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小さい頃の俺

寒い



町は煌びやかなイルミネーションで飾りつけられ、家族やカップル、友人連れなどで溢れかえっていた。

天気は雲ひとつない快晴で、まだ午前中だというのにカラフルな電燈が輝き、人々の目を楽しませている。

笑顔や笑い声で満ちている中で、幼い少年が一人、マフラーや手袋も付けず、薄手のコートだけを着て歩いていた。


年の割には不似合いな無表情で、まるで一人別世界にいるようだ。



「メリークリスマス!」


誰もが少年の存在など気にも止めずすれ違って行く中、突然赤い服を着た人物が少年の前に何かを突き付けてきた。


安っぽく全く寒さをしのげそうにない赤い服に少し引っ張っただけでも取れそうな白い付け髭


この時期何処にでも出没するバイトのサンタクロース。

差し出されたのは袋詰めにされたお菓子の詰め合わせ。

バイトのサンタクロースはにこにこと笑顔を浮かべ、少年にお菓子を差し出している。

しかし少年はお菓子には全く目もくれず、バイトのサンタをじっと見つめている。


「メ、メリークリスマス!」


少年がお菓子を受け取ろうとする気配が全く無いので、それを促すようにサンタがもう一度言った。

すると少年はにっこりと笑顔を浮かべ、それを見たバイトのサンタが安堵したように笑う。







「お髭が白いのに眉が黒いよ?にせものさん」






そう言い放った少年の声は、高くかわいらしいものなのに、どこか馬鹿にしたようで冷たい。

バイトのサンタは驚いて手に持っていた袋を落とした。

少年はその様子を見て、くすくす笑いながらその場を去って行った。


「にせものさん、にせものさん、お仕事がんばってね」



寒い




その光景を気にとめるものは居ない。


ただ一人、ベンチに腰掛けた老人が、すぐに表情が消えた少年をじっと見つめていた。

腰に付けられている鈴が、チリン、と小さく音をたてた。








少年がしばらく歩いていると、前にあるベンチに老人がひとり座っていたが、気にする様子もなく少年は通り過ぎようとした。


「サンタクロースが嫌いなのかい?」


突然そう言った老人の前で少年が足を止める。

少年は老人の方へ眼を向け、にっこりと笑う。


「僕に聞いてるの?」

「そうだよ」

「どうしてそんなことを聞くの?」

「さっきのを見てしまってね」


すると少年は眉を下げ、わざとらしく声を高くして老人から遠ざかるように後ずさる。


「うわぁ、おじいさん僕のストーカーってやつ?こわぁい!」

「うーん、若い子の後を付け回すぐらいの体力はもう無いのぉ」


少年の態度を気にすることもなく、老人はただでさえ皺だらけの顔を更にくしゃくしゃにして笑った。

そして、少年の顔をじっと見つめ、優しく目を細める。


「君は、人が嫌いなんだね」


そう老人が言った途端に、少年の表情が一瞬で消えさり、目が冷たくなった。


「何?説教でもする気?っていうかさっきの見てたんなら後付いて来たんでしょ?マジきもい」

「違う、と言わないってことは、人が嫌いなんだね?」


少年の話など気にも留めないような様子の老人に、少年は不機嫌そうに顔を歪めてため息を吐いた。


「そうだよ。嫌いだよ。皆嫌い」

「…そうか」


老人は悲しそうに顔を伏せる。


「僕のことかわいそうって思ってる?ぷぷ!ぜーんぜんかわいそうじゃないよ!だって僕へーきだもん」

「わたしにはとてもそうは見えないよ」

「僕の何を知ってるの?」

「少なくとも君が寂しがっていることは分かるよ」

「マジきもい」


少年は冷たく言い放つと、老人に背を向けた。


「ああ、待っておくれ。もう一つ、」

「…」

「今日は雪が降るから、暖かくして寝るんだよ」


少年は、はっと馬鹿にしたように鼻で笑い、老人の方へ振り返った。


「寂しがってるのはおじいさんじゃん」


そう言い残して走り去っていく。

小さくなっていく背中が、見えなくなるまで老人は少年を見つめていた。



「笑って、いとしい子」



鈴がまた、チリン、と音を立てた。







寒い






空は雲ひとつない、快晴

ちょっとファンタジーかもしれない

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