13
スフィアは街をまるで知らず見るものすべてに感心を抱いていた。
街の中枢にある時計塔、噴水、露店、人の群れ。
どれもこれもありきたりとしか言い様がない光景の中で、彼女はそれでも瞳を輝かせている。
露店に立ち並ぶ装飾品に目を奪われ、店主たちには質問の嵐。
まるで初めて見たかのようなはしゃぎよう。
その姿は観光にでも来た旅行客のようだった。
見るものすべてが真新しく、輝かしい宝物のように、スフィアはそれらを瞳に焼き付けている。
城下町は広い。
歩いて移動していればすぐに陽も暮れた。
まだまだ見るべき物があったはず。
子供のように街を駆け巡る姿は、まるで昔の妹にそっくりだとアシェスはその光景を眺めていた。
懐かしい昔を思い出し、夕暮れに染まりつつある陽射しを見つめる。
雲の切れ間から太陽が茜色の光を放っている。
ようやく長い一日が終わろうとしているのだ。
「護衛だとか言ってたが、別に怪しいヤツなんて見かけなかったし、この分なら問題もなさそうだな」
はしゃぎ回る少女の背中を見つつ、彼は独り言を漏らしていた。
「アシェス!これ…これ何!?」
「ああ?知らねぇよ。魔法具みたいなモンだろ」
「魔法具って…なに?」
「術者の器を拡大してくれるような補助具みたいなモンらしいが、俺は魔法ってのがからきしでな。使い方とかは訊かれてもわかんねぇよ」
「魔法…私にも使えるのかな?」
白銀で作られた楕円計の形をしたアクセサリ。
素人には理解できないような文字と模様が至る所に刻まれている。
いわゆる腕にはめるリストバンドみたいなものだろう。
媒体となる力の働きを、より活性化することのできる代物と店主は説明してくれた。
実用性・汎用性があるため、その金額は破格。
魔導師にとってこのような道具はお宝だ。
これは間違いなく遺産の類だろう。
各地に眠るお宝とも呼べる品。
王都の認可が下りていることから、効果は『凄まじい』とまではいなかいようだが。
一般的にこういった遺産が商品として並ぶまでには、王都の調律師の許可が必要だった。
危険なものは回収ののち封印。それが彼らの仕事でもある。世界に混乱を招かないための、作られた規律。
しかし遺産の悪用は今の時代でも絶えることはない。
王都がいかに管理をしようと、それには限界があった。
悪用さえしなければ気付かれない場合もある。
何の目的で創られたモノか理解できないような代物から、見た目からして強力な力を秘めた武具や道具。
実際にそれらを使用しての犯罪や、力に魅入られて事を起こす者は後を絶たない。
各地でも遺産による犯罪者を処罰する部隊などは居るが、時にどうしようもなく凶悪な事件もやはり発生することがある。
それらを裁くのが主に王都の特殊部隊、『紅の魔導師』と『蒼の剣騎士』と呼ばれる二つの存在であった。
世界の頂点に立つ王都で最強と呼ばれる魔導師『紅』、同じく近距離戦のエキスパート『蒼』。
その道の極めた者たちが遺産犯罪に対して断罪を行う。
当然並みの実力者ではなく、圧倒的な力を持った人間たちから構成されており、彼らが動けば待つのは裁きという名の死が待つと言われていた。
普段は軽はずみに人前に姿を現さない事から、死神とも呼ばれ恐れられている。
それは姿を見た者は死ぬという由縁からだ。
それともう一つ、遺産を管理や探索している『白の調律師』と呼ばれる存在が居る。
遺産を発見した者は王都に報告する義務があり、調律師たちによりその能力の解析が行なわれる。
ランク付けにより危険度が見出だされ、危険なものは厳重に封印され日の目を見ることはない。
逆に安全で害のないものならば市場などにも流れ、一般人にも身近に触れることが叶うのだ。