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「ああ、俺に用があるらしいが、一体何の話だ?」
発した第一声に、王は一瞬だが目を丸くした。
が、気分を害するどころか王は笑みの表情を浮かべた。
「話に聞いていたとおり、面白い男だ」
皮肉ではない、率直な感想なのだろう。
どっしりと構え、玉座に腰掛ける様からは高圧的な態度は感じられない。
「回りくどい世間話なんてしたくねぇ。さっさと話とやらを聞かせてくれ」
「はは…あの子の言ったとおり、肝の座った人間のようだ」
スフィアから色々と聞かされていたのだろう。
一体どんなことを吹き込んだのかはさておきとし、アシェスはさっさと用を済ませこの場から帰りたい一心だった。
「世間話をしたいんだったら俺は帰るぞ?わざわざこんなゴロツキみてぇな俺を直々に呼び出してくれたんだ。何か言いたいことがあんだろ?」
「うむ…そうなのだがな。少しは話くらいさせてはくれないものなのか?君は落ち着きというものが欠けているようだ」
「ほっとけ…」
一国の王たる存在さえ呆れさせてしまうアシェス。
いつまでも自分らしさを失わない、彼が唯一誇れるものがそれだった。
「スフィアを…見てしまったのだな。まずはその節は礼を言わせてもらう」
玉座越しではあるが、王が頭を下げる。
こんな異様な光景はそうそうお目にかかれないであろう。
「別に礼なんざいらねぇ。今更な」
「ここへ君を呼び出したのは、頼みたいことがあったからだ」
ようやく切り出してきたかと思うと、王はそんなことを言った。
「他ならぬ、そなただけに頼みたいことだ」
その眼差しは、拒否することを許さないと言わんばかりの鋭い眼だった。
「用件はさておいて…これだけ魔導師や騎士たちを抱えながら、なぜ俺なんだよ?まずそこが腑に落ちねぇな」
「スフィアのためなのだ…聞けばあの子は君という存在を気に入ってしまったのだろう。私はそれを叶たいだけなのだ」
思わず拍子抜けしてしまうくらい、その返答は間の抜けたものだった。
馬鹿馬鹿しい。
わざわざ身構えて出向いてきた答えがこんなものだと言うのか。
「は…ふざけんなよ。たったそれだけの理由でか?随分適当なんだな」
「あの子を私は追い詰めてしまった…。これが一番だと心に言い聞かせ、自分自身を咎めながらも…」
分厚い手のひらが顔を覆う。
王は自らしてきたことを悔いていた。
自分が娘にしてきた仕打ち。こんな弱い顔は人前ではしたことがなかったのだろう。震える手がそれを思わせるのだ。
「正直…解せねぇんだ。何故あいつは籠の中なのか。何故隔離されてるか…だ」
情報を一切隠すという行為は、他者に知られたくない何かがあるからに他ならない。
ただそのやり方が徹底されすぎている。
その理由とやらを聞かずしてこのまま帰るわけには行かないだろう。
「答えろ。あいつには、どんな秘密が隠されている?」
静かな沈黙が謁見の間を支配する。
どれほどの沈黙があったのだろうか。
やがて顔を上げたレイド・リム・ローウェンスは震える唇をゆっくりと開いた。




