7 披露宴の後
時間はあっという間に過ぎ、お昼頃に始まった披露宴は盛り上がったまま夜になっていた。
食事も好評で、伯爵領の食材を豊富に使い、ピンチョスやタパスが中心で、手に取りやすく小分けで丁寧に盛り付けられていたので、歓談をしながらでも、手軽に食事が楽しめることが出来るように工夫してあった。
飲み物も給仕係の使用人たちが気を配り、果実水やワイン、シャンパンやウイスキー等途切れることがないようにホールを見回っていた。
美食家の招待客には、別室にいかなくてもいいように、テーブルを生花でパーテーション代わりにして囲い、本格的なコース料理を楽しんでもらっている。
会場の隅にパーテーションで仕切ったり、別室にいると披露宴の様子がわかりづらいので、生花を活けた花瓶や観葉植物の鉢植え等を上手く使いコース料理を楽しむ場所を確保していた。
披露宴に向けて使用人たちの担当を細かく設定することにより、彼等は混乱することもなくスムーズに仕事をこなせていた。
ホール係の中でも、コース料理の給仕、酒類係、果実水や水の係、料理の補充係、空いたお皿やグラス等を片付ける係等に分かれ、ホール担当の責任者を3人にして、全体を確認し指示を出していた。
使用人たちは給仕の仕事にやりがいを感じていた。
各々が思いついたことをやっていると、仕事が偏り必ず現場は混乱してしまう。
酒類担当の使用人は招待客の好みを把握し細やかな接待が出来ていた。
「君、気が利くじゃないか。私の好みを覚えていてくれるなんて、嬉しいね」
と、招待客の一人が使用人を褒めると、
「そうなのよ。果実水も新しい物に取りかえてくれて冷たいままだし、とても美味しいのよ」
お酒の飲めないご婦人たちにも好評だった。
料理の補充係は招待客の好みに合ったものを勧めていた。料理の一つ一つの説明が完璧であったために、アレルギーの対応や好き嫌いなどの提案が出来た。
「奥様、こちらのお料理は少し辛みが強いようですので、あちらのお料理をお持ちいたします」
「あなた、気が利くわね。そうなの、わたくし辛いものが苦手なのよ。どうしてわかったのかしら?」
「失礼をお許し下さい。先ほどお取りいただいたお料理を1口お召し上がりになった後、残りをそっと旦那さまにお渡ししていたので、辛いものが苦手ではないかと考えました。間違っていなくてよかったです」
「ありがとう。他の料理もあなたが選んでくださるかしら。そうね、わたくしの好みをあなたに教えるわ」
「光栄でございます」
披露宴会場は夜半前になっても、穏やかで和やかな雰囲気が続いていた。
貴族にとってパーティー会場の使用人や給仕などは空気のような存在で、人として扱いお礼や労いの言葉など、余計な言葉をかけることすらしないのが普通である。
件の紳士やご婦人のことが異例で、簡単に食べ物や酒類の好き嫌いなど、本当に信頼した人以外に教えることはない。
どこで誰が聞いているかもわからない夜会などでは、小さな噂話が真実の話になり、要らぬお節介や陰口、偏見に繋がることが多い。
自分たちの仕事振りを認められたホールの使用人たちや厨房担当者のみならず、他の使用人たちまでも自然と士気が上り、更に披露宴会場は和やかな雰囲気になっていた。
披露宴は真夜中を過ぎた頃から人がまばらになっていった。
招待客の多くは他の領地から来てもらっているので、披露宴会場と同じ別邸の中に宿泊の準備と部屋割りが既に整えられていた。
気分よく酔いつぶれている者、再会を名残惜しむ者などや親族たちがホールに残っているだけとなっていた。
エクウスとリリアージュは、ホールに残っている人たちや親族にお礼の挨拶を済ませ本邸に向かうことになった。
本邸に向かう為に馬車が用意されていたが、早朝からの結婚式の準備や披露宴の熱気にあてられ、興奮気味になっていたリリアージュは、エクウスにエスコートをお願いし、ゆっくり歩いて本邸に向かうことを切望していた。
本邸まで徒歩だと5分位だが、二人はとてもゆっくりした足取りで歩いていた。
「エクウス様、我儘を言ってしまって申し訳ございません」
「たまには二人で散歩をするのもよいものだね。今度は明るい時間に庭園を散歩しよう」
「ありがとうございます。楽しみにしております。今日は星がとても綺麗ですね」
「ああ、美しい夜だ」
本邸に着くと使用人たちは既に整列しており挨拶をしてくれた。
「お帰りなさいませ。ご主人様、奥様」
すると侍女たちは待ち構えたように、エクウスからリリアージュをさらうように、夫婦の部屋に連れていった。
「奥様、お疲れでしょうが湯浴みの準備が整っております」
「え、ええ」
リリアージュは曖昧な言葉しか出せず、侍女にされるがままになっていた。
鮮やかな手付きでドレスを脱がされ、あっという間に下着姿になり浴槽に連れていかれ、裸にされたあと湯船に浸かった。
髪や身体を丁寧に洗われ香油を塗られて、シルクのナイトドレスに着替えさせられた。
「奥様、お綺麗です。旦那さまが来られるまでこちらでお待ちくださいませ」
リリアージュの部屋の内側の扉は夫婦の寝室になっていた。テーブルには冷たいハーブティーが用意してあったので、湯浴みの後の喉の渇きを感じていたリリアージュはソファーに座り喉を潤した。




