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僕と×××。と香織の物語「特別編 林間学校から始まる×××。」  作者: なお。


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十一

 鍛錬を終えると遥陽は以前に渡した朱い札を確認し、僕にアドバイスをしてくれた。


「簡易結界の札が出来上がるまでは自衛をして貰わなければなりません。しかし、きみはまだ戦う術を持ち合わせていない。だから、朱と白の札、御守りだけで乗り切らなければならない。それはわかっていますね?」


「はい。もちろんです」


「そこで、私から少しアドバイスがあります。両手を前に出してください。足首も見えるように捲っておいてください」


「はい。なんなんです?」


「ふふふ。きみでも咄嗟に札が使える方法ですよ」


 遥陽は鞄から何かを取り出してきて僕の両手両足首にそれを装着した。リストバンドのようなものにホルスターがついている。ちょうどお札が入るくらいのサイズだ。

 ワンタッチで一枚ずつお札が出てくる優れものらしい。


「このホルスターに朱い札を入れておけば、咄嗟の時でも札をすぐに取り出せます。取り出しさえ出来れば?」


「後は勝手に飛んでいく」


「そういうことです。効果は髙橋さんの時に立証済みですしね。足は何のためにつけるんですか?」


「念の為です。どんな体勢になるかわからないですし、手の方がなくなった時のストックにもなるでしょう。用意しておいて困る事はありませんよ」


「確かにそうですね。ありがとうございます。何かやれそうな気がしてきました」


「その強い心も大切ですからね。気持ちが大事ですよ。決して相手に呑まれてはいけません。冷静に意志を強く持って行動するのです。ただ、無理だと思ったらすぐに逃げるのも大事です。見極めが肝心ですよ」


「はい。無茶は絶対しません。あいつに怒られてまうんで」


 僕は苦笑し香織の部屋がある方を見る。遥陽も「そうですね」と笑った。母は縁側でニヤニヤしている。あの顔は香織に密告する気だ。


 母が夕ご飯を勧めたがこの後用事があるとかで残念そうに帰っていった。僕は彼の車を見送ったその足で香織の家に向かう。

 インターホンを押し名前を告げると、ドタドタという大きな足音と共に玄関まで香織が駆けつける。

 香織はまたこんな時間に来た僕に驚いていたが事情を説明すると納得してくれた。

 二人で昨日と同じように彼女の部屋に上がり札を設置していく。

 僕が四枚目のお札を貼っていると香織が心配そうな声で話しかけてきた。


「なぁ、ホンマにええの?」


「何が?」


「そのお札よ…。あんたの部屋に貼ってたやつやん。それなかったら、あんたの部屋は守られへんてことやろ?」


「せやなぁ。結界はなくなるってことやなぁ」


「そんなんしたら、あんたが危ななるやん。大丈夫なん?」


「うーん、わからん」


「わからんて、あんたなぁ…」


 香織は心配と不安、あやふやな返答をする僕への怒りが入り混じったような複雑な表情を見せた。


「わからんけど、何とかする。香織は自分では絶対に身を守れんやんか。しかも、僕より先に狙われとる。林間学校の下山中も昨日も。だから、可能性で言えば僕より香織なんよ」


