表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

元勇者と遭遇

 街の掲示板には、いつもより多くの人だかりができていた。


「おい、見ろよ! 今度来るっていう真の勇者様、マジで桁違いらしいぜ」


「王国からの正式発表だろ? 今回は本物ってわけだ」


 そんなざわつきの中、俺たち「ノー・ネーム」は次の依頼を探していた。


「なんだかな……俺って、召喚された時点で、勇者だったはずなんだけどな」


 苦笑する俺に、ランスが肩をすくめる。


「世の中、肩書きより結果だ。お前は使えないと判断された。それだけだろ」


「それを否定できねぇのが、またつらいよな……」


 と、そのとき。


 街道の向こうから、騎士団を従えた一団がゆっくりと進んできた。


 中央にいるのは、金髪碧眼の青年。端整な顔立ちと、見栄えのいい白銀の鎧。いかにも、絵に描いたような勇者様だった。


「あれが……今回の本物の勇者か」


 ミリアが吐き捨てるように言う。


「知ってるのか?」


「いや……ただ、嫌な感じがするだけよ」


 人混みを割って進む勇者一行。その中心の青年と、俺の視線が一瞬、交差した。


 目が合った瞬間、彼の眉が僅かに動いた。


「……なんだ、この胸騒ぎは」


====


 その晩、珍しくカリナが静かだった。


「カリナ?」


 声をかけると、彼女は小さく息を吐いて言った。


「あの勇者の名は、ベルン=ゲイル。王国直属の第一召喚隊に選ばれた、正真正銘の勇者よ」


 彼女の口調は、どこか棘を含んでいた。


「カリナ、知り合いか?」


「昔ね。あいつの護衛任務についたことがある」


「じゃあ、どんな奴なんだ? 見た感じ、ちゃんとしてたけど」


「外見だけね。中身は――」


 そこまで言って、彼女は黙った。


 その沈黙が何より多くを語っていた。


====


 翌日。


 市場の裏道を歩いていた俺たちは、突然、数人の兵に取り囲まれた。


「おい、そこの連中。貴様ら、魔族と接触したという噂があるな?」


 隊長格らしい男が、睨みつけてくる。


「なんのことだ?」


 ランスが応じると、兵士の一人が笑った。


「貴様らのような、落ちこぼれ冒険者には、国の秩序は守れん。異端者として連行する!」


 その言葉に、ミリアの眉が跳ね上がる。


「ふざけないで……!」


「やめろ!」


 カリナが声を荒げる。その手には、すでに剣が握られていた。


 睨み合いが始まる――その時だった。


「やめたまえ、騎士たち。彼らは、私の知る者だ」


 人混みを割って現れたのは、ベルン=ゲイルだった。


 完璧な笑顔を浮かべながら、俺たちに近づいてくる。


「君が……義夫だな? 召喚ミスの。はは、よく生きていたものだ」


 彼の言葉は柔らかい。しかし、確実に見下しと嘲笑を含んでいた。


 俺はその態度に、自然と眉をひそめた。


「まあまあ、せっかくだ。少し腕試しでもしないか?」


 彼の提案に、俺は静かに頷いた。


「上等だ。俺は本物じゃないかもしれないけど、やってみなきゃわからないだろ?」


 こうして、予想外の形で、義夫と元勇者ベルンの因縁が始まる――


 町外れの訓練場に集まった人々は、まるで祭りのように盛り上がっていた。


「勇者ベルン様と、名もなき冒険者の模擬戦だとよ!」


「どうせ瞬殺だろ。あんなの、見た目からして違うしな」


 俺は、擦り切れた革の鎧と、使い古した剣――「無銘の剣」のくすんだ形態を握って、相手の前に立つ。


 一方、ベルンは光り輝く剣と王国製の最新防具。なんというか、完全に「舞台が整ってます」という様子だった。


「さて……私のことはもちろん知っているだろう?」


「いや? 初対面だけど?」


 俺が真顔で返すと、ベルンの口角が僅かに引きつった。


「……ふむ。まあいい。名も知らぬ者が、私と剣を交える栄誉を受けるのだから、せめて全力で来たまえ」


「了解。俺、いつも全力だから安心して」


 ギャラリーのざわめきを背に、試合開始の鐘が鳴った。



 先に動いたのはベルンだった。剣閃が風を裂き、まっすぐ俺を貫こうとする。


(はや……! でも、重いな)


 俺は剣を交差して受け流す。細身の俺の剣が、火花を散らしながらベルンの一撃を逸らした。


 すぐに足を引き、間合いを取る。


「ほう、反応は悪くないな」


「だろ? よく言われるんだよ、見た目の割にやるなって」


 次の瞬間、俺は一気に距離を詰めた。真正面から斬り込む。


 ベルンは動じずに迎え撃つ――が、俺の剣は、彼の剣をかすめた瞬間、手元で変化した。


「っ……武器が……変形しただと!?」


 「無銘の剣」は義夫の意思に応じて形状を変える武器。その性質を知る者はまだ少ない。


 不意を突かれたベルンの肩に一撃が入る。


 歓声と驚愕が入り混じる中、彼の表情が曇る。


「きみ……まさか、ただの失敗作ではないな?」


「俺自身も、何者かよくわかんねぇ。でも、わからないなら――やってみるしかねぇだろ?」


 その言葉に、ベルンの顔が歪む。勝ち気な笑みは消え、嫉妬とも怒りともつかない感情が露わになっていた。


「ならば教えてやる。本物というものが、どういう存在かを!」


 剣に光が宿る。彼の必殺技が来る。だが――


「ミリア、今!」


「わかってる!」


 観客の一部に紛れていたミリアが、こっそり結界を張った。


 ベルンの魔力爆発が拡がる寸前、俺は足元の地面を蹴り、真正面から突撃した。


 爆風の中を突っ切って、渾身の一撃を叩き込む――


 ベルンの剣が弾かれ、観客がどよめく。


 ……結果、勝負は「引き分け」という形で終わった。



 その後、町では「無名の冒険者が勇者と互角に渡り合った」という噂が流れ始めた。


「おい、あれ……『ノー・ネーム』ってやつらだよな?」


「なにものなんだ、あの義夫ってやつ……」


 俺は宿に戻り、いつも通りの食事を囲んでいた。


「お前、本当に引き分け狙いだったのか?」


 ランスがニヤつきながら聞いてくる。


「狙い? いや、全力で勝ちにいった。結果があれだっただけ」


「嘘をつけ。あの最後の一撃、止めてただろ」


「……ちょっとだけな」


 俺は肩をすくめた。


「だって、勝っても負けても、あいつのプライド粉砕するだけだろ?」


「……馬鹿だけど、妙に鋭いのよね、あんた」


 ミリアが苦笑し、カリナも静かに頷いた。


「一泡吹かせたわね。あのベルンに」


 俺は笑って返す。


「ま、やってみりゃ、案外なんとかなるって。そういうことだろ?」


 こうして俺たち『ノー・ネーム』は、少しずつ――でも確実に、名を広げていくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