「剣と魔法」世界における金銀銅貨幣の価値比および重量に関する一考察
(まえがき)
拙作のこれ(https://ncode.syosetu.com/n2092cn/)を書いた際に計算してみたものを叩き台としています。そのため、始めからある程度の方針が先に立った上で考えを進めておりますので、一定の恣意性を孕んでいるものかと存じます。ご参考の際はそうしたあたりを割り引いてお受け止めいただけますようお願い申し上げます。
また、以前に活動報告のほうで長々と書き出していたこれ(https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/288175/blogkey/1084647/)をベースに整理したものとなります。原案、および考えの進め方や経緯などに関してはこちらもご参照いただくと事例の一つとして参考になるかもしれません。
この活動報告提示時にコメントおよび情報を寄せていただいた皆さま(イー・カー・ポーンさん、レガシー先生さん、赤井"CRUX"錠之介さん)に厚く御礼申し上げます。おかげさまで一段洗練することができました。
前提として、金と銀と銅の地金の価値比が、古代ローマから近世初期あたり(大航海時代以降の諸発見にともなう変動の前)にかけての歴史資料上だとおおよそ、
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の関係で、品位(純度)上の重量に基づく価値の比を求められるそうです。(もちろん時代や地域による差異は大きいです。)
また、各時代の金貨および銀貨の重量をチェックしてみると、1g(グラム)から4gほどのものがほとんどで、たまにその倍サイズとして7g~8gほどのものもある、といった具合のようです。
(銅貨は、西洋文明圏においては本格的に使われるようになったのが大航海時代以降であるため、普遍的かつ同様の見地から比べられる例があまり見受けられません。逆に東洋文明圏では銅貨・銅銭が主流であったため、参考用として多少視野に含めてもいいかもしれません。)
ここで問題になるのが、金本位制で兌換価値をまじめに保とうとした場合、地金の価値比から素直に割っていくと銅貨が重くなりやすいということです。
特に、十進数や五進数で貨幣の単位を作ろうとすると、銅貨1枚の重さが現代日本の五百円玉より数倍以上の重さにあっさり達してしまいます。これでは日常使用に支障が生じるだろうと。
そもそも銅貨というものは通貨の基準的位置になく、あくまで釣銭用などの補助貨幣に過ぎなかったはずなのですよね(金貨・銀貨が主軸の貨幣体制ならば)。平時に使用する貨幣の中心軸は銀貨であり、大きな枠組みとしての兌換基軸は金貨であると考えます。
そして、重量対策に関しては、いろいろと試算してみた結果としては「細かく貨幣を分割するしかない」という結論になりました。また、その単位の分け方に関しては四進数が最も適しているだろうという結果が弾き出せました。
史実上では二進数のものも多いのですが(二分の一の価値の貨幣、や、逆に二倍の価値の貨幣、など)、ローマ数字の法則からよく語られる人間の頭脳の「四つまでは見分けやすく、五つ以上は見分けにくい(“たくさん”扱いになる)」性質や、「手指を折って数えるのは四つまでが楽」の法則などから(五本目の指は桁上がりの管理に使うためです)、あまり文明程度が高くなく教育制度が庶民にまで普及していないだろう社会を想定する場合、四進数までで貨幣を管理させたほうが「全体のコスト」が低く抑えられるだろうと考えました。ぶっちゃけるとそのほうが普及しやすいでしょと。
で、そういった想定の下に算出してみた一例が、下記の表となりました。
貨幣重 品位重 価値比 タレム 円換算 ドル換算
金判 :80.00 72.00 16384 1024 \2,201,600.00 $25,600.00
金貨 :20.00 18.00 4096 256 \550,400.00 $6,400.00
小金貨: 5.00 4.50 1024 64 \137,600.00 $1,600.00
銀判 :15.00 13.50 256 16 \34,400.00 $400.00
銀貨 : 3.75 3.38 64 4 \8,600.00 $100.00
小銀貨: 0.94 0.84 16 1 \2,150.00 $25.00
銅判 :19.53 17.58 4 1/4 \537.50 $6.25
銅貨 : 4.88 4.39 1 1/16 \134.38 $1.56
小銅貨: 1.22 1.097 1/4 1/64 \33.59 $0.39
※表の横幅が自動折り返し(改行)を越えて見づらかったため、項目点「・」やスペースを削って字数を詰めています。そのためちょっと不恰好になりましたがご容赦ください。
※重量の単位はg(グラム)です。
※品位(純度)は.900(90%)を仮定しています。これは相当に良質な数字となりますので(金は柔らかいので銀を1割ほど混ぜて硬度を出したものが貨幣として実用する上では最良とされていることから、他の貨幣もすべてそれに準拠させている)、想定されるあなたの作品中における経済状況に照らし合わせて調整・変更をかけていただければ幸いです。
