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僕と×××。と香織の物語「特別編 林間学校から始まる×××。」  作者: なお。


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2/16

 ○○山の中腹に到着した僕たちは岡田先生と別れ、割り振られたキャンプエリアへと向かった。

 その場所につくと、地面にテント二式とバーベキューセット、飯盒炊爨セットなどが置かれていた。これらは、事前に申請しておいた物を学校側が車で届けてくれたのだ。

 僕たちはレジャーシートを広げて荷物を固めて置く。到着した班から昼食を摂るようだ。ご飯を作るのは夜だけで昼ごはんは学校側が用意してくれる。

 昼食のメニューはカレーライス。スパイスの良い香りがキャンプ場に広がる。市販のカレールーで作ったカレー、少しピリッとする辛味がある。山を登ったからか僕たちはいつもより美味しく感じた。

 昼食を終えた後からは生徒たちに全てが一存される。先にテントを設営するも遊ぶも全て自由だ。生徒の裁量に全てが委ねられている。

 僕たちは設備の確認を行うことにした。テントを設営する場所、バーベキューをする場所、調理を行える炊事場、トイレなど一つずつ皆で確認して回った。

 このキャンプ場には水道があった。蛇口を捻ると冷たい水が出る。上水道ではなく湧水をひいているとのことだ。

 水が使えるならそれがなんでも構わない。水を汲みに行かなくても良いという事実は僕たちを安堵させるに十分足りうるものだった。


「水道使えるんは助かるよな」


「ホンマやで。さすがに水の確保からは出来んよな」


「出来ん出来ん。そうや、聞いたか?」


「何を?」


 草野の問いに僕たちは首を傾げる。そんな僕たちを見て草野は自慢げに口を開く。


「キャンプエリアから少し離れた森の中に泉があるらしいで。それは綺麗な泉でな、木陰で涼しいし、めちゃ癒されるて聞いたで」


「へぇー。めっちゃええやん! 皆んなで見にいこうや」


 女子たちのテンションが一気にあがった。香織の瞳もキラキラと輝いており、気持ちが溢れているのが見て取れる。


「まだ準備始めんでも大丈夫やんな? 先に行かへん?」


「そうやな。先に泉に行った方が流れ的にもえぇかもしれんな」


「よし、決まり! 草野くん道案内お願い」


「了解!」と草野は泉へと向かって歩き出す。僕たちははやる気持ちを抑えて彼の後に続いて歩いた。


 僕たちはキャンプエリアを抜けて森へと続く道を進む。前方からは他の生徒たちが戻ってくる。泉から帰ってきたのだろう。皆んな表情が涼やかだ。


「皆んな癒されてる感あるな。どんなとこなんやろなぁ。楽しみー」


「草野くん曰く、綺麗な泉らしいからな。さぞえぇ泉なんやろ」


「ちょっと、石川さん! ぼくは聞いただけやで。変にハードル上げんといてぇな…」


 草野の困った顔を見て僕たちは笑う。そんな冗談を言っているうちに泉への入口が見え始める。

 左右に大木が生い茂り自然のアーチが出来ている。その大木の奥にも多くの草木が生えており泉の周りをぐるりと囲む。

 僕たちが自然のアーチをくぐると眼前には異世界が広がっていた。


「うわぁ…、綺麗…」


 女子たちの口から感嘆の言葉が漏れる。僕の横で草野が安堵しているのが見えた。僕は「草野…、よかったな」と彼の肩をポンと叩き労う。


 僕たちは泉へと近づいていく。辺りは少し薄暗い。樹木が高く聳えドームのように泉を覆っているのだ。しかし、泉の真上だけがぽっかりと空いており上から泉に向かって陽の光柱が降り注ぎ、反射した光でキラキラと泉が優しく輝いている。

