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僕と×××。と香織の物語「特別編 林間学校から始まる×××。」  作者: なお。


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6/16

 林間学校から帰った翌日の午前6時。僕はすっと目が覚めた。ベッドから起き上がりカーテンを開けると眩しい朝日が部屋へ差し込む。

 僕は服を着替えて一階に降りる。洗面所で顔を洗い、歯を磨き髪を整える。

 いつもの朝の光景、いつもの日常。まるで、昨日のことが嘘であったかのようだ。

 リビングに入るとパンの焼ける芳ばしい良い香りが漂っている。食欲をそそるパンとバターの香りに誘われキッチンへと足が向かう。


「おはよー」


「おはよー。って、今日もおるんやな」


「うん。なんか、ここで朝食食べると美味しいんよね」


 キッチンへと向かう途中にあるテーブルには朝食を摂る香織の姿があった。彼女はよく僕の家で朝食を摂る。これは、彼女の両親が仕事の都合で朝は家にいない事が多く昔からうちで預かっていた名残だ。

 もう日常の一ページと言っても過言ではないかもしれない。

 僕は香織の横を通り過ぎキッチンに入る。キッチンには僕と何故か香織の分のお弁当を作る母がいた。二人は「おはよー」と声を交わし、お互いが邪魔にならないように調理を行う。

 僕はトーストをオーブントースターに入れると、卵をボールで溶きくと熱したフライパンにバターを放り込むと卵を流し込む。少し火が通ったところで卵の上にチーズを入れると、手首を返しながらフライパンを振って卵を楕円形に整えお皿に盛り付ける。

 僕はトーストとチーズ入りオムレツ、牛乳をお盆に載せてテーブルへと向かい、香織の隣に座った。


「あんた、それ好きやなぁ」


「そうなんよなぁ。何か朝はこれ作ってしまうんよなぁ」


 香織は「はい」と言い僕にマーガリン差し出し、僕が「ありがと」と言って受け取るのも、お決まりの日常の一コマだ。

 しかし、トーストをほうばる僕を見る今日の香織の表情は少し暗い。


「なぁ…、朝からあれなんやけどさぁ。昨日の事って夢じゃないやんな…、ホンマにあった事なんやんな…。教室に行ったらさぁ…、いつもと同じように…」


「香織……。そうやな。嘘とか夢やったらえぇなぁ。でも、この御守りとかお札見たらホンマやったんやなって思うわ。教室に行ったら、もっと実感するんやろな…」


「あんたもそう思てたか…。なら、これは現実やな。そうや、奈美ちゃんな。今日は休むけど明日からまた登校するって連絡来たんよ。無事で良かったわー」


「そうなん! それは良かった。あんな事があったでちょっと心配やったんよ」


 僕と香織は髙橋さんの安否がわかったことで少し心が軽くなった気がした。


「あんたら時間、時間!」


「え? うわっ、ちょっとゆっくりしすぎたで」


「しゃーないな。駅まで送ったろ。はい、お弁当」


 母は呆れ顔で僕たちにお弁当を手渡す。僕と香織は「ありがとう」と笑顔で受け取り玄関へと足早に向かった。


 ◇


 教室のドアを開けて中に入る僕と香織。「おはよー」とクラスメイトたちの挨拶が聞こえる。僕たちは挨拶を返しながら自分たちの席に向かう。

 その途中で目に入る花瓶。机の上に綺麗な菊の花が置かれていた。山田の机だ。

 僕と香織の眉には皺が寄り、僕たちはの胸はギュッと締め付けられた。


「山田…」


 気づくと僕の口からはそう漏れていた。教室中がしんと静まり返る。皆んな平静を装っていただけのようだ。

 そこへ「ガラガラガラッ」という音と共にドアを開けて教室に岡田先生が入ってきた。


「ちょっと早いんやけど席についてくれるか?」


 そう言われた僕たちは無言で自分の席に座った。何が始まるかは大体想像がつく。皆んな一様に下を向いている。

 岡田先生はそんな生徒たちをぐるりと見回すが、姿勢には触れずそのまま話し出した。


「皆んな知っていると思うが、昨日山田が亡くなった。警察の発表によると溺死とのことや…。あの泉で何があったかは、わしら先生にもわからん。後の事は警察に任せよう」


 生徒たちは黙って話を聞いている。誰も何も言わない。ただただ悲しみを堪えている。


「今からプリントを配る。これは心のケアをしてくれやる相談ダイヤルと施設がある場所が書いたる。わしらに相談してくれてもえぇし、こういった専門の方もいはる。大人をいっぱい頼ってくれな。では、最後に黙祷を捧げようと思う」