※「タレム」とあるものは、弊作の作中における貨幣単位の呼称です。あなたの作中におけるそれに置き換えていただいて結構です。(なお、銅判以下は「フラッセ」と別単位で呼び表す設定の用意も行っています。)
※小銅貨(もしくは銅片貨)は、釣銭用など特別な補助貨幣として想定しており、よって価値比における基底数値(つまり「1」)にはなっていません。
※円ドル換算は、試算時の相場であった「1ドル約86円」を当てはめています。こちらもご都合にあわせて調整してください。
算出にあたって、表中の「金貨」が本位制および兌換の基軸になっているものとし、すべての数値の基準点になっています。
また、「銀貨」が日常使用上の中心的貨幣であるとし、物価等の算出における立脚点としています。これは、対象時代における日給や貨幣の価値がよく「兵士一人が一日働いて得る給金が銀貨一枚」といった形で語られることが多いため、そこにならって基準を据えているからです。(おそらく雇われ職人の熟練工も同様の日当だったろうと想定しています。)
現実における貨幣はこんな単純なものではなく、国々がそれぞれ、また時代もそれぞれに、発行されたものが入り乱れますので多種多様な種類と価値が混在しているものなのですが、そこはやはり創作用の想定ということで、単純化して一線軸上に“きれいな”両替・繰り上がりが通るようにしています。
なお、想定上、「金貨」は日常的に使用される位置になく蓄財もしくは税払い用であろうと考えています。交易や商取引に使われる実用貨幣は「小金貨」以下であり、特に日常的には銀判以下であろうと考えられます。
「金判」に至っては基本的には見かけることもない、政府や国家が年次の予算執行に際してまとめ払いするもしくは特別な褒賞として発行することがあるか、といった具合でしょうか。
商取引というものは基本的に大口になるほど現金は使わなくなってくるはずなので(高額の為替証文で代用したり、約束手形を取り交わしたり、あるいは交易品をまとまった量の単位で納入・交換の約束としたり)、このような考え方でも経済活動に支障はない……はずです。
以下は補足です。
1銀貨(4タレム)を8,600円の換算(100ドルの換算)としている理由は、兵士の月給が銀貨30枚(120タレム)であると仮定しているところから、「一人暮らしなら問題なく成り立つが所帯を持とうとすると苦労する経済状況」を仮当てしながら絞り込んでいった結果、具合のよさそうな数字として見えてきたものだからです。兵士というものは結婚するからと気軽に辞められても雇う軍組織の側は困るものなので、役職のない平兵士というものは基本的にそこまで扱いのよい立場ではなかったはずなのですね(かといって収入が少なすぎても兵士になろうとするものが減るか不満が高まって反乱の温床になりかねないので、単なる庶民と比べればそこそこ待遇がいい、といったあたりの線引きになってくるのではないか、と)。
なお、休日は給金が出ないという形の方がおそらくリアリティは増すだろうと思うのですが、計算値が煩雑になってくることと1銀貨あたりの価値が高くなってしまうことで、かえって銀貨が“太って”扱いにくくなってしまうことから避けています(収入の基準想定ケースにおいて数量が減るということは、相対的に実質の物価上の価値が増すことを意味する)。枚数が多めに支給されてくれたほうが経済的な扱いが楽になるのです。また、雇う側も経理が簡単になっていいんじゃないですかね?(提案)
上記の考えから引用して、労働者の収支を計算してみたものが下記となります。
【安定継続した雇用下にある中層市民】
タレム 円換算 ドル換算
・月収 : 120.00 \258,000.00 $3,000.00
・年収 :1,440.00 \3,096,000.00 $36,000.00
・税率 : 40%
・収益/年: 864.00 \1,857,600.00 $21,600.00
・収益/日: 2.37 \5,089.32 $59.18
・出費/日: 2.30 \4,945.00 $57.50
・出費/年: 839.50 \1,804,925.00 $20,987.50
・残額 : 24.50 \52,675.00 $612.50
物価の基準は、「1タレム(1/4銀貨)を支払えば夕食にワイン付きの“ちゃんとした”食事を酒場や食堂などで遠慮なく食べられる」を基準としています。
実際には、よほどの独身貴族気分でもない限り、もっと節約することでしょう。
朝食と、昼食を食べるなら、それぞれ半タレムずつ。その他雑費も含めて合計2.3としています。(※家賃に相当するものは正規市民の場合は税額に含まれているとします。「壁の中の土地」は個人所有ではなく領主からの借受けといった扱いです。)
これが2.4を超えると税金が払えなくなるので暮らして行けなくなります。
そして残額の24.5タレム。ここから貯蓄や遊興費などを捻出することになります。
キャラクターの資産や資金を某包括的汎用ロールプレイングシステム方式に「月収の五倍の家財を持つ」「家財の四分の一の初期資金を持つ」として導いてみますと、
150.00(T) \322,500.00 $3,750.00
となり、冒険に使えるような活動資金(初期資金)を蓄えるのに六年強かかります!
