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OK、それでは戦争だ、と彼は愛しげに囁いた。

掲載日:2014/04/23

 

 腹黒副会長が白磁の頬にそっと触れた手を、即時にパンッと払ったのはツンデレ生徒会長である。

「OK。それでは戦争だ」

 そう口元だけで微笑んで、副会長が言うと「ええ。種目は」と会長が応じる。

「神経衰弱」

 望むところよ、と言う様に彼女は伏せたトランプを机の上に広げ、ぐるぐる混ぜた。それを副会長が一つに纏めて手慣れた仕草で切り、二つに分けて互いに一枚ずつ並べて行く。

「……アレ、何すか」

 議事録を整理する書記にコソッと訊いたのは、必要書類を置きに来た通りすがりの一年だ。

「絵札にそれぞれ役目と技能(スキル)持たせて、キングを多く取った方が勝ちっていうバカルールトランプよ。ああ、目を合わせちゃダメよ。馬に蹴られるから」

 迷惑な痴話喧嘩(ちわげんか)よね、と書記は淡々と議事録をまとめる。

 一番端の列の一枚を捲った会長は「ジャックよ」不遜に笑ってそのカードを中心にした十字の形に一度に何枚も(めく)った。

 が、副会長は涼やかに微笑んでいる。

「ちょ、アレ……!」

「人を指さしちゃダメよ」

 握り込まれた指にぎょっとした一年生は青くなり、慌てこくこくと頷いた。

「言ったでしょう、バカルールだって。ジャックはチェスのルークに見立てたらしいわ。ルークはタテと横、任意のマスに進めるんだけど、その進めるマスを捲れる……ですって」

 書記が説明する間もクイーンやらエースやらで戦線は確実に疲弊(ひへい)し、あまたの戦士(カード)が散っていった。

 会長がジョーカーで現存勢力をシャッフルしたり、副会長がクイーンで会長からキングを一枚取り上げたりとトンデモルールが展開していた。

 シャッフルするのは邪魔にもなるかも知れないが、自分の首も締めているのだがどうなのだろう。キングを取り上げられた会長の、あの一瞬だけの、おもちゃを取り上げられた子供みたいな表情が超可愛かった。直ぐに、フンっとかおを背けてしまったが。そして見とれていた一年生の耳を書記が溜息と共にギュッと引っ張り、再びあんまり見るなと注意していた。

 そして、残るカードは後十一枚となる。

 会長、副会長の手元には、キングが一枚ずつ。前述の通り、副会長が会長からキングを奪った為だ。

「あの中にはまだ、ジョーカーが残ってるわ」

 眼鏡の奥で書記の目がすぅと細くなった。

「ジョーカーって」

「シャッフルするだけではないわ。クイーン、ビショップ、ナイト、ルーク……どの駒にも昇格出来るの」

 切り札が、あの中に。

 固唾を飲んで見守ると、会長が一枚捲る。

「エースよ」

 ナイトになぞらえ八方位を捲れる。

 終盤戦で歯抜けの為、三枚しか捲れない。ハートの四とクラブの四が戦線から消えた。

 副会長が捲る。

「ジョーカーだ」

 ナイトに昇格。

「キング……」

 キングが二枚。

 絵札を捲ると止まるルールだが、駒を飛び越えるナイトはその限りではない。

 クローバーの九、ハートの六、……クイーン。

「会長。キングを」

 相変わらず涼やかな笑みを浮かべた副会長がクイーンの特殊技能(スキル)を発動。

「あ……」

 会長から最後のキングが奪われた。

 副会長の手元にはキングが四枚。

 麗しい会長の美貌(びぼう)が悔しげに(ゆが)む。

「ゲームオーバーだ」

 にっこり笑う副会長に、会長はフンっとかおを(そむ)けた。

 書記は溜息を吐くと、その場を片付け、カバンを持ち、何やらしきりと感心している一年生を引っ張って生徒会室を後にした。

「……こっちを向いてくれ」

 副会長はトランプをケースにしまい、引き出しに片付けると、彼に背を向けて夕陽を睨む恋人に溜息を吐いた。

「嫌よ。あなたがこちらに来なさい」

 命令する事に慣れた女王の常の冷たい声音に、どこかすねた調子が混じっている。

「来たぞ」

 彼が隣に並べば、こちらを向かない強情な淋しがり屋の目が、抱き締めて欲しそうにしていた。

 だが、全て彼女の思い通りにはさせない。望みは、ちゃんと口に出さなければ叶わないのだと教えてやらなければ。

 背けたかおがますますすねて、口をとがらせて。

「……勝ったのに、何もしないの?」

「今、考えている」

「じゃあ、早く決めなさい」

「なら、明日までの宿題にするとしよう」

 ばっと振り返った目が、信じられないと驚いている。

「どうした?」

「今! 今決めなさい!」

 噛み付いて来る。親しい者にしか見せない姿だ。子猫が遊ぼうと噛み付いて誘う様だな、と彼は口の端を歪めた。

「そんなに構って欲しいのか」

「っ! ……違います!」

 カッと頬を染めるのを見ると意地悪をしたくなる。

「なら。じっくり考えて来よう」

 お預けを食わされた会長はギュッと拳を握り、ふるふると震えた。

 睨む目が僅かに潤んでいる。

「……そう。では、私はもう帰ります」

 もう知らない、とむくれる様に顔を背けて、会長は机の上を片付ける。

「送る」

 会長の鞄も持って、生徒会室のカギを持った副会長を会長は睨む。

「そう。じゃあ送らせてあげる」

 生徒会室のカギを締めた副会長の、鞄を二つ持った方とは逆の腕を取る会長の口端は、不本意そうな言葉とは裏腹に、楽しげにキュッと上がっていた。

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