 その言葉に生徒たちは一斉に姿勢を正し目を瞑る。全員の準備が整ったことを確認した岡田先生も目を閉じる。


「黙祷。……………………………終わり」


 岡田先生の言葉に全員が再び目を開く。生徒たちの顔はどこか少し晴れやかなものになっていた気がした。

 この日はこのまま下校することになった。登校したものの生徒たちの様子が学業に打ち込める状態ではなかった為だ。

 ぞろぞろと教室を後にする生徒たち。皆んなのそんな姿を座ったまま見つめていた僕と香織の元に近づく人影があった。


「二人はもう帰るん?」


 僕と香織が声の方を向くと石川さんと草野が立っていた。二人とも笑顔がどこかぎこちない。


「そういや、どうしようなぁ。香織、どうする?」


「こうなるって思てなかったしなぁ…。取り敢えず、どっかでお弁当は食べてから帰る」


「いや、石川さんはそんな事は聞いてへんやろ。石川さん、なんか用があるん?」


「そうなんよ。同じ班やったメンバーでちょっと話したいなぁて思って」


「草野もか?」


 草野は「そうや」とだけ答える。香織はお弁当食べるお昼まではどこかで時間潰すやろうし、僕は彼らの雰囲気を訝しみながらも了承した。彼らの話を聞いた方が良いと僕に何かが告げていた。

 僕たちは場所を変えた。こういう時は屋上に行くに限る。

 屋上へと続く階段には立ち入り禁止のロープと看板があるがそれを慣れた様子で潜り抜ける。屋上に出るためのドアには鍵がついているが壊れたまま放置されているのでそのまま屋上へと出る。

