめな三人組だった。


 卒業式が終わり、クラスの集合写真を撮る、ということで八組は担任の先生が音楽の先生でクラスにも音楽好きな子が多かった事から特別に、音楽室を開けてもらい、そこで集合写真を撮った。普通は校庭や中庭で撮ることが多いんだろうけど、これはこれでうちのクラスの味があって良かった。

妹がそんな簡単に帰るとは思えないので俺は一人、いろいろの事を思い出しながら帰った。中学校から家に帰るまでにある桜並木は満開までは行かないものの見事な物だったし、いつまでも聞こえてくる同期の子達の話し声が俺の一人でいると言う事をおもい知らせているようで辛くもあった。まあ、実際本当に仲のよかった数人の連中意外には友人と呼べる人物はいなかったわけだが。少し自嘲気味に笑う。

今更になってあの時ああしていれば、なんていうのが幾つも出てきた。過去にはちょっとした事で切れてしまった繋がりも幾つもあった。


 でも、今の俺には明日可と風音いる。あの二人がいれば俺大丈夫。


 歩く事数分、自宅に帰ってきた、この家にも暫く帰ってこないんだよな。寂しさを覚える。自室の扉を開けるとそこには。


 「おかえりー真耶」部屋の真ん中に制服のまま明日可が寝転んでいた。


 「来てたのか、明日可」


 「うん、あ、お母さんが買い物にいってくるって言っていたよ。」今夜は家族ぐるみの付き合いである、月原家、菊野家、花田家の三軒で焼肉をすることになっている。


俺と明日可が明日には学園の寮に行ってしまうからである。俺はもっとゆっくりでもいいと思ったのだが、明日可が早めに行きたいというので俺も一緒に早めに行く事にした。


「あ、それで居なかったのか。それより、明日可はクラスの連中と話してこなくて良かったのか?」


「うん、二人とはこれからも一緒だしね」


「そっか」明日可がそう言ってくれるのが嬉しい。


「あ、真耶が照れてる!」


「照れてない!」つい向きになって返してしまう。


「いいじゃん、あたしもさっきみたいな事、真耶に言われたら照れてたかもしれないんだしさ」


「わかったよ。そういえばお前、午後から風音と一緒に来るって言ってなかったっけ?」


「うん、そうだよ」??


「欲しい物があったから先に来たんだよ、風ちゃんに知られたら恥ずかしいし」?ますますわけが分からん。


「見てのとおりだけど、俺寮に私物送っちゃったから殆ど物無いぞ?」


「在るよ、ここには三人で過ごしてきた十年余りの思い出が」そう言った明日可の声はとても真面目で暖かかった。


「そうだな、でも、思い出は共有してるだろ?」


「うん!勿論だよ」 


「じゃあ、何がほしいんだ?」


 「私が欲しいのは、真耶の第二ボタン・・・」少し顔を赤らめながら言った明日可の表情はとても可愛かった。


 「いいよ、もう、この服を着ることはないだろうし。」ボタンを外し明日可の手の平に置いた。


 「ありがとう、中学校の卒業祝いの真耶からのお祝いって事でもらっておくわね」うれしそうにボタンを握り締めている。


 「じゃあ、また三時ぐらいに風ちゃんと来るね」そう言って明日可は立ち上がり。


 「真耶!中学卒業おめでとう」と残し帰った。



 俺の双子の妹の沙耶は学校でも明るく聡明で皆の人気者だった。沙耶と相反するポジションにいた俺は少しばかりうらやむ気持ちもあったが、同時に純粋に妹が幸せに学校生活を送っている事に安心と嬉しさを覚えた。



 私は真耶の事羨ましかった。幼い頃から同学年の子を率いて夕方まで公園で楽しそうにしている姿が、大好きだった。しかし、いつからだろう、真耶は周りから疎まれるようになった様に感じられた。私は内気で幼い頃はよく真耶の陰に隠れていた。そんな私を庇ってくれる真耶の存在にずっと助けられていた。


でも、小学校の5年生ぐらいからは一人でがんばろうと思い自分から友達を作った。そのときのことはよく覚えている、嬉しくて真耶や明日可、風ちゃんにも言っていたのだ。私はその友達をきっかけに次第に交友関係が広まっていった、幸い私は「可愛い子」といわれる部類に入っているらしく、仲のいい子は沢山出来た。そんなこんなで小学校生活は楽しかった。


しかし、中学校に上がってから、いつの間にか私の周りには私の見かけ目的の男子やその男子に興味のある女子たちで埋め尽くされていった。本当に仲良くなれたのは最初の友達くらいだった。


 でも、彼女、沙那ちゃんの好きだった男の子が私のことを好きになり、そのことを知らないまま私は振ってしまい、その後沙那ちゃんとはあまり話さなくなってしまった。


 今では本当に仲のいい友達と呼べる子は居ないんじゃないかと思えてしまう。


 沙那ちゃんとの関係がギクシャクしていたのは中学一年の秋、その頃からちょうど真耶も皆から疎まれるようになっていた、後から明日可に聞いた話だが、あの時真耶は沙那ちゃんに謝りにいっていたというのだ、まったく何をしているのかとそのときは思った。