 僕たちはその幻想的な光景に思わず無言になった。泉は明度の高い美しい水を湛えており、泉底まできれいに見ることができた。

 僕たちは思い思いに風にあたったり、水で涼んだりした。


「ホンマにキレイや。陽があたらんから涼しいし、水も冷たくてめっちゃ気持ちえぇ」


「ホンマに。これは草野の大手柄や、サンキューな」


 髙橋さんも山田も満足そうだ。僕は泉の中をぼーっと眺める。小さな魚が泳いでいる。海老や沢蟹の姿もある。


「水もキレイやし、生物もいっぱいおる。えぇとこや…。……、ん…?」


「どうしたん? 何かあったか?」


「あの泉の底のほうに…。あれ? 何もないわ」


「あんた、何言うてんねんな。暑さで呆けたか?」


「いや…。そうかもしれんな、はははは」


 僕はそう言うと泉の水で顔を洗った。硬く冷たい水で顔がシャキッとし、目が醒めた気分だ。

 僕が顔を拭いていると山田の声が聞こえた。


「そろそろ戻ろうや。準備せんとまずそうやで」


「ホンマやな。急いで戻ろ!」


 僕たちは時間を忘れ長居しすぎたようだ。キャンプエリアを目指して歩き出す。山田や石川さんたちは小走りに泉を後にする。

 僕と香織は「待ってえや!」と言いながらも歩いて彼らの後を追う。

 自然のアーチをくぐるときに僕は背筋に嫌な気配を感じ振り返る。

 しかし、そこには来た時と同じ綺麗な光景が広がっているだけだった。

 僕は「疲れてるんかな?」と自分を納得させその場を後にする。

 泉の底から何やら黒いモノが伸びていたことも知らずに…。


 ◇


 泉から戻った僕たちは夜に向けて準備を始めることにした。テント設営組は僕たちの班の設営場所へと向かう。山田と草野は軽々とその肩にテントを担ぎ歩いていく。さすが体育会系は頼りになる。

 石川さんと髙橋さんは「じゃあね〜」と手をひらひらと振りながら去って行った。

 この場に残される二人。いつもと何ら変わらないはずなのだが、環境が違うと少し変に緊張する。


「香織…、こっちもやろか?」


「せ、せやな。何からする?」


 会話もどこか少しぎこちない。こんなことでは夕暮れに間に合わない。僕は自分の頬を「バチン」と両手で叩き自身を叱咤激励した。

 そんな僕の突然の行動に驚く香織。


「どうしたん?」


「いや、何からしくなかったからさ。気合い入れたんや」


「なんやそれ」と笑う香織。いつもの彼女に戻ったようだ。


「ほんなら、香織は食材のチェックと向こうの炊事場に野菜とか道具運んどいてぇな。僕はバーベキューのセッティングだけしたら、お米とか重たいやつ持ってそっちに合流するで」


「おっけー! じゃあ、先に行ってるわ!」


 香織は数往復し食材と道具を運んでくれる。僕も網や鉄板を所定の場所に設置し、その下に炭を置いた。火はまだつけない。他の準備が全て終わってからだ。

 網などの設置を終えた僕はお米などの重たい荷物を持って香織の待つ炊事場へと移動した。

 そこで見た光景は僕を驚かせる。香織が先に材料の下準備を始めてくれていたのだ。実を言うと僕は彼女が何かしてくれると期待していなかった。

 野菜は丁寧に洗われ、適当な大きさに揃えてカットしてある。僕は荷物を持ったままその場に呆然と立ち尽くす。


「あ! 先に始めといたで。野菜はこんな感じでえぇやんな?」


「………」


「ちょっと聞いてる? どうしたんよ?」


「あぁ…、それでバッチリやで。香織って、ちゃんと料理出来たんやな」


「えっ? もしかして、私が何も出来ひんて思てたんか! 失礼なやっちゃな」


 僕は「ごめん、ごめん」と素直に謝罪し、「すごいやん、見直したわ」と褒める。

 彼女は少し照れたような表情を見せたが、「せやろ? すごいやろ?」と自信満々に胸を張る。

 僕は苦笑しながら彼女の隣に立ち作業を始める。お米を研いで水と一緒に飯盒に入れて蓋をする。その間に、隣では香織が肉の塊を切り分けていく。僕はその肉と野菜を順番に串に刺していく。


「見てみぃ。あそこの二人、すげぇ息ぴったりやん」 


「あぁ、あの二人は幼馴染で昔から仲良ぇんよ。なんで、あれで付き合うてないんやろな」


 僕は内心その言葉に心が揺れた。食材を串に刺しながら横目で香織の顔を確認する。


 顔が少し赤いか?