「そら、そうかも知れんけど…」


「それに僕には朱い札もあるし、おかんもおる。白い札と御守りも守ってくれる。だから、大丈夫や」


 僕の微笑みに香織は無言で俯く。頭ではわかっているが感情が納得し切れていない様子だ。


「香織。一つだけ二人ともが結界で守られる方法を遥陽さんが教えてくれたんやけど、それにするか?」


「そんなんあるんやったら先に言うてや。それにしようや!」


「僕はさすがにそれはって断ったんやけどな…」


「いやいや、二人とも守られるのが一番ええやん。その方法教えてや」


「そこまで言うんやったら教えるけど…。一緒に寝たらええ、やって」


「あっ…、そういう事…。それは…、いや、あかん。それはさすがにあかんな。うん。あんた、頑張って。お札ありがとうな!」


「さっきまでのはどこ行ったんや」


「だって、さすがにそれはさぁ…」


「わかってるって。僕も断ったて言うたやろ」


 香織はドギマギしていたが、すぐに真剣な顔に戻り僕の瞳を真っ直ぐ見つめる。


「あんたに何かあったら私のせいになるからな。絶対、無茶したらあかんで。約束やで。明日の朝もそっちで朝食摂るからな。絶対、無事でいる事、約束!」


「わかってる。いつも通り無茶はせん。明日も同じメニュー用意しといたらええか?」


「うん。お願い」


 香織は満面の笑みを向けた後、後ろを振り返った。僕は札の確認を終えると「また明日」と言い自宅へと戻る。

 香織は自宅の仏壇に手を合わせ僕の無事を祈った。


 ◇


 その夜、僕は遥陽のアドバイス通り準備を進める。両手両足首に朱い札をセット。白い札と御守りを肌身離さないよう身につける。念の為にホルスターの底にも白い札を一枚ずつ忍ばせた。

 この白い札は母が寝る前に渡してくれたものだ。いつも、必要なタイミングで準備されているのが不思議でならない。


「さて、準備は万端。今の僕にこれ以上の事は出来ん。あとは、なるようになるだけや」


 僕はそう思い照明を豆電球にしベッドに横になる。遥陽とのハードトレーニングのせいか、僕の意識は沼に沈み込むかのようにどっぷりと夢の中に沈んでいった。


 疲れ果て深い眠りについたはずの僕の意識は徐々に覚醒していく。僕の意識がはっきりすると、そこは見覚えのある場所だった。

 辺り一面360度見渡す限り「真っ白な世界」。上下左右斜めなど何もないように見えるが、何故か僕は平面を捉えて真っ直ぐ地面に立つ。

 それが地面なのか天井なのか、はたまた壁なのかは正直わからない。しかし、僕の感覚では垂直に立っている。


「また、ここか。ここに来たってことはナニカが来よるってことや。しゃーない、待ってたろ」


 僕は地面に座りこの世界への新たな来訪者を待つ。「夢でこの世界に来たら必ずナニカがやって来る」、それは幼少の頃からの決まりだった。

 ただただ、ぼーっと光の世界を眺めて来訪者を待ち続ける僕。

 どれくらいの時間そうしていたかはわからない。そもそも、夢の中なので時間の概念もよくわからないのだが。

 いつしか、眺める僕の視線の先、光の世界の端がじわじわと黒く染まり始まる。

 その黒はどんどん広がり光の世界は闇に染まっていく。その闇の中に()()はいた。

 ズルズルと長い髪を後ろに引き摺りながら歩くオンナ。その長い髪は正面にも垂れていて顔は見えない。ジャージを着ている。ジャージはところどころ裂けていたり、泥で汚れており、靴は片方履いていない。


「やっぱりか…。何度体験してもこれは慣れへんな」


 闇と共に光の世界を侵食してくるオンナ。ゆっくりとした足取りで少しずつ近づいてくる。

 オンナが5メートル程の距離まで近づいて来たとき、僕はゆっくりと重い腰をあげた。

 僕は真っ直ぐ立ちオンナの顔を見る。相変わらず、長い髪で顔は見えない。

 どうしたものか。いつものことだが夢の中では札がない。ここでは劣勢にしかなったことがないのだ。

 だが、経験値はいっぱい溜まっている。毎回無事だから僕はまだ生きているのだ。


「お前、散々好き勝手やってくれたな。山田、髙橋、石川、草野。香織にまで手ェ出そうとしよってからに。良え加減にせぇよ!」


 僕は語気を荒げてオンナに向かって叫ぶ。しかし、オンナはどこ吹く風、微動だにしない。

 僕にとってはそれも想定の範囲内。続け様に叫ぶ。


「で、次は僕んとこに来たわけか。考えが甘いで、僕はそんな簡単にやられたりせん。ケリつけたるわ。まずは、さっさとこの世界から出ていけ。ここは僕の世界や。さっさと失せんかい、ボケ!」