 それが、あらぬ誤解を生んで真耶が同学年に疎まれる原因になっていたという事も私は後から明日可に聞いた。その当時真耶と仲のよかったグループは沙那ちゃんの事を真面目過ぎる、見下されている等といい、とてもどうでも良い事で嫌っていた。真耶は色んな人と仲が良かったから、中にはあまり柄の良くない人もいた。そんな中真耶が沙那ちゃんと二人で会っているのを目撃してしまったもんだから、真耶はグループから追い出され、それから負の連鎖とでも言うのだろうか、もっと多くの人からよく分からない理由で嫌われるようになった。


 私が気づいたときにすでに遅くて真耶は明日可と風ちゃんの三人になっていた。


 そこまでなってから謝れるはずもなく、あたしは今も後ろめたさをむねに秘めている。それなのに真耶はいつまでもあたしの事を心配して、「最近どうだ?」なんて聞いてきたりする。その影で一人のときは寂しそうにしているのに。




 卒業式の晩、一度来ていた明日可が再び風音と一緒に来てから、少したったあたり、少し肌寒くてもバーべキューで火を囲めば寒くはなかった。親たちは家の中で俺達の成長記録なんてものを出してきて観ている。俺と明日可、風音、沙耶は家の庭で肉や野菜を食べながら四人で過ごせるこの時間を楽しんでいる。


 これからは三人が地元を離れ、沙耶も、近所の高校に通うようになるだろう。だから、この楽しい晩餐の時間は暫く味わえなくなる。そう思うと本当に今までの変わる事のなかった日常に特別な価値を見出すことが出来きた。

沙耶のための行いが自分の首を絞め、生活を一変させたあの一年生の秋。ずいぶん昔な感じしたけれど、まだたった二年しかたっていなかった。これからの何十年もの時間の事を考えるとほんのちっぽけな事だとやっと振り切ることが出来た。空には箒星がかかり手放した気持ちを持って行ってくれたような気がした。


 バーべキューは八時ごろに切り上げ、今はリビングで休憩している。


 親たちの見返しているビデオの中の過去の自分に恥ずかしくなって顔を赤くしながら俯く沙耶の事をさらに「可愛いい」だとか「ハグしたい」やら、さらに追い討ちをかける風音。その次の瞬間、二歳ぐらいの風音が家の庭でプールに入っている時の映像が流れてきた。沙耶に続き風音も恥ずかしさのあまりテレビ画面の前に出てきて体を張って隠した、それもその筈、映像の中の風音は上半身裸だったのだ。

これはこういう反応を楽しみたかったであろう、彼女の母親の仕業ではないかと俺は思った。そして次の瞬間に確信した。彼女の母親がとてもうれしそうに満面の笑みを浮かべていたのだ。以前から分かっていた事だが、やはり千代さんは風音の事を溺愛しているのだと改めて思った。しかし、それにしても、やる事が過ぎませんか、千代さん。


 そんなこんなで、夜は更けていった。みんなが帰った後部屋に戻ってしばらくした頃。明日可からメールが届いた。

「明日、何時くらいに迎えに来てくれるの?」そういえば今日明日可に言おうとしていたが忘れていた。

「明日は昼前に向こうに着く予定だから九時くらいに迎えに行く」と返した。そしてその一分後くらいに

「りょうかい!」と帰って来た。次の日に何か特別な事がある日に限って昔から夜更かしする癖が明日可にあるのを俺は知っているので、

「今日ぐらいは早く寝ろよ」とも書いて送った。

「善処します」と返って来た。わざわざこう返ってくるときに限って明日可は夜更かしをするのだ。明日の朝、起きてるよね?明日可。

その後は風呂に入って布団に入った。

今日は色んな事が沢山あったから疲れていたが直ぐには眠れなかった。

それでも、イヤフォンで歌を聴いていると暫くすると眠っていた。


一夜明け、今日から俺と明日可少し遅れてだが風音、三人はこの町を出て、黎輪学園の量に住む事になる。そう思うと今横になりながら見上げるこの天井とも暫くの間お別れなのだと寂しくなる、でも、これから始まる新しい生活に希望を持ち望めば、楽しくやっていける。今はやっとそう思えた。

起き上がり、寝癖を直し服を着替えた。新しい制服に初めて袖を通した。

鏡に映る自分の姿にはどうにも違和感を感じたがこれからの事を感じても仕方がないと気にしない事にした。部屋を出て、一階のリビングに向かう。微かに匂ってくる味噌汁の匂いが空腹のお腹を余計に空かし、ご飯の炊けた匂いも更にそれを助長する。

