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8 伯爵夫人として

 寝室に用意されてあったよく冷えたハーブティーは香りがよく、酸味と甘味がリリアージュの好みに合っていた。

「美味しい」

 早朝から結婚式の準備や、披露宴など人の多い所での振る舞いに、とても疲れていたリリアージュは、ソファーでうとうとしてしまいうっかり眠ってしまった。


 エクウスが寝室に入って来たのも気づかずにいた。

「リリアージュ、リリアージュ」

 エクウスは優しく新妻の名前を呼んだが、彼女はすっかり寝入っているようだった。

「まあ、仕方がないか···」

 エクアドルは独り言を言って、そっとリリアージュを抱き抱えベットに寝かせた。

 エクウスはしばらくリリアージュの寝顔を眺めていたが、隣で眠ることにした。


 リリアージュが目を覚ましたのは明け方で、ゆっくりと目を開けると朝日がうっすらと差していた。

「えっ」

 見慣れない天井と隣で寝ているエクウスに驚いて声を上げてしまった。

 エクウスはリリアージュの声で目を覚ました。


「リリアージュ、おはよう」

「あ、えっと、おはようございます。申し訳ございません。わたくし寝てしまっていたのですね。ああ···何て言うことを···」

「疲れていたんだね」

 エクウスは笑いながら、リリアージュにそっとキスをした。


「まだ、眠いだろう?もう少し眠るかい?」

「いえ、たくさん寝させていただきました」

「そうかい、じゃあ」

 リリアージュの答えを待ったかのように、エクウスは再び彼女にキスをして、ナイトドレスの紐を解いた。

 エクウスとリリアージュは結ばれた。


 リリアージュは初めての経験で、恥ずかしさと驚き、行為の疲れでまた寝入ってしまった。

「無理をさせてしまっただろうか···」

 エクウスはリリアージュの頭を撫でながら、呟いていた。


 リリアージュが再び目を覚ましたのはお昼前だった。

 隣にエクウスはいなかった。

「妻としての務めは果たせたのかしら?」

 リリアージュは呟いた後、明け方の行為を思いだし赤面して、両手で頬を覆っていた。


 扉の開く音が聞こえ、エクウスが寝室に戻って来た。

「リリアージュ、起きたのかい。無理をさせてしまったようだね」

「だ、大丈夫です。わたくしちゃんと出来ましたでしょうか?」

「え、あ、ああ。大丈夫だ、よかったよ」

 リリアージュはエクウスの言葉を聞き、ほっとしたが、のぼせるように顔が赤くなってしまった。


「お腹が空いただろう?何か持ってこさせよう。それとも湯浴みにするかい?」

「先に湯浴みをお願いします」

 リリアージュは下を向いたままエクウスに答えていた。

 エクウスは真っ赤なリリアージュの頬にキスをした。


 エクウスはサイドテーブルの呼び鈴を鳴らし、リリアージュの湯浴みと食事の用意を指示すると、使用人たちと仕事の打ち合わせをするために執務室へ向かった。

 エクウスはニ週間の新婚休暇を取るために、経理担当の使用人と執事に、細かい引き継ぎをしていた。


 リリアージュは湯浴みを終え、昼食を食べると庭を散歩することにした。

 美しい庭は何度眺めても飽きることはなく、リリアージュにとって心から落ち着く場所であった。

 気を利かせた侍女は、四阿に蜂蜜入りの温かいハーブティーと紅茶のクッキーを用意してくれた。

「ありがとう。わたくし紅茶よりも、優しい香りのハーブティーの方が好きだわ」


「奥様にお気に入りいただいてよかったです」

 侍女は満面の笑みで答えていた。

 紅茶の茶葉が入ったクッキーはサクサクとしていて、甘すぎずバターの香りと紅茶の香りが口一杯に広がる。大きさもひとくちサイズで、ドレスにこぼれることもなくとても食べやすい。料理人たちの心遣いが嬉しかった。


 夕食はエクウスと一緒に取ることが出来た。

 リリアージュはエクウスに初夜の失態を改めて謝罪し、庭での散歩のことなどの話をしていた。

 夜になり、ベットで人と一緒に寝ることがまだ慣れていないリリアージュだったが、エクウスが隣にいると、とても心地がよく眠ることが出来た。


 3日後、シエルバ伯爵夫妻は、リリアージュの御披露目と新婚旅行を兼ねて、王都のタウンハウスに向けて出発することになった。

 王都では王宮で王様に謁見することになっている。

 リリアージュは伯爵家にマナー教師を招いて、礼儀作法などを改めて習い復習していた。


 王都への道のりは馬車で2日程かかる。

 今回は途中の街で宿を取り、視察を兼ねた観光をする予定なので、王都へは4日間の日程になっていた。


 リリアージュは実家のあるメディウム男爵領からほとんど出たことがなかったので、王都や他領に行くのも初めてと言っても過言ではなかった。

 他領の街並みはそれぞれ独特の繁栄をみせていた。

 今、泊まっている領は園芸が盛んな様子で、他国や他領からの商売人が仕入れのために訪れているらしく活気がある街だった。


 名前も知らないような美しい花や木々の苗を目の前にして、好奇心旺盛のリリアージュはすっかり魅了されていた。

 元々動植物に興味のあるリリアージュは目を輝かせ、一つ一つの店舗をゆっくりと眺めて歩いた。


「奥様。奥様のお気に召したものがあれば買い求めるようにと旦那様に命じられております」

「まあ、そうなの?わたくしは花の種や苗木が気になるの。旦那様にお願いしてもいいのかしら?」

 侍女はリリアージュの言葉に目を丸くした。

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