 ぷるぷる震えている気もする。


 そんな僕の視線に香織が気づく。


「あんた、何みてんねん。手ぇ止まってるで」


「あぁ、ごめん。ちょっと、お前のこと気になってもてな」


「なんなんそれ。さっさと準備して戻ろうや」


「せやな。皆んな待ってるかもしれんしな」


 その後も周囲の視線にさらされ続けた二人は、照れを隠すように手早く次々と食材の準備を進めた。


 ◇


 バーベキュースペースに戻ると、山田と草野が火を起こしていてくれた。もう炭は安定しておりいつでも調理ができる状態だった。


「おぉ! 二人ともありがとー! すげぇやん」


「こっちは人数多かったし、テントはすぐに建てられたんや。だから、これくらいはしとこうって話になったんや」


「いやぁ、これはホンマ助かったわ。お陰ですぐに始められるで。もう、始めよか?」


「せやな。わたし、もうお腹ペコペコや」


「そんじゃあ、いくでー」


 香織が肉と野菜の刺さった串を網の上に置くと、「じゅ〜」という良い音と共に香ばしい香りが漂う。

 その香りを吸った僕の口の中にはよだれが噴き出す。皆んなが唾を飲み込んでいるところを見て、これは僕だけではないのだとわかる。


「めっちゃ、えぇ香りやん」


「ホンマやなぁ、食欲そそられるなぁ」


 石川さんと髙橋さんは香りだけですでに幸せそうだ。山田と草野も「たまらん、もう待ちきれん」とその目が語っていた。

 僕は串を焼きながら飯盒の炊き具合にも注意する。

 肉にいい焼き目がつき、串をそれぞれに取り分ける。飯盒のご飯も炊き上がり、底の方には綺麗なおこげも出来た。僕は「上出来だ」と自画自賛する。

 そした、全員が手に串を持った事を確認すると皆んな自然と声が出た。


「いただきます!」


 はむ、もぐもぐもぐもぐ。

 じゅわ〜。


 口から鼻に芳ばしい香りが抜け、舌の上には肉汁が溢れる。


「うっま!」


「美味しすぎん!」


「これ、めちゃええ肉?」


 皆んなの幸せそうな顔を見て僕は自然と頬がゆるむ。隣に立つ香織も満面の笑みだ。


「あんた、何ニヤついてんねん。ほら、食べ食べ!」


 そう言い香織は串を口に突っ込んできた。無理矢理押し込まれた肉が僕の口の中で旨みを爆発させる。


「ホンマに美味いやん」


「やろ? さらに、美少女に食べさせてもらえて美味しさ倍増やで」


「いやいや、美少女は無理矢理口に串突っ込まんやろ…」


「なんか言うたか?」


 香織の鋭い視線が僕に突き刺さる。僕は小さく「いえ、倍増でした」と言った。香織は満足そうに「ならば、よし」と言い二本目の串を取りに行った。


「美少女には間違いないんやけどな…」


 僕は彼女に聞こえないようにそう呟いた。それを聞いていた石川さんたちはクスッと笑みを漏らしていた。

 その後、鉄板で焼きそばを作ったり、鍋でスープを作ったりとやりたい放題し、僕たちはついに満腹を迎えた。


「はぁー、お腹いっぱい。俺はもう食べられへん」


 山田と草野は地面に腰をおろしてお腹をさすっている。石川さんと髙橋さんも満足気だ。


「じゃあ、片付けしよか」