「おはよう」食卓にはお母さんしかいなかった。

「おはよう、真耶。沙耶とお父さん、さっき出かけたわ。帰るのは少し遅くなるみたいだから今度会えるのは少し先になるわね。」母さんは少し寂しそうに言った。

「そっか」まあいいか、今日が今生の別れでもあるまいし。

味噌汁を啜りながら今日初めて時計を見る、なんともう少しで8時だった。少し寝すぎたと思いながら茶碗の中の米を平らげ、

「 ご馳走様でした。」

「はい、もう少しで行く時間ね。早めに行かないいけないんだよね、明日可ちゃんを迎えにいくから。」

「ああ、荷物取って暫くしてから行くよ。」椅子を入れ、リビングを出て再び二階へ、荷物は昨日までにまとめていたからすぐに出られる。二階の一番南の部屋が今までの俺の部屋だった。小学校に上がったぐらいに沙耶と取り合いになって勝ち取ったこの部屋も今度帰ったときには沙耶の部屋なってるかもしれない、今となってはもう構わないが。

部屋に置いていた荷物を持ち、部屋を出た。玄関に母さんが見送りの為であろう、立っていた。

靴を履いてカバンを持ち直す。

「じゃ、また入学式の日に。」

「うん、気をつけて行ってらっしゃい。」母は笑った。普段優しいがあまり顔に出して笑う事のない人だったが笑顔で送り出してくれた。

「行ってきます。」扉を開け、踏み出す。心なしかいつもより力が入っていた気がした。今日初めて見た空は快晴で、雲なんか一つもなかった。

俺の家の前の道を道なりに進むと暫くして明日可の家が見えてくる。いかにも最近の家という感じだがその見た目とは裏腹に家の中には畳の部屋があったりする。リビングには明日可の父親、雅史さんの趣味で北欧家具がたくさん置かれている。畳の部屋は妻の蛍さんが作って欲しいと頼んだ物らしい。

インターフォンを押すと、玄関で何やら物音がした。

「おはよう!」玄関の扉を勢いよく開け明日可が出てきた。そして、昨日までと違う長い髪を纏めて肩から流していた、今までは特に何かする事はなかったのだが。

「おはよう、待ち合わせの時間にきちんと間に合うなんて珍しいじゃん。」

「まあね、七時起きだよ。」すごいドヤーみたいな感じで見てくる。

「ところで、髪どうしたんだ、結ぶの好きじゃないって言っていたのに。」

「なんだろう、心境の変化かな。高校ではこれでいこうかなって思ってさ。」明日可は何かを思うかの様に少し俯く。

「良いんじゃないかな?新鮮で、可愛い。」何気なく返したつもりだったが、

「!・・・まさか真耶に、可愛いなんて言われる日が来るなんてね」驚いた様子だが、やがて、

「真耶も新しい制服似合ってる、黒髪にブレザーがよく合ってる。中学の時の学ランよりずっとかっこいい。」と褒め返してきた。褒め返してきたと感じるという事は俺の感想は明日可の事を意識せぬ内に褒めていたというだな。全く、褒めるだけなら、新鮮で、等という事はなかったなと思う。

明日可は荷物ももう準備できている様だ。扉の内側に修学旅行の際などに持ってきていた水色のリュックサックがあった。

「準備も出来ている様だし、そろそろ行こうか。」

「うん。」明日可はリックサックを背負い出てくる。

「二人だけで遠出するなんて初めてだね。」言われてみればそうだった。前に学園に行った時も両方の親がいたから二人だけで行くのは初めてだ。かと言って道が分からないという訳ではないので特に心配するような事はない。

「なんか、ワクワクしてきた。」そういうと明日可は軽い足取りで歩み出す。「そうだな。」珍しく俺も高揚感を覚える。


 「行こう!駅まで競争ね!」俺のほうも見ずに明日可は走り出す。その後ろには明日可を追う俺が居た。




 走ったので駅までは五分かからなかった。俺は偶に走ったりしていたけれど明日可はそんな事なかったので走り出して直ぐにへばってしまい、結局走ったのは最初の一・二分だった。


 切符を買い、三回にあるホームに上がる、後三分で乗る筈だった電車が到着する。ちょうどいい感じの時間にこれてよかった。


 「もう電車来るね。」


 「そうだな。」進行方向とは逆、駅のホームから見えた桜の花びらが風に吹かれ、高く高く、天空に舞い上がっていく。


 「桜が散り始めたか」向こうからやってくる電車が散らしているかの様にも見えた。


 「へ?」


 「何でも無いよ」


電車がホームに入ってくる。


車内は空いていて、俺たちも座れそうだった。


荷物を膝に置き、並んで座ると、間も無く扉が閉まり、電車が駅を出た。


明日可は名残惜しそうに窓から町を見下ろす。俺も町を見ておきたいと思ったが何故か敢えてそうしなかった。それはこの町に完全な別れなのだと偽りでも思ってしまいそうだったからかもしれない。代わりに空を見上げると、そこにはどこまでも曇りの無い空が広がっていた。


初めての投稿になります。

まだ文章を書くのも遅く、決して上手くもありません。

それでも読んでくださった方々

ありがとうございます。

これからも続き書いていきますのでよろしくお願いします。


2月5日

サブタイトル変更しました。

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