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遺産の出所はかつて『サアラ』と呼ばれる古代人によって創られたと言われ、その用途は様々と噂されている。
ただ明らかに今の時代では到底創れないようなものばかりで、その技術力の差は今の時代のものとは比較にならない。
何の為に創られたのか。用途は不明なものが多いが、人が扱うには危険なものが圧倒的に多いのだ。
彼ら古代人が何故この世界から滅びたのかは、今の人間たちには知る由もない。
もはやそれは伝承の域とも謳われ、世界の謎は未だ明らかにされていない。
遺産の力、それはアシェスにとっても必要であり不要なものでもあった。
力は全てを滅ぼすもの。
遺産に瞳を奪われているスフィアを横目に、彼の心は複雑だった。
「魔法なんてモンは選ばれたヤツしか使えねぇんだよ」
「どういうこと?」
「説明すんのがめんどくせぇから大まかに言えば、生まれ持っての体質もあんだよ。器ってヤツな」
「器?そんなものどうやって知るの?」
「そいつは訓練で身に付けて感じるしかない。それでダメだったヤツは魔力を吸収出来ない体質って事さ。それが目に見えない人体にある器ってもんの正体だ」
自分自身が良い見本と言わんばかりに、アシェスは二度首を横に振った。
「じゃあ私にも可能性はあるのかな」
「まあ、否定もできねぇが肯定もできねぇ。それはお前次第だろ」
「そっかあ…」
スフィアは少しばかり物思いに更けた後、小手をそっと元の場所へと戻した。
「なんだ買わねぇんだな?」
「うん、今の私には必要ないだろうから」
「魔法云々じゃなくても、アンティークとして欲しそうな顔してたクセに」
「わ…そんなことないよ!確かに奇麗ではあるけど…」
一呼吸の間、スフィアは言葉を続ける。
「今の私が欲しいのは形あるものじゃないから」
今日一日で幾度となく見せた寂しげな表情で呟いた。
そして魔法具を元の場所へとそっと返した。
「ま、それなら別に構わねぇけどな」
いちいち気にしていられないといった意思表示なのか、アシェスはきびすを返し歩き出す。
しかしその道を塞ぐかのように、何者かが遮った。
同時に重厚な鎧の音が響く。
「悪ぃな、道を開けてくれよ」
アシェスは威嚇の意を込めた目線を同時に送った。
立ち塞がる男は騎士風の風貌をしていた。腰には地に着くほど大きな大剣を引っさげている。
上背はアシェスの方が上だが、年は騎士のほうが上のように思えた。
顔は爽やかな青年のような面持ちで笑顔だが隙がない。
剣に手はかかってはいないものの、少なからず何らかの気配を放っている。
下手に動くと戦闘になりそうな、そんな張り詰めた空気。
男はにっこりと笑いアシェスに言葉を返した。