「せやな。じゃあ、僕と香織で洗いものするから、四人でここ片しといてくれる?」


「おっけー、任せろい!」


 僕は「よろしく」と言い香織と炊事場へと移動する。移動した頃には空はもう暗く、紫色になっていた。

 流し場には照明の明かりがついていた。しかし、その周囲は薄暗く気味が悪い。すぐそばには草木が生い茂っており、ここが自然の真っ只中なのだと思い出させる。

 他の生徒たちは既に食事を終えて各々が自由な時間を満喫している。


「僕たちもさっさと終わらせてゆっくりしようや」


「そうしよ。日が暮れたらキャンプファイヤーもあるしな」


 僕と香織は急いで食器や使った道具を洗っていく。僕は洗っている途中でバーベキューで使った網と鉄板を忘れている事に気づく。


「香織、網と鉄板忘れてるから取ってくるわ。一人で大丈夫か?」


「大丈夫やで。あんたが取りに行ってる間に泡流してるわ」


「了解! じゃあ、行ってくるわ」


「いってらっしゃ〜い」と手をひらひら振りながら送り出す香織。僕は彼女の方を一度振り返ってその姿を見ると再び前を向いて歩き出した。


 僕は急いでバーベキュースペースに戻った。そこでは四人が炭の処理をしている最中で、草野が網と鉄板を持ち上げているところだった。


「おぉ、これか?」


「そう、それ!」


 そう言い僕は草野から網と鉄板を受け取る。草野は軽々と二つ纏めて持ち上げていたが僕には少し重い。「うっ」と口から出たのを聞いた草野がすっと鉄板を持ってくれた。


「ありがと」


「いや、えぇよ。持っていくわ」


「助かるわ、お願い!」


 そんなやり取りをしていた時だった。


「きゃーーーーー!」


 突然、女子生徒の悲鳴が聞こえた。あれは、「香織の声」だ。僕は網を地面に置くと炊事場へと駆け出した。


 ◇


「ふんふふふふんふふーん」


 香織は鼻歌を歌いながらご機嫌で食器を洗っている。慣れた手つきでどんどん泡を流し蛇口の上にある棚へと食器を重ねていく。


「あいつまだ戻ってけえへんなぁ。一人で大丈夫って言うたけど、実際ちょっと怖いんよな…。ここ暗くて薄気味悪いし…」


 香織は恐怖に身体を縮めながらも綺麗に食器を洗っていく。


「そうやん。さっさと終わらせて私があいつのとこに行けばええんやん。私って、天才!」


 香織はそう思いつき食器を洗うスピードを上げる。辺りには香織の鼻歌と「ゴシゴシ、ジャー、キュッキュッ、ジャー」という食器を洗う音だけがしている。


 ガサッガサッ…。


「きゃっ、何いまの?」


 香織はビクッと身体を縮ませ食器を洗っている体勢のまま固まる。そして、ゆっくりと周囲を見回す。

 どこにも特段変わった様子はない。ここは山の中なのだから動物がいても不思議ではない。もしくは、風が吹いて草木が揺れただけだろう。香織は自身を安心させる為にそう自分に言い聞かせた。


「うん、大丈夫! 何もなかった。さぁ、食器洗ってし………、え、これ…何…?」


 香織が安堵したその時だった。彼女の手に先ほどまでとは違う感触がする。食器を洗う水の中に明らかな異物があるとわかる。それは食器はもちろん彼女の指に絡まりついていく。