若者が思いつきで冒険に出かけられるほど世の中は甘くないのです!
⑩<死ぬよ
②<えっ!?
⑩<その装備じゃ死ぬ
もし、日々の出費(生活コスト)を「2.2」以下に抑えられるなら、準備期間は二年半などとグッと短くできますね。
ちょっとした節約が年単位で見ると大きく響いてくるわけです。なんというリアリティ(笑)
税率は、これでもけっこう安いかなと思っています。
基本的には権益階層に位置しない市民の生活は常にギリギリ精一杯でしょう。
また、比較用に、一段下層に位置する経済層も試算してみました。
【欧米で一般的な週給雇いの不安定な下層市民】
タレム 円換算 ドル換算
・週給 : 24.00 \51,600.00 $600.00
・年収 : 1,224.00 \2,631,600.00 $30,600.00
・月収 : 102.00 \219,300.00 $2,550.00
・税率 : 40%
・収益/年: 734.40 \1,578,960.00 $18,360.00
・収益/日: 2.01 \4,325.92 $50.30
・出費/日: 2.00 \4,300.00 $50.00
・出費/年: 730.00 \1,569,500.00 $18,250.00
・残額/年: 4.40 \9,460.00 $110.00
6勤1休の年51週労働として計算しています。
単純な年あたりの週数は52強となりますが、年に一度か二度くらいは長く連休することがあるだろう、という想定です。
なお、50週にすると赤字に転落するので、かなり余裕のない働き方と言えるでしょう。(少々の怪我や病気では休むに休めない。)
日々の出費も2.0を超えられませんし、週給雇いというのは要するに休み明けた次週にまた同じ仕事があることを保障しないという形態ですからね。(労働者のほうも、無教育・無教養が多すぎて気まぐれに出てこないなんていうことが普通にあったでしょうから、信用の土台がない社会ということになります。)
ただしこれでも「一日働けば1銀貨(4タレム)」という基準は崩れていないので、経済的にはまだまだ恵まれている階層だとも評せるでしょう。
ここらへん、現代のワープア問題にも通じるものが見えてくる気がして、計算していてけっこう面白かったです。
金がなければ自由もないノダッ! ……ウッ、頭痛ガ。
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乱文乱筆にて失礼致しました。
当稿が、お読みいただいた方々の創作における世界設定作りなどの一助に役立つことでもありましたら、望外の喜びに存じます。
以上、何とぞよろしくお願い申し上げます。
(あとがき)
おすすめ参考サイトページ様(敬称略)
・コインの散歩道
http://homepage3.nifty.com/~sirakawa/Coin/
・サウディアラビア紹介シリーズ/マッカ・ムカッラマ/その1 悠久な東西交易の中継港ジェッタ/1-4大航海時代とジェッダ/6.大航海時代に使われた硬貨および貨幣単位/金銀の交換レート Jeddah Vol. 1-4-6
http://saudinomad.karuizawa.ne.jp/Jeddah-4-6.html#6.4
・「新井 宏」氏サイト/データベース:金属価格の歴史的な推移/金属比価表および算出資料(古代オリエント関係)
http://members3.jcom.home.ne.jp/arai-hiroshi/database/metal-production/table-1.pdf
http://members3.jcom.home.ne.jp/arai-hiroshi/database/metal-production/table-2.pdf
・「池水雄一」氏コラム(Searchina.内)/銀(シルバー):生産量と価格的価値(金銀比価)の歴史
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2009&d=0410&f=column_0410_001.shtml
・H&A coins/情報ページ/古代コインの種類(ローマ帝国&ビザンチン帝国)
http://ha-coins.shop-pro.jp/?mode=f5