 僕の罵倒を聞いたオンナは一歩前に出ると僕を掴もうと手を伸ばした。

 しかし、その瞬間僕の腕から眩い光が溢れ出し世界を覆う。眩しさに目を瞑り開くと現実世界に意識が戻って来ていた。 

 ベッドから少し離れたところに()()()()()が床に這いつくばり、僕の方に手を伸ばし震えている。僕はベッドから起き上がると床に立ち、オンナを上から見下ろす。


「さぁ、さっさと失せろ。お前では僕をやれん。消えろ、帰れ、失せろ。失せろって言うてるやろがぃ、このボケが!」


 僕の怒声に怯むことなく床を這いながら前進を試みるオンナに僕は朱い札を一枚取り出し構える。すると、それを見たオンナの動きがピタッと止まった。あの時の事を思い出したのだろうか?

 その後、暫く睨み合いを続けていたがオンナは突然何かに怯えはじめた。

 彼女の視線は僕の後方に向いている気がする。しかし、僕には後ろを振り返ってそれを確認する余裕はない。

 僕が一歩前へ踏み出すと、彼女は闇の中にスッと溶けるように消えていった。


「はぁー、よかったぁ…」


 僕は安堵と共にドカッとベッドに腰をおろす。気づけば脚がガクガクと震えている。これだけは何度体験しても中々慣れない。どうしたって、怖いものは怖いのだ。

 落ち着いた僕は左腕のホルスターが白色に淡く光っているのに気づく。これが僕を守ってくれたのだ。

 ホルスターを開けて白い札を取り出しベッドの上に置く。僕はその淡く光る札と近くにいるであろうナニカに手を合わせ「ありがとう」と言った。

 すると「トントントントントン」という何かが軽快に階段を駆け降りる音が聞こえた気がした。


 ◇


「おはよーございまーす!」


 元気な声と共に開かれるリビングの扉。幼馴染の美少女は昨日に続き今日もラフな姿で登場する。弾む足取りがその機嫌の良さを窺わせる。

 彼女はリビングを通り抜けダイニングキッチンのカウンター越しに顔を覗かせる。


「おはよー。約束守ってくれたんやな」


「おはよー。当たり前やん。な、大丈夫やったやろ?」

 

「うん。まぁ、信じてたけどな。私の朝食作るっていう大事な仕事があるもんな」


「そっちかい!」


「ははは、冗談や。無事でよかったわ。で、何もなかったんか?」


「いや、あったのはあったんや。もう朝食できあがるで食べたら話すわ」


 僕はそう言うと背後の棚からお皿を取り出し、昨日と同じように料理を盛り付ける。香織も冷蔵庫から牛乳、マーガリンを取り出すとコップと共にテーブルへと運び、戻ってくるとサラダを持って再びテーブルに向かう。

 彼女がテーブルのセッティングをしてくれている所に、僕がパンの入ったカゴと料理をのせた皿を持って到着する。

 いつも通りの二人の朝食風景。二人はテレビを観ながら他愛もない会話をしながら朝食を楽しむ。

 僕と香織は朝食を食べ終えテーブルの上を片付けた後、再び椅子に座り直した。

 隣に座る香織は両肘をテーブルにつき手のひらに自分の顔を乗せて僕を見る。


「それでは、話を聞かせてもらいましょうか?」

 

「おう、話すけど。なんなんその体制?」


「え、なんとなく」


 香織の無駄に可愛い仕草に一瞬頭が真っ白になる。美少女の破壊力は伊達じゃない…。

 僕は気を取り直し頭の中で昨晩の話をまとめ直し、彼女に順を追って説明した。


「なぁ、髪の毛って背中まである長さって話じゃなかったっけ。髪引き摺るって、めちゃ長くなってない?」


「せやなぁ。でも、何かしらあって伸びたんやろ。それは僕にもようわからん。それだけ、憎悪を募らせとるんかもしれんし、山田たちを襲った結果、何かがあったんかもしれん」


「まぁ、私らにはわからんよな」


「うん。でも、何とか身を守れるてことがわかっただけでも良かったで」


「確かにね。このまま、諦めてくれたらええんやけど」


「ホンマに。でも…」


「そんな上手くはいかん?」


 僕は香織の問いに「たぶんな…」と呟いた。

 

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