 照りつける太陽がジリジリと僕たちの肌を焼きつける。入口の横に日陰をみつけてそこへ入る4人。


「で、話ってなんなん?」


「えっと…」と言い顔を見合わせる石川さんと草野。それを見た香織の瞳がキラキラと輝き出し声をあげる。


「まさか、二人付き合い始めたとか?」


「違うで! 香織、何言うてんの!」


 勢いよく否定する石川さんと横に手を振る草野。そした、それを見て一気に沈む香織。


「なんやー、違うんかぁ。それやったらおもろかったのに」


「違うよー。何か気ぃ軽なったわ、ありがと。で、本題に入るで。あの晩のことなんやけどな」


「あの晩? あの晩て山田が亡くなった?」


「そう。あの晩の話。あの晩…、私見てしもたんよ…」


「何を?」


「笑わんといてや。絶対やで、約束してや!」


「うん。約束する。何見たん?」


「…の山田くん」  


「山田を? それ笑うとこないで」  


「髪の長い山田くん…」


「え? 髪の長い? 丸刈りの山田くんが? 早希寝惚けてたんとちゃうやんな?」


「違うよ! だから、言いたくなかったんよ…」


 石川さんは下を向き顔を両手で覆う。香織が「ごめん」と謝っている横で僕は腕を組む。


「石川さん、その山田なんやけどさぁ。()()()()()()()()()()じゃなかった?」


「え…、そうやで…。なんで知ってるん? 見たん?」


「いや、僕は朝まで爆睡やったから見てへん。見てへんけど…」


 僕はこれ以上の不安を彼らに与えることはできなかった。香織もそれを察して僕を見て首を横に振っている。


「草野は見てへんやろ? 朝にあれだけ大騒ぎしてたんやし」


「見てへん」


「じゃあ、草野は何の話があるん?」


「ぼくは他のクラスのやつから聞いた話があるんや。噂くらいのことかもしれんけど、今回のことと関係ある話やったで伝えとこうかと思て」


「関係のある噂?」


「そうや。あの晩、山田は泉に呼び出されとったんやけどな」


「呼び出されてた? 誰に?」


「髙橋さんや」


「髙橋さん? うちのクラスの髙橋奈美?」


「そうや。でも、それを知った山田に片想いしてた違うクラスの女子が先回りする計画をしよったらしい」


「なんやて…。その女子はどうなったん?」


「もちろん振られたらしい。何か思い出にとか、諦めるからとか理由つけて抱きしめてもろたとか言うてたらしいで」


「ちょっと待ってくれ。それホンマの話やんな?」


「ホンマかは知らんよ。噂でそういう話があるんや」


「そうなんか…。で、髙橋さんは?」


「その姿を見てしもた…、か?」


「かも知らんな…。因みに、山田と髙橋さんは…」


 石川さんと草野はそこで目を閉じて「両想いで、あの晩から付き合うことになるはずやった」と言った。


「そんな…。まさか…」


 香織はそう言うと僕を見る。僕は何も言えなかった。そんな事がありえるのか。これでは、知世さんの時と同じだ。これは偶然なのか?

 僕の頭の中に様々な憶測がぐるぐると回る。


「それでな。草野くんと話してたんやけど、今日これから奈美のお見舞いに行こうと思うんやけど、どうやろか?」


「香織」


「うん。行こ!」


「決まりな。ほな、わたしはお見舞いの品とか準備していくで、□□駅前に集合でええかな?」


「了解!」


 そう言い同時に敬礼する僕と香織。それを見た石川さんと草野は「だから、何で二人はそれで付き合うてないんや…」と呆れていた。


 ◇


 僕と香織、草野の三人は□□駅の出入口に立っている。石川さんの到着を待っているのだ。駅前集合だが、さすがに太陽の日差しが厳しく日陰へと避難した。蝉の鳴く声が聞こえる。聞こえるというレベルではなく正確には大合唱だ。


