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19 ペタペタ、カロンコロン

ーーーーー0622 芳川ブログインタビュー18

十八人目のインタビューは生駒延治さん。

建築家。

住宅や店舗などの設計をされている。インテリアデザイナーとしても定評がある。

お題は「走る靴音」


バタバタ、ドタドタ、パタパタ、タッタッ、カツカツ、ペタペタ、カランコロン。

足音を表現する言葉ってたくさんありますね。

雨の中ならビチャビチャ、ピチピチチャプチャプ。

雪の上ならキシキシとかキュッキュというのもあります。

擬音語かどうか怪しいところですが、ヒタヒタというのもありますね。


こうして並べてみると、足音はあまり「いい音」というように捉えられていないと感じませんか。

なんとなく粗野で行儀が悪く、耳障りな音。足音というのはそんな音なんでしょう。私の思いつきですよ。

足音をテーマにお話しようと思ってから、はたと思いついた「生駒説」です。


もう少し詳しくこの「説」を披露すると、こうなります。

「他人のたてる足音は雑音である」

それは後ろから忍び寄る犯罪者の足音であったり、逃げていく足音であったり、病気で寝ている枕元を平気でミュールサンダルで歩き回ったり、躾のできていない子供がコンサート会場で走り回る足音だったり。

つまり、耳で聞こえる音は総じて悪役です。


逆に、耳で聞こえない足音、あるいは歩く様子を表す言葉はどうでしょう。

テクテク、トボトボ、シズシズ、ノシノシ。

良くもなく悪くもないといったところでしょうか。


さて、私の好きな音として足音を選んだわけをお話しましょう。

足音を現す音の中でたぶん唯一気持ちのいい響きがする音です。

タッタッタ。走る音。


実はジョギングが趣味なのです。


運動することが第一の目的なのですが、もうひとつ効用があります。

それは頭を空っぽにすること。一種の瞑想といえるかもしれません。

リズミカルな自分の靴音と吐息を聞きながら、無心になって走ります。

もちろん苦行です。

街中を抜け、淀川の堤防を駆け上がるころになると息は切れ切れ、汗はボタボタ、リズミカルだった靴音も千路に乱れて。


しかし、ひたすら足を進めることに集中していると、いつしかその苦痛も忘れてしまい、無我の境地に入り込めるわけです。

眼が捉えているのは路面だけ。

周りの景色も網膜に像を結んでいるのでしょうが、明確な意識には昇ってきません。

鼓膜が音として捉えているのは自分の足音だけ。

走り始めは苦行だったはずが、一種のトランス状態のようになれるわけです。

理性が沈静化してくる。そして本能が突出してくる。

シャーマンは、たとえばドラムの音で刺激を受けながら恍惚状態になるといわれますね。

言ってみれば、それと似ています。


トランス状態になるからといって危険な男だと思わないでくださいよ。

偉そうな言い方をすれば、心の中に押し込めていた否定的な意識が解放され、とてもリラックスできるというわけです。

あるがままの自分に戻って、無理やり動かせ続けている脳に一時の自由を与えてやるというということです。

タッタッタッタッタッタッタッタ、という単調なリズム音と共に。



「それにしても、ノブのインタビュー、テーマはジョギングのときの足音ぉ?」

「もうネタがなかったんだ。たいがい誰かに先を越されてて」

「でも、後の立成さんのテーマはショパンの別れの曲やん。しゃれてるやんか」

「反則だろ、それって。具体的な固有の曲のことなら僕にもたくさんあったのに」

「鉄人二十八号とか、大魔神が出てくるときの曲とか?」

「ああ、モスラのテーマとか、ゴジラが海から上がって来るときの音楽とかね

「時代がわかるね」

「それに、やっぱり思い出のある曲といえばユーミンの」


 優は聞いていない。

「それにしてもさ、この堅苦しい表現はなんなのよ。特にトランス状態のくだり」

「もっと普通の言葉で話したと思うんだけど……」

「でもさ、話したことってこれだけ? 短くない?」

「もっと話したよ。芳川のおっさんは、相当省略しているみたいだな」

「どんなことを話したん?」

「それがさ」


 犯罪者が逃げていく足音にタッタッタは似合わない。

 実際にそういうものを見聞きした経験があるが、軽快感はなく、パタパタタタタッという感じ。

 できる限り足音を忍ばせようとしつつ、焦る気持ちが足音に出ているという感じ。

「とかさ」

「くだらねぇ~。だいたい、出だしの生駒学説?が野暮ったすぎ!」

「へえへえ、ご指摘のとおり。でも、ジョギングのときの足音が好きです、だけでは話にならなくてな」

「実名で出すには、ちょっと恥ずかしい代物よね」

「そりゃ、いいすぎ!」

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