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「くだらねぇ。スフィアを放っておいてまでやることかよ」
「ご心配なく。今頃スフィア様のあとを追った兵団が捕らえていることでしょう」
「な…」
呑気なことをしているかと思えば、さすがというべきか。
考えてみればこんな男が引っ張り出される程の事態なのだ、他の兵が動いていない訳がない。
アシェスにしてみれば、この場に連れてこられた時点で、まんまとしてやられたわけだ。
「貴方にはスフィア様を拉致した不届き者としての刑罰もあります。丁度良い機会でしょう?」
「何から何まで、てめぇらに都合の良い理由だな…クソ」
アシェスは唾を吐き捨てた。
やり口の汚さ、自分たちこそが正義と言わんばかりのとってつけた理由。
もはや偽善でしかない会話は不要だった。
「あまりガッカリさせないでください。紅き旋風」
「思い出させんじゃねぇ…あんまりその通り名は好きじゃねぇんだよ」
「それは失礼しました。では…」
刹那、ディオは弾けるように飛び出した。
大剣を操るというのに並みの素早さではない。
予想よりも動きが落ちないのだ。
頭上から振り下ろされる大剣の一撃が放たれる。
アシェスは瞬時に転がるように地を回転し剣をかわす。
しかし地を裂いたと思われた剣筋は土を抉らず、直前で軌道を変える。
態勢の整いきれてない状態から、アシェスは跳躍でそれをかわした。
(コイツ、並みの瞬発力じゃねぇな)
「さすが、あの斬り返しをかわすとは…こうでなくては」
「言うだけのことはありそうだな」
アシェスは地をしっかりと踏みしめ、拳を硬く握り身構えた。
水平に放たれる次の一撃。
迂闊に跳躍すればあの斬り返しを食らうだろう。後ろへと飛んだところで踏み込まれてしまう。
アシェスは刄が届くギリギリのタイミングで身を屈めた。
そして瞬時にディオに向かい弾丸のように飛び出す。
「甘い!」
両手で振り回していたはずの右手だけが、いつのまにか剣から離されていた。
躱された瞬間に左手だけに持ちかえたのだろう。驚くほどの反射神経だ。
右手を地につけ、反動で後ろへと身を翻す。
「このぐらいで…」
ディオが顔を上げ、言葉を発するときにはすでに視界にアシェスの姿はない。
「なっ…何処へ…」
姿を捜すような暇さえなく、握っている大剣からずしりと重い衝撃が走り、左手ごと地面に倒れかかった。
「どっちが甘いんだよ」
アシェスは大剣の面を踏み付けていた。
それは完全にディオの武器を封じた、ということだ。