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「ああ、収穫祭が近いから王宮で警護の人間を雇うからなのかもな。オマエは知らないだろうが、この国の『収穫祭』はとてつもなく盛大だ。毎年城の人間だけでは人手が足りないと言われてるくらいだ」
「警護?そんな仕事をしに来たような顔にゃ見えねぇぞ?」
「まあそれか、単純に仕事に有り付きにきたゴロツキかもしれないが…」
「壁の外も近ごろ変な魔獣が多いらしいからな。討伐金目当てってとこか」
物騒、というのは街の外でも中でもあまり変わらないらしい。
「変なヤツばかり店に入れるなよ?評判下がるぞ」
「そうは言ってられんな。稼げるならそれに越したことはない」
フォーザは軽く聞き流す。吐息の漏れたヘタクソな口笛を吹きつつ、指で硬貨の形を描いている。
所詮は商売人、金には勝てないということか。
料理を作りに厨房へと入って行ったフォーザをよそ目に、アシェスは呆れたように外方を向いた。
「しかし、さっきからマジでうるせぇな」
ゴロツキの群れは騒めき程度だったはずが、今では喧騒程の騒がしさと化していた。
狂喜乱舞しているという状態か。
盛り上がっているのか喧嘩をしているのか、全員が熱くなりすぎているようだ。
人だかりが出来、それが壁となって何をしているのかは窺えない。
やがて罵声や怒声までが飛びかう。
するとアシェスの眉間に皺が寄った。
「…なぁ、あいつら何やってやがんだ?」
「さぁ?私に言われても分からんよ」
厨房から顔を覗かせたフォーザにアシェスは愚痴る。
だが親父は知らないと言うように、お手上げのポーズで首を振った。
店が賑やかになるのは料亭ならば当たり前で、そもそもまるで興味がないようだ。
儲かればそれでいい。
フォーザの表情はそんなものだ。
「オヤジ、あいつら追い出していいか?」
冷静に、それでいて静かな怒りを感じさせる口調。
フォーザはその口調から、ある出来事を思い出したように絶句した。
「お…おい!やめてくれ!店は壊さないでくれよ!」
甦る苦い記憶。
強面の面々がアシェスに絡んだその時の末路を…。
そのときの口調と絡み方が似ているのだ。
盛り上がりは更に増し、彼の苛立ちを募らせる。
「馬鹿騒ぎってレベルじゃねぇぞ?もう我慢ならねぇ…全員黙らせてやる!」
アシェスの眼は据わっていた。
そして静かに席を立つ。
その足は人だかりへと向けられている。
「うわぁー!店を壊さないでくれェ!飯…もうすぐ飯が出来るから我慢しろぉ!」
「あれ?」
フォーザの声と被るようにして少女の声が響いた。
数々の強面たちの隙間から一人の少女が顔を覗かせている。
むさ苦しい男たちの群れの中枢にいるその存在は、まるで別世界の生き物のよう。
澄み渡った空のように青い髪の色。
だが乱雑に切ったような短い髪は、何故か不自然さ際立たせている。
余所行きと思われる高価な雰囲気の衣服。清楚可憐さを表すことをイメージしたのだろうか、ピンクに包まれたドレスが場違いで眩しく映る。
背丈は小さめで歳は凡そ十五くらいだろうか?
子供以上大人未満。外見だけで歳は判断しずらい顔つき。
小さな体に似付かわしくない、体型以上の大きな鞄を抱えている。
騒ぎの元凶は彼女のせいなのか。
しかし、一体何時ここに入ってきていたのだろうか。
アシェスもフォーザも、そのことにはまるで気が付かなかった。
少女は彼らを見て更に言った。