46 結婚式
シエルバ伯爵邸から伯爵様との話を終えて出てきたヴォルガに使用人たちのことを話すと、彼は馬車に乗り直ぐ伯爵様宛に手紙をしたため、邸の門番にその手紙と数枚の銀貨を渡していた。
「使用人たちが暴力を振るわれ、急に解雇されたのは伯爵様の指示ではないはずだ。誰かはわからないが、伯爵家にとって良くないことが秘密裏に起こっている。解雇された使用人たちは私たちが一旦保護しよう」
ヴォルガはニアンにそう言うと解雇された使用人たちとモルラトの街に向かった。使用人たちの家族には、自宅で待機するように知らせを出していた。
数日後モルラトのアイビス商会宛にシエルバ伯爵様から手紙が届いた。
手紙を読んだヴォルガによると、詳しい内容までは伏せてあったが、シエルバ伯爵家に仕えていた執事長、侍女長、料理長を始めとする数人を解雇したようだった。
ヴォルガたちが保護していた使用人たちは、伯爵様が預かり知らぬことのようで、上司である彼らが内密で不当に解雇していたらしい。
シエルバ伯爵様の計らいで、保護している使用人たちはそのままアイビス商会で働くか、シエルバ伯爵邸に戻って再び働いても良いということだった。その後不当に解雇された者たちに、シエルバ伯爵様から各々へ、退職金や紹介状がアイビス商会宛に送られてきた。
それと同時にヴォルガにも大金と丁寧な御礼状が送られてきた。
ヴォルガ宛のお礼金などはシエルバ伯爵様からの口止め料だと思われた。
ヴォルガはシエルバ伯爵様の意向を汲んで黙って受けとることにした。
不当解雇された使用人の中には慣れ親しんだ職場に戻りたいと希望し、数人の使用人たちはシエルバ伯爵邸に帰って行ったが、ジャンと下女はニアンの新居で働いてくれると言ってくれた。
ニアンは秘かにジャンの作る料理に期待していた。
リリアージュが新居の内装や家具の選別に奮闘した甲斐があり、工事は滞りなく進み屋敷の完成も間近だった。
リリアージュはニアンに貰った漢方薬のお茶に期待以上の効能があり、不快だった月のものや朝の目覚めが改善され、以前よりも活発に行動出来るようになっていた。
今ではメディウム男爵家の家族や使用人たちも漢方薬を愛飲している。
シエルバ伯爵家から不当解雇された使用人たちを含め、新居に仕えてくれる人員も揃った。
暖かい春の訪れが近づき、ニアンとリリアージュの結婚式も間近に迫り、お祝いムードのメディウム男爵家では笑いが絶えなかった。
新居が完成し、リリアージュはニアンとの約束どおり使用人たちとともに、一足先に屋敷に移り住むことになった。
リリアージュから新居の完成と彼女の転居が完了した知らせを受け取ったニアンは、メディウム男爵領に向かった。
「やはり君に任せてよかったよ。素敵な屋敷になったね。庭も広くて素敵だ、想像以上だよ」
新居に着くとニアンはリリアージュの手を取って、彼女がやり遂げてくれた妻の初仕事に感謝をしていた。
「ああ、僕も早く移り住みたいが····辞めておこう·····結婚式まで我慢する自信がない」
リリアージュは真っ赤な顔を両手で隠し俯いた。
「リリィ。···可愛すぎるよ。これ位は許してね」
ニアンはそう言うと、リリアージュを抱きしめた後、額にそっとキスをした。
「そうそう、忘れるところだった」
ニアンは荷馬車の積み荷の中の花の種や木の苗などを指差していた。
「父さんの姉の旦那さん、僕からいうと伯父さんなんだけど花屋を営んでいてね、半年に一回は他国の珍しい花や木などの買いつけに行くんだ。よかったらこれを庭に植えてみてよ」
「まあ、どんな花が咲くのか楽しみね。薬草もあるのね。イースと一緒に植えてみるわ」
リリアージュは侍女エミリの夫イースと一緒に庭仕事にも精を出していた。
「それでね。庭を見に伯父さんが近々ここを訪ねて来てくれるみたいだよ」
「大歓迎よ。たくさんお話が出来そうで楽しみだわ」
男ばかりの兄弟で育ち、授かった子どもも息子ばかりの義伯父は、庭仕事が好きなリリアージュのことを聞いて義甥の嫁なのに娘が出来たと大喜びしていた。
♢♢♢
ニアンはリリアージュの弟ルーカスと一緒に、水害を始め災害の多いメディウム男爵領を、地質学の権威であるヴォルガの弟に視察してもらい、護岸工事を始めとする領地の整備に着手し、徐々に男爵領を災害に強い肥沃な土地に変えていった。
後に新居の庭を始めとして、メディウム男爵領が国一番の薬草の産地となり、シエルバ伯爵家との業務提携で更に裕福な領地になった。そしてリリアージュが薬草学博士となることは、まだまだ先の話になる。
♢♢♢
「それでねリリィ。僕たちの新しい商会の名前なんだけど、君の好きな鈴蘭に因んだ名前にしようと思うんだ。鈴蘭を外国語でLily of the valleyやMuguetとか言うんだけど、他の奴らにリリィと言わせたくないから、ミュゲ商会にしようと思う」
「ええ、ミュゲ商会で賛成よ。素敵な名前ね」
「君の育てる薬草も販売する予定なんだ。父たちとは少し違う、僕たちだけの商会を作ろうね」
二人の将来の夢の話は尽きることがなかった。
ニアンはリリアージュのことを最優先し、彼女が日々幸せに暮らすことだけを考えている。
ニアンとリリアージュの結婚式はメディウム男爵領の教会で行われた。
身内だけの小さな式だったが、親戚や招待客、使用人たちも一緒になり大はしゃぎの心暖まる結婚式になった。




