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未来を変えるのは、やってみた奴だけだ

 戦火は止んだ。


 王国軍も、魔王軍も、それぞれの兵が剣を引き、互いに距離を取っていた。


 だがそれは、和解ではない。ただの「静止」だ。


「……次の一手で、この世界の形が決まる」


 ザイヴァ=ノル=アークは静かに言った。


「なら、見せてやるよ。俺のやり方を」


 義夫は無銘の剣を構えた。だが、それは敵に向けた構えではない。


 彼が立っていたのは、戦場の中心――王と魔王、両者を見渡す場所。


 その場に、エドワルド王が現れた。


 厳格な顔に、怒りと焦燥が入り混じっている。


「貴様……人間を裏切るか」


「いや。俺は誰の味方でもない」


 義夫はまっすぐに言い返した。


「人間の王様にも、魔王にも、俺は従わない。俺は、やってみるだけだ」


「そのやってみるで、どれだけの命が消えたと思っている! 理想論で世界は動かん!」


「だから行動するんだよ」


 義夫の足元から、小さな魔法陣が広がる。


 それは、かつて魔王ザイヴァが、封印に使った因果操作の魔法。


 だが今、それは「再編」の力として使われようとしていた。


 義夫が右手を突き出す。左手には剣。


「俺の中には、魔族の力も、人間の力もある。境界因子ってのが、それらしい」


 微かに、周囲が震える。


「その力を使って、ここに新しい形を作る。俺たちの第三の陣営だ」


 瞬間、彼の背後に――ノー・ネームの仲間たちが並んだ。


 カリナが盾を掲げ、ミリアが呪文を唱え、ランスが笑みを浮かべた。


「やっぱりこうなると思ってたよ。最後はお前が一番トンデモだ」


 義夫が笑う。


「だろ? バカで無鉄砲で、理想主義者で――でも、それが俺だ」


 魔王軍からも、静かに一人の姿が現れる。


 堕天族エルシア=ミュレア。


 中立の立場を貫いていた彼女が、義夫の方へ一歩踏み出す。


「ならば、見届けよう。君の意志がどこまで届くかを」


 そして――空が割れた。


 空間の裂け目から、異世界の光が差し込む。


 そこは、義夫がかつていた元の世界への帰還口。


「最後の選択の時が来たようだな」


 ザイヴァが言う。


「この世界に残るか。全てを捨てて元に帰るか」


 義夫は、空を見上げる。


 懐かしい空、電線、街の喧騒……全てがそこにある。


 けれど。


「まだ、こっちでやることがあるんだよ」


 そして、義夫は歩き出した。

 

 自分自身の手で、この世界の未来を変えるために。


「ここからは……俺のルールでいく」


 佐藤義夫の声が、戦場に響く。


 ザイヴァ=ノル=アークも、エドワルド王も、その言葉に沈黙した。


「力ずくの平和じゃ、誰も納得しない。誰かが頭を下げて、誰かが折れても、それは本当の共存じゃない」


 義夫は剣を地面に突き刺す。


「俺は……お互いが、無理やりじゃない形で、一緒にいられる場所を作る。そのために、まずは止める!」


 その瞬間、剣が光を放ち、魔法と技術の融合による因果断絶の波動が走った。


 それは、戦場全体に届き、王国軍の剣も、魔王軍の魔法も、すべての力を「一時的に無効化」する異常な現象。


「力で黙らせるんじゃない。まず、声を聞け」


 剣を手放した義夫は、素手で前に進み出る。


 敵も味方も、誰もが彼に刃を向けない。


 向けられなかった。


「どうしてあんたたちは戦ってる? 本当に必要なのか? ……言葉で話すってのは、そんなに難しいことか?」


 エドワルド王は震えていた。


 だが、義夫の目を見て、剣を落とす。


 続いて、魔王ザイヴァも魔力を収めた。


「……まさか、お前のような少年に心を動かされる日が来ようとはな」


 ザイヴァが笑う。その瞳には、もはや敵意はなかった。


「これは譲歩でも敗北でもない。新しい価値だ――それを見せたのは、君だ、佐藤義夫」


 そして、誰からともなく、剣が地面に置かれ始めた。


 人間も魔族も、少しずつ、その輪に加わっていく。


 カリナがそっと義夫の肩に手を置く。


「……やっぱり、信じてよかった」


 ミリアは微笑む。冷たかった瞳に、温もりが灯っていた。


 ランスは、肩をすくめて笑った。


「まさか、こんな風に終わるとはな。お前、バカ通り越して奇跡だよ」


 義夫は、最後に振り返る。


 空に開いた帰還の門が、まだ残っていた。


「戻ることもできる……でもさ」


 彼は微笑む。


「こっちにも、帰る場所があるんだよ」


 ――宿屋の娘、クレアの笑顔が脳裏をよぎる。


 ――仲間たちと囲んだ焚き火。


 ――剣を交えた日々、信じてくれた言葉、ぶつかり合って得た絆。


「だから俺は、残る。この世界で、やってみる」


 空の門が、音もなく閉じる。


 佐藤義夫は、この世界の人間として、仲間とともに、新しい未来へ踏み出した。


 ――これは、勇者でも魔王でもない、境界の存在が選んだ、もうひとつの英雄譚。


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