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「なん…で?」
「どこの金持ちのガキかは知らんが、俺はこういうやり方が嫌いだ」
「わ…私は子供じゃありません!これでも…十七歳です!」
「そうかい。だが歳なんざ関係ねぇ。俺は"やらない"と言ったんだ、あいつらを雇えよ」
チラリと男たちに視線を移せば、極上の獲物を横取りされたものと、血走ったいくつもの瞳がアシェスを捉えていた。
先ほどから厭と言うほど妬みの含んだ視線を浴びせられている。
「ったく馬鹿馬鹿しい。付き合ってらんねぇよ」
「お前…強がってる場合じゃ…生活費」
「決めた!」
フォーザの言葉を静止させるほどの大声を少女は張り上げた。
両手を後ろで組み、背筋を伸ばしてアシェスを見上げる。
「うん、貴方にお願いすることにする!」
「おい…聞いてなかったのか!?俺はやらねぇと言ったんだよ!てめぇの耳は腐ってんのか?」
「だって、貴方だけはこれ見て態度が変わらないんだもの。少なくともあそこの人たちよりかは、信用できると思うから」
(こいつ意外と頭は働いてんじゃねぇか)
少しばかり感心したアシェスだったが、それでも引き受けるつもりは毛頭ないようだ。
しかし少女の表情は真剣そのものだった。引く気はさらさらないと言ったように、身を乗り出しアシェスに迫る。
「そいつは買い被りすぎだ。俺は単にめんどくさいことが嫌いなんだよ。護衛とかだりーだろ」
どうしてだろうか、その瞳はあまりにも真っすぐで迷いがなかった。
そこに『少女』という顔はなく、何か別の存在さえ見える。
その小さな瞳から感じる何かに気圧されたのか、アシェスは席を立った。
「待って!どこ行くの?」
「…さぁな」
会話を打ち切ると言わんばかりの淡泊な一言を発し、出口付近に群がる男たちを掻き分けながらアシェスは店を後にした。