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「てめぇ何者だ?どうして俺のことを知ってやがる」
「そんな無駄話は必要ないでしょう。私は一刻も早くスフィア様を連れ戻さねばならないのです」
「あいつは何者だ?」
「今…あなたに答える必要はありません」
ディオは剣を抜く。
腰に携えるそれは大剣の部類に入るであろう大太刀。
両手持ちではあるが、それを軽がると構える。
抜刀と共に一般人の悲鳴が上がった。
こんな街中の人込みで戦おうというのだ。
あまりにも直情的すぎる。冷静な口調からは想像できないような大胆さ。
事態はそこまで切迫しているというのか。
どちらにせよ、こんな人気の多い場所で戦うなど異常とも言える行為だった。
アシェスは当然剣を抜こうとはしない。
「なぜ抜かないのですか?」
「剣を使うまでもねぇってこった」
威圧さえ感じる構えを取る相手を前に、アシェスは言い切った。
事実はどうあれ、剣を簡単に抜くわけにはいかないのだ。
「なるほど、住民が気になりますか。ならば手を変えましょう」
アシェスの目線に気付いたのか、ディオはあっさりと剣を仕舞う。
身を翻し、誘うように視線で促す。
「街の出口、関所の辺りなら邪魔は入りません。行きましょうか」
「寝呆けてんのか?なんでそこまでしててめぇと戦わなきゃならねぇんだ」
「丁度良い機会でもあります。貴方と今一度手合せをしてみたいのですよ。任務遂行中の身勝手な行動ですが…ね」
「今一度?」
「あなたもスフィア様の心配なさるなら相手をしていただきますよ。お互い悠長にしている時間はそんなにはないのですから」
本当に身勝手極まりない。
王家やらの特有、聞く耳持たないとはことことである。
(コイツ…何が狙いだ)
スフィアの事も気掛かりではあるが、この男はそう易々と逃がしてくれそうにない。
おそらく王宮でも指折りに入るであろう、ディオという騎士。
青い髪をした謎の少女。
どうにも厄介ごとからは逃れなれない体質なのだと、アシェスは自分に対し呆れていた。