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「しばらくはそれで立てねぇだろ?不本意ながらスフィアが気掛かりだ、もう行かせてもらうぞ」
「は…でもそれはそれ…これはこれですよ」
苦し紛れに何を言い出すかと思えば、アシェスにしてみればそんなものは戯言でしかない。
こんな状態の男に、これ以上何ができると言うのだ。
「汚いと罵ってもらって構いません。しかし…彼女だけは何があっても連れ戻さねばならないのです」
ディオは指を掲げ合図のようなものを鳴らした。四方から隠れていた敵の気配が解放される。
アシェスは瞬時にそれを肌に感じた。
「ち…待ち伏せかよ!」
アシェスはすぐにその場を飛び退こうとしたが、突如として固まったように体を強張らせた。
体は無抵抗なまま地に打ち付けられ、不恰好な形で歯を食い縛る。
「これは…魔法!クソ…ったれが!」
目には見えない力。
彼の体は金縛りに遇ったように身動きが封じられた。
どれだけ身を捩ろうとしても、指の一本すらも意のままに動かない。
「て…めぇ…」
「許してください。貴方のプライドを傷つけるような真似をし、そして利用もさせてもらいます」
睨み付けるアシェスの眼を逸らさずディオは言い放つ。
辛うじて動く眼球で視界の届く範囲を模索する。
ディオの背後には二人の魔導師が居た。
気配は背後からも感じている。
この分からすれば背後にはもう二人程居るのだろう。
ざっと四人分の魔法を身に受けているのだ。
精神魔法。
これは対象を捕縛したり、隙を作るために主に使われる。
従来は高位に位置する魔法であり、一般的な魔導師に扱えるような簡単な代物ではない。
相当な鍛錬をしなければ安易に習得できるような魔法ではないのだ。
だがローウェンスが魔法国家と呼ばれることを、アシェスは今痛感した瞬間だった。
「何をする…気だ…」
「こうするのですよ」
ディオが右手を掲げると、背後の茂みから更に二人の騎士が現れる。
二人とも手には槍を所持し構えている。
「へ…身動きの取れない相手を…グサリ…か。随分えげつねぇやり方だな」
「違いますよ」
ディオはきっぱり言い放った。
ではどうすると言うのだ。
気乗りのしないような複雑な表情のまま、ディオは声を張り上げた。
「スフィア様!居るのでしょう?この男を救いたければ、どうかお戻りください!」
(なるほど、『餌』というわけか)
手段を選んでいる暇はないというのは本気らしい。
あの戦いの余興も、すべてはこのための前座だったというのだ。




