7
城下街はかなり広い。
一ヵ月滞在した今なお、アシェスは時折迷いそうになるときがある。
街の中央にはシンボルとなる国を造り上げた、初代の王の石像を中心とした広大な公園があった。
昼食時か人は疎らで安らぐには適した時間であるが、正直困ったことになっていた。
「結局食いっぱぐれちまったじゃねぇか」
あの少女の登場で昼飯を食いそびれ、アシェスは途方に暮れていた。
何の陰謀か血走ったゴロツキ共に目を付けられ、おまけにストレスまで蓄められる始末。
そんな状態に陥ったあの店に今更戻るわけにもいかず、ベンチに腰掛けているのであるが、更に困ったことが迫っていた。
「あ!いた!」
そう、少女は執拗だった。
店から去った後も延々と追い掛けてくるのだ。
なぜ矛先が自分なのだろうかと、アシェスは地に向け嘆息した。
「くどいぞ。いいから帰れ」
「…だって、私は貴方に頼みたいの」
先程までは喚き散らしていたが、一転今度はしおらしい態度。
頭痛がした。
「はぁ…じゃあよ、用件を聞かせろよ?内容次第で決めてやらんこともない」
折れたわけではない。
ここまで頼み込むのであれば、相応の理由くらいはあるのだろうとアシェスは考えた。
聞いたからと安請け合いするつもりはさらさらないのだろうが。
「護衛というからには誰かに追われてるとか、命を狙われてるとかなのか?」
「え…えっと…」
歯切れが悪い。先程観た燐とした眼差しはまやかしだったのだろうか。
そこに居たのはただの少女だった。
「そういう大げさなものではないんだけど…」
「どうにも歯切れが悪いな。内容がわからなきゃ護衛なんて出来るわけがねぇ。さっさと言えよ」
「う…うん」
話を切り出しにくいのか、少女は俯いて自重気味に返事をした。
「実は…街を見て回りたいから、その間私を護衛してほしいっていうことなんだけど…」
「…は?」
聞き間違えたのかと、アシェスからは間抜けな声が零れた。
呆けたような表情になっていることすら自身も気付けないほどに。
「悪いがもう一度言ってくれ、理解が出来なかった」
「だから…街を見学したいから私を護衛してほしいの!」
「それで誰から護るんだ?」
「それは言え…分からないけど…」
頭痛がこめかみ辺りまで響いてきたらしく、その部分を指で押さえる。
一体どういうつもりなのか意図が汲み取れない。
「わ…私、半ば家出気味で出てきちゃったから連れ戻されたくないの!そう、そういうことなの!」
少女は上手く説明出来たことが嬉しかったのか一人納得している。が、アシェス自身は当然納得など出来るはずがなかった。
「ふざけんな!んなくだらねぇことで『護衛』だと?俺はてめぇみたいな金持ちのわがままに付き合ってられるほど暇じゃねぇ!」
「わがまま…?違う!私は…私は…そんなんじゃない!」
「なんだと?」
思わず感情のままにものを言ったが、少女の反応は少しおかしかった。
震える唇で、怒りの感情を押し殺している様子が見て取れる。