 香織は嫌な予感しかしなかったが、恐る恐る下を向き自身の手を確認した。


「きゃーーーーー!」


 ◇


「香織! 大丈夫か?」


「うぅぅ…」


 僕は急いで彼女の元に駆け寄る。香織は手元を見て震えているようだ。僕は「もう大丈夫や。落ち着いて」と肩に手を優しく置く。

 香織の近くには洗いかけの食器が転がっていた。食器を洗っている時に何かあったようだ。


「香織、どうしたんや?」


「えっと…、な…。これ見て…」


 香織が流しの方を指差すので、僕は怪訝な表情を浮かべ言われた方を覗き込む。

 ここは大自然の中だ。僕は蛙などの生物でも飛び込んできたのかと思ったのだ。

 しかし、僕の視界に飛び込んできたのは予想だにしていなかったものだった。  

 僕はそれを見た瞬間絶句し悪寒が走る。


「香織…、これって…」


「食器洗ってたら蛇口の中から突然出てきたんや…。しゅるしゅるしゅる…、ぶわぁーって…」


 僕の目に飛び込んできたのは食器に絡まる()()()()()()()()だった…。


 香織の左手の指にも大量の髪の毛が絡みついていた。僕は香織の肩を抱きその場から移動させる。少し離れた蛇口を捻ると綺麗な水が出たのでそこで手を洗わせた。

 そこに遅れて他の班のメンバーが網と鉄板を持ってやってきた。そして、炊事場を見て僕と同じように絶句する。


「これ…なに…?」


「髪の毛? なんで…」


 石川さんと髙橋さんは目の前にある恐怖と嫌悪感でガタガタと震え出す。山田と草野の眉間にも深い皺が刻まれている。

 山田は嫌悪感を示しつつも僕の方へ歩み寄る。


「これどういう状況なん?」


「水道から出てきたらしいんや。なんでかは全くわからん…」


「そら、想像つかんな。取り敢えず、岡田先生呼んでくるわ」


「せやな。頼むわ」


 山田は小走りで教員テントのエリアへ走っていった。僕たちはそれを見送ると、自分たちのテントへ一旦戻る事にした。少なくとも女子さん人をこのままここに居させる気にはならなかった。


「香織、テントで休もうや。石川さんと髙橋さんとゆっくりしぃ。食器はなんとかしとくで大丈夫や」


「うん、ありがとう」


 女子三人は肩を寄せ合いテントへと戻っていった。僕と草野はお互い視線を交わし深いため息を吐いた。


「これ洗うん? どうする感じ?」


「洗わんと明日の朝の食器がないんよな。でも、洗ったとしてこれを使う勇気ある?」


「ないな…」


 僕たちは途方に暮れる。取り敢えず、ゴム手袋をはめて水で泡を流すが髪の毛は長さも量もすごいので簡単には流れていかない。

 それはまるで、「お前たちに絡みつき逃さない」と言っているかのようだ。


「これはあかんな」


「全然取れんし、使いたくないな…。諦めようや…」


 僕が「せやな」と言ったとき後ろに近づく気配を感じた。僕と草野は目の前の惨状もあり恐る恐る後ろを振り返る。


「髪の毛出てきたんやって? どれや?」


 そこにいたのは岡田先生と山田だった。安堵の息を漏らす僕と草野。僕は岡田先生を食器の前に連れていき、これまでの状況を簡単に説明した。岡田先生は蛇口の下にある食器を覗き込むと嫌悪感を露わにし物凄い速度で後退った。


「水で流してるんやけど全然流れへんのや。ほんで、さすがに明日の朝にこれを使うのは嫌なんやけど…」


「そらそやろな…。お前ら、そんなんよう触れるな…。もう、洗わんでえぇ。ゴミ袋に纏めといてくれ。明日の朝は新しいの用意しとくさかいに」


「よっしゃ、先生ありがと!」


「おぅ。で、なんでこんなことなったんやろな…。さすがに気味悪過ぎるで…。お前ら夜はいらんことせんとテントでおれよ、えぇな?」


「もちろんやで…。さすがに怖いで、どこも行けへんよ…」


 岡田先生は「そらそやな」と笑いながら教員テントへと帰っていった。蛇口から髪の毛が出てきた原因はわからないし、気味悪いのも変わらない。

 しかし、食器を洗わなくても済んだし、明日の朝は新しい物が支給される。それだけで僕たちの心は少し軽くなった気がした。

 その後、食器をゴミ袋に纏めて捨てた僕たちは女子たちのいるテントへと戻る。

 僕が見たところ女子たちは大分平静を取り戻しているように見えた。

 香織にも笑顔が戻っており、僕は少し安心した。彼女はそんな僕の視線に気付いたのかニコッと微笑む。

 幼馴染の僕たちはそれだけで何となくお互いの想いが通じたように感じる。僕の思い違いでなければだが…。

 遠くでキャンプファイヤーが始まるとかいう声が聞こえる。僕たちはそんな気分ではなかったが少しでも気を紛らわせられるかと思い燃えたぎる炎に向かって歩き出す。

 僕はキャンプファイヤーの炎を見つめてる間も、脳裏には先ほどの()()()が散らついていた。そして、ついに最後までその不安を拭い去ることは出来なかった…。

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