「夏やなぁ…」


「ホンマにな…。太陽の日差しきつすぎるし、蝉もすごいな…」


「草野は余裕ありそうやな?」


「あぁ、いつもはこういう中で部活してるからな。二人よりは慣れてるかもな」


「そっかー。やっぱり運動部は鍛え方がちゃうなぁ…」


 僕と香織は草野を改めて尊敬した。草野は「そんなとこで尊敬されても困るで」と笑っていた。僕と香織が暑さにだれていると「お待たせー」と元気な声が聞こえた。

 顔を上げると石川さんが果物の入ったカゴを持って笑顔で走ってくるところだった。


「石川さん…」


「早希…」


「二人して何?」


「尊敬するで…」


「えっ? どういうこと? 草野くん、この二人どうしたん?」


 挙動不審になる石川さんに草野は「あぁ、ほっといたらええで」と笑って言った。  


「なんや、ようわからんけどえぇわ。香織はお弁当食べたん?」


「さっき、食べたよー」


「おっけー。なら、出発しよ」


 そして、僕たちは髙橋奈美の家に向かう。石川さんは何度か彼女の家に遊びに行った事があるらしく場所を知っているらしい。

 髙橋さんの家は駅からほど近い場所にあった。僕たちの眼前にあるのは天高く聳える高層建築物。それは所謂、駅近のマンションというやつだ。

 最近では田舎にもこういったマンションが増えてきている。田舎の一軒家で育った僕や香織には縁遠いものではあるが。

 僕たちはエントランスに入る。石川さんが端末で部屋の番号を押すと、向こうから綺麗な女性の声が聞こえてきた。


「はい。どちら様でしょうか?」


「あ、わたしは石川早希です。クラスメイトと奈美さんのお見舞いに伺いました」


「早希ちゃん! すぐに開けるわね、どうぞ入って」


「ありがとうございます」


 会話が終わると同時にオートロックの扉が開く。僕たちは中に入り、数メートル先にあった二つめのオートロックを解除してもらいマンションの中へと入った。

 そこからエレベーターで5階まで上がり、「髙橋」の改札が掲げられたドアの前に辿り着く。

 インターホンを押すとガチャという音と共に中からドアが開く。

 そこに立っていたのは髙橋さんのお母さんだろうか。細心の美しい女性で、長い髪を頭の上で結っている。着飾っているわけではないが、気品とどこか目を惹く美しさがある。


「早希ちゃん、わざわざありがとうね。御学友の皆さんもありがとう。さぁ、入って入って」


「お邪魔します」と僕たちは靴を脱ぎ室内へと入る。


「おばちゃん、奈美さんは?」


「ちょっと、早希。おばちゃんは失礼やで、どう見てもお姉さんやろ」


「あら、うれしい事言ってくれはるわ。私、これでも奈美の母なんよ」


「えぇっ! 全然、見えへん。うちのおかんとはえらい違いやで」


「お前、それはおばちゃんに怒られるから言わん方がええぞ…」


「黙っといてや」と僕を睨む香織。そんな僕たちを見て笑みを漏らす髙橋母。


「で、話戻すけど。奈美さんはどうですか?」


「あの子、身体はもう何ともあらへんのよ。どこにも異常はないんよ。でも、何か塞ぎ込んでしもてて。最初はクラスメイトが亡くなったショックかと思てたんやけど、どうも違うみたいなんよね。何か聞いてる?」


「いえ、聞いてないんです。でも、それも含めて話したいな思て御見舞いに伺ったんです」


 髙橋母は目頭を押さえる。涙ぐんだ声だったが「早希ちゃん、ありがとうな」とそう聞こえた。顔を上げた髙橋母は奈美の部屋の前へと僕たちを案内し、ドアを「コン、コン」と二回ノックする。


「奈美! 早希ちゃんとクラスメイトの方たちが御見舞いに来てはるよ。開けるわね」


 部屋の中は静まり返っていたが「……、うん」と小さく返事があった。髙橋母はゆっくりドアノブを回してドアを開く。

 室内は遮光カーテンがきっちり閉められていて真っ暗だ。目を凝らすと部屋の奥にあるベッドの上に座る一人の人影が見えた。


「電気つけるで」と言い証明のスイッチを押すと一気に光で室内が満たされる。白を基調にピンクの小物で整えられた可愛らしい部屋だ。

 そして、ベッドの上に座る一人の女性。短い髪はボサボサであっちこっちを向いており、目の下には深い隈ができている。心なしか顔色も青白く見えた。

 髙橋母は「私はこれで」と言い部屋を出て行った。僕たちはドアが閉まると奈美の前に歩み寄りカーペットの上に座った。

 石川さんが奈美の横まで移動し手を握る。


「奈美、調子はどう?」


「早希ぃ…。うち…、うち…」


「もう身体は大丈夫なんやろ?」


「…、う、ん。大丈夫。でも、心にポッカリ穴が空いてもた感じで…。あと…」


「そうやな、それはつらいやつやな。いっぱい話聞かせてや。なんぼでも聞くで。で、あとは何?」


「それは…。香織ちゃん…、何かごめんな…。うち、よう覚えてへんけど何か酷い事した気がするねん…。ホンマごめんな…」


「香織、どういうこと? 何かあったん?」


 香織は僕の方を見る。あれは助けを求めてる時の顔だ。誤魔化すのも上手く説明する自信が全くないのだろう。僕は一度ゆっくり息を吐き出し、頭をフル回転させる。

 誤魔化すのがいいか、それとも全て打ち明けるか。打ち明ければ彼らを危険に巻き込むことになるかもしれない。

 奈美からはもう嫌な感じはしない。なら、彼女の事件はあのお札で全て終わったと見ていいだろう。敢えて、もう一度危険に晒す必要も、変に不安を煽る必要もない。

 ここは、誤魔化すのが良さそうだ。そう僕は判断した。ここまでの思考にかかった時間は僅か1秒程度。不審に思われることはない。


「髙橋さん。何も酷い事してへんで、安心してや。あった事いうたら、貧血か何かわからんけど倒れた時に香織を下敷きにしたくらいやと思うで」


「ホンマに…?」


「そうやで。突然倒れてきたでびっくりしたわー。必死に受け止めようとしたんやけど、私この通りよわよわやから一緒に倒れてしもたんや。尻餅ついただけやで、全然大丈夫や!」


