17
王は悩んだ。苦悩の日々が続いた。
そして出した結論が、今のこの状況だと言うのだ。
魔導師たちがあふれるこの中心で、敢えて自分だけの監視化に置く。
他者から徹底的迄に遠ざけ、危険視される魔導師を近付けない。
しかしいずれ誰かに気付かれるのではないかという、恐怖と不安に苛まれながら、レイドはスフィアとともに十年余りの時を過ごしてきたのだ。
その生活は言うまでもない。
彼女の顔や言葉を聞けば、どれだけ苦しかったのかもよく分かる。
脱出という強行に走らせたのも仕方のないことだ。
ただレイドも気の休まる日々は訪れなかった。
我が子を愛するがため、自由を奪い、敢えて憎まれ役を買わねばならない。
王たる存在なれど、こうしてみれば父親以外の何者でもなかった。
苦肉の策。
ディオという存在なくしては、レイドは潰れていたかもしれないとも言っていた。
堅い忠誠を誓う彼と、魔法を操れない体質。危険も少なく彼だけが唯一、すべてを打ち明けることができた存在だったらしい。
今まで腑に落ちなかったことが、ようやく拭い去れたのだ。
アシェスはそんな重い話を聞き終え、疲れたように息を吐いた。
胸の支えを同時に吐き出すように。
ただもう一つ疑念があった。
それだけは聞かねばならない。
「…じゃあ、あいつは一生をあそこで暮らすってのか?」
「私は…あの子に私の跡を継いでもらおうと思っている」
王位さえ継承してしまえば、いくら王都とはいえ手を出すことができなくなる。
監視化に置かれることは間違いないが、スフィアはこの国だけならば自由を得ることができるというのだ。
王位を継承した存在は、いかなる王都とはいえ、例外で規制されてしまうのだ。
定められた世界のルール。レイドはそこを活路にしていた。
それが唯一彼女が幸せになる道だと言う。
「正直な話、俺にはどれが幸せだとかはわかんねぇ。…けどな、最後に決めるのはあいつ自身だ」
「分かっている。これまでの行いが例え私一人の独善だったとしても、一人の父親として救いたかっただけなのだ…」
そこに在ったのは王としての顔ではなく、父親という肉親の顔だけだった。
「だがいつまでもこのままでは良いとは思ってはいない。それにな、最近になって不穏な動きもあるようだ」
「動き?何がだ?」
「何者かがこの城下を探っているという噂が立っている」
気持ちを切り替えたのか、言い放ったレイドの顔は引き締まっていた。
「噂話にしろスフィアのことが多少なり漏れてしまったのかも知れんな…。民の間でも色々と疑念にかられた噂は耐えないだろう」
「ここは魔導師の巣窟だ。ここまで隠し立てられ噂にならないほうがおかしい。むしろ内容によってはカムフラージュにもなるし、逆手に取れれば安心できる情報にも化けるんだろうがな。しかしその噂…情報は確かなのか?」
「ああ、だが現状では代行者というキーワードは耳には入っていない。…が、抜け出したあの一夜で噂は今までよりも遥かに色濃く広がってしまったやもしれぬな」
王位継承までのリミットはあと数か月。仮の儀式まではもう猶予はない。
不穏な噂や輩は用心に越したことがないとのことらしい。
「今日、そなたをここへ呼んだ理由だ。すべてを聞かせた今、聞こう」
レイドは重い腰を上げ、アシェスにへと歩み寄った。
「スフィアを護ってやってくれ」
「…そういうことか」
「悪いと思ったが、そなたのことは調べさせてもらった。かつて紅き旋風と呼ばれた、凄腕の剣士らしいな」
「そりゃ昔の話だ。今の俺を…そう呼ばないでくれ」
一国の王からその名で呼ばれるとは正直勘弁願いたいものと、アシェスは肩をすくめた。




