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「貴方は?」
「何だアレは」
アシェスは言葉を無視し、フォーザに向き直った。
この場に似付かわしくない、異様な存在に頭をやられたらしい。
「ちょっと…そこのお兄さん?」
「あーなんか一気に冷静になっちまった。なんかよーわからんがオヤジ、つまみ出してこいよ。ここはガキの居ていい場所じゃねぇだろ」
「ちょ…ちょっと!!」
まったく相手にされないのが気に食わないのか、すぐに少女の声色が上がった。
「うーん、なんだか面白そうな展開になりそうだ。しばらく静観させてもらうよ。ククク…」
フォーザは他人事と、からかうようにアシェスに言い放つ。
悪戯を含んだ醜い笑み。
「おいふざけるなよ!オヤジの店だろーが!ふざけたこと言ってるとその髭全部引っ込抜くぞ!」
「いいじゃないか、今は昼だ。酒場フォーザ亭じゃなく料亭なんだからな。それよりもほれ、お譲ちゃんが呼んでる」
フォーザはしっかりと髭をカバーしつつ、アシェスの喚きを無視し、少女の方を顎で示す。
少女はいつのまにかアシェスの背後へと歩み寄っていた。
「ちょっと!聞いてるの?」
「あぁん?うるせぇな。ここはガキの来るような場所じゃねぇんだ。とっとと帰りやがれ」
「な…何よ!私、まだ何も言ってないじゃない!」
「じゃあ俺から言ってやる。俺は用はない、だから失せろ」
「~~ッ!」
取りつく島もないアシェスに、少女は声にならない奇声を発した。
だが突如持っていたトランクをカウンターへと置く。
「見て」
少女がトランクを開くと、そこには眩しい程の紙幣が敷き詰められていた。
「私は護衛出来そうな人を捜しにきたの。お金ならこれくらいあれば大丈夫って聞いてたけど…」
「………」
ざっと見渡して百万セルはあるだろうか。
人一人ならばこれだけで一生遊んで暮らせてしまうような金額。
そんな想像さえしてしまうほどの大金が、今まさにここにあった。
アシェスもフォーザも一瞬で凍り付いたように固まっている。
「こりゃあ…たまげた」
「護衛でこの金額だと?おかしいだろ…」
目眩がしたのかアシェスは頭を抱えた。
「あれ…これじゃ足りないのかな…」
「馬鹿野郎多すぎだ!」
価値観が狂いすぎている少女の物言いに、アシェスは思わず叫んだ。
「そう…なのかな?よく分かんないけど…。で、お兄さんはどうなの?」
「は?」
「だから護衛の話!見たところ貴方にも頼めそうだから、一応…訊いておこうかと思って」
少女はアシェスの脇に携える剣をちらりと見た。
フォーザはそれで悟ったのかアシェスに耳打ちをする。
「おい、すごいじゃないか!まさに神の助けってやつだぞアシェス」
「冗談は止せ」
「馬鹿!あれだけの金があったら、お前さんが嫌いな面倒な仕事もしなくて済むだろうに」
アシェスはそれでも首を横に振った。そして、少女に向き直る。
「悪いが断る。仕事内容がどんなのとか関係ねぇ。俺はそんなに暇じゃねぇんだ」
「な…」
それは少女の言葉ではない。
奥に居るゴロツキたちの驚愕の声。
向こう側に陣取る男たちは、この紙幣の束を見るなり態度を翻したにも関わらず、アシェスは動かなかった。
少女はまさか断られるなど思っていなかったのだろう。あっけにとられたのか、言葉を詰まらせていた。