 香織はそう言うと歯を出してニカっと笑う。僕もその横でうんうんと大きく頷く。


「あんな所で転倒したら大怪我やで。香織がえぇクッションになってホンマに良かったで」


「ちょっと、それどう意味や? 私が太ってるて言いたいんか?」


「誰もそんな事言うてへんやん。何や? 自覚でもあるんか?」


 僕はそう言い香織の身体を上から下にじろじろと見る。「ムキィー」と言い睨んでくる香織。


「身体じろじろ見んな変態! そんな自覚あらへんわ」


「ふふふふ…二人とも相変わらずやね。おかし、ふふふふふふ」


「やっと、笑たな」


「うん、ありがと。ちょっと元気出たわ」


 奈美は僕たちの夫婦漫才で少し日常を取り戻したようだ。こんなやり取りでも彼女の役にたったのなら何よりだ。

 石川さんはそんな奈美の様子を見て話を切り出した。


「奈美。思い出したくなかったり、話したくなかったら話してくれんでもえぇんやけど、あの晩の事聞いてもえぇ?」


「あの晩」という言葉を聞いた奈美は眉を一瞬顰める。しかし、彼女はすぐに凛々しい顔になる。聡明な彼女は「あの晩」という言葉で何かを感じ取ったようだ。

 彼女の決意を秘めた瞳が僕たちを見つめる。


「えぇよ。何でも聞いて。うちがまだ知らんこともあるんやろ? それも教えてや」


「わかった」と言い石川さんはあの晩のことを奈美に伝えた。長い髪の怪異となった山田、違うクラスの女子の告白の話と顛末を全て。

 最後まで聞き終えた石川さんは「よかった」と漏らし一雫の涙を流した。


「うち、勘違いしてたんやな…。山田はうちのこと好きでいてくれてたんやな…。ホンマによかった…」


 彼女の山田に対する誤解は解けた。しかし、彼女の心に空いた穴は簡単には埋まらないだろう。まだ、悲しみに心を覆われているに違いない。まだその瞳は潤んでいる。

 それでも、彼女は力強い瞳で僕たちの方を見ている。

 簡単な言葉で片付けてはいけないとわかってはいたが、僕は「彼女は強い女性だ」とそう思った。


「ほんで、私に聞きたいことって何?」


「わたしが聞きたかったんは落ち込んでる奈美の話で、励ましに来ただけや。その顔やと解決したみたいやでもう大丈夫。皆んなは?」


「ぼくは告白の話伝えたかったんと普通に御見舞い」


 石川さんと草野の目的は達せられたようだ。僕と香織の目的はここからだ。香織が僕の制服の袖を掴む。


「ほんなら、僕の聞きたいことえぇかな?」


「えぇよ。何でも聞いて」


「髙橋さんはあの晩、山田を泉に呼び出してたやんか。てことは、髙橋さんも泉に行ったんやんな?」


「うーんとね、厳密には行ってない」


「行ってない?」


「そう。泉に続く道を歩いてたら前の方に一人の女子の姿が見えたんよ。で、その女子が泉の方に入っていったから気づかれんように後をついてたっんや。で、アーチ潜って泉の見えるとこまでは行ったけど、泉までは行ってない」


「そこで、抱き合う山田を見た?」


「そう…。そこで勘違いして、うちは逃げ出してもたんやけどね」


「雨降ってた?」


「ちょっと降ってたかな。だから、うちは傘さして行ったんよ」


「山田が抱き合ってた時は?」


「降ってたよー」


「抱き合ってた二人は傘さしてた?」


「さしてた。あれ…? ピンクの傘さして抱き合ってたのになんで山田くんてわかったんやろ?」


「石川さんが見た山田なんやけど、傘はさしてなかったんやんな?」


「えーっと、そうやね。雨は降ってなかったし、長い髪の毛が見えたくらいやから傘はさしてなかったはずや」


「了解。二人ともありがとうな」


「こんなんでえぇの?」


「うん。何となくわかったわ」


 香織の頭の上にはクエスチョンマークが三つ程浮かんでいたが僕にはそれで十分だった。

 僕の話が終わった時、ドアがノックされ髙橋母が御見舞の果物を切って持ってきてくれた。

 それを美味しく頂きながら他愛もない話をし、岡田先生から預かっていたプリントを渡すと僕たちはお暇した。

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