エピローグ
リリアージュと結婚してから三年が過ぎようとしていた。アイビス商会と並んでミュゲ商会はこの国を代表する商会になっていた。近隣国からの知名度も高い。貴族の顧客も増え従業員も多く抱え莫大な資産を築いていた。
春とはいえ朝はまだ少し肌寒い日もあるが、昼下がりは外にいる方が心地よい天気の日が数日続いている。
リリアージュは侍女のエミリとともに、昼食後の散歩の小休止に四阿でお茶を楽しんでいた。
四阿に向かって歩いてくるニアンの姿を見つけてリリアージュは立ち上がろうとしていた。
「あなた、お出迎えもせずにごめんなさい」
ニアンは右手でリリアージュが立ち上がるのを制した。
「そのまま座ってて。仕事が予定よりも早く終わったんだ。今回はさすがに疲れたよ。リリィに早く会いたかった」
五日間もリリィと離れるなんてあり得ない···ニアンはぼそぼそと独りごちる。
「無理はしないで下さいね」
「ああ、わかってるよ。隣に座ってもいい?」
「ええ、もちろん」
「じゃあ疲れたので休ませて」
「はい」
ニアンはリリアージュの頬に口づけた後、彼女の膝にそっと頭を乗せた。
侍女のエミリは黙ったまま頭を下げ、リリアージュにブランケットをそっと渡すと気配を消すようにして屋敷に戻っていった。
リリアージュはエミリから受け取ったブランケットをニアンの体に優しく掛けた。
ニアンとリリアージュは二人きりだ。
リリアージュはニアンの頭や体を優しく撫でていた。
「猫みたいね。あなたの柔らかい髪が大好きよ」
「もしも···僕が突然猫になったらどうする?」
「それは···嫌だわ。だってあなたとお話できないでしょ。あなたが猫なら私も猫になりたいわ」
リリアージュはクスクスと笑っていた。
するとニアンの頭にコツっと何かが触れた。
「お腹の子どももみんな一緒がいいと言っているわよ」
「···そうだね」
お腹の子どもが順調に育てば後二ヶ月程でニアンは父親になる。もちろんリリアージュの出産に合わせて長期休暇を取るつもりでいる。
ニアンは生まれてくる我が子にでさえ、居心地のいいリリアージュの膝を譲りたくないと考えている。ニアンは彼女に対する強い独占欲を気付かれまいと適当な相槌を打っていた。
猫の身体のアビーの時はただ黙って見ていることしか出来なかった僕が、彼女と同じ人間のニアンとして生まれ変わって、リリアージュは僕が幸せにすると強く願ったが、それはどうやら間違いのようで、孤独だった僕は誰にも邪魔されることなく彼女のすぐ側で、自分が幸せになりたかったのかもしれない。
仕事を早めに終らせリリアージュに会いたい一心で無理をして馬を飛ばし帰宅した。
長期休暇を取るための引き継ぎや雑務などで忙しく体はひどく疲れていた。
庭の優しい花の香りと柔らかく暖かい日が差し風が心地よく吹いている。リリアージュの膝の温もりと彼女といる幸せを感じながら、ニアンは静かに目を閉じた。
fin




