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39 リリアージュの庭

 ディーノは顔色が良くなってきたエクウスに、ゆっくりと自分の考えていることを話し始めた。


「エクウス様、奥様の功績はそのままメディウム男爵家の物といたしませんか?そして貴重な種類の薬草を男爵家で育てていただくのです。シエルバ伯爵領に近い男爵領なら薬草の栽培に成功する可能性が高いと思います。もちろんメディウム男爵家には専門家や土地の開発費などをシエルバ伯爵家で全面的に支援しましょう」

「·····」


「薬草の栽培をメディウム男爵様にお委せすれば、男爵領の経済が活性化されます。水害の多い男爵領に専門家を派遣し領地を整備しましょう。薬草の大半をメディウム男爵家が販売し、一部の薬草をシエルバ伯爵家が適正価格よりも少し安い値段で買い取ります。そうすることによって男爵家は伯爵家に臆することがなくなるでしょう。販売経路や価格なども私たちの信頼出来る商人たちを紹介することにしましょう」


 エクウスは頷きながらディーノの話を黙って聞いていた。


 多少の修正があるもののディーノの提案を概ね受け入れ、メディウム男爵とより具体的な事業方針を決めるために、近々シエルバ伯爵家に来訪してもらうことにした。

 エクウスはメディウム男爵との顔を合わせに正直、躊躇っていた。伯爵家への来訪に断りを入れられるかもしれない。

 しかし、エクウスはリリアージュの功績と才能を直接父親のメディウム男爵に伝えたかった。

 彼女の育てた薬草の権利を渡すことで、災害で苦しんできた男爵領に富みと栄誉がもたらされることを強く望んでいた。


 エクウスは念のため研究を終えて帰る学者たちに、薬草の栽培と販売の権利を確認をしていた。

 薬草の栽培に協力することを条件として、学者たちに薬草の一部の持ち帰りを認め、各々の研究に使用することを許可していた。


 薬草の販売経路や価格についてはアイビス商会のヴォルガに一任することを予定することにし、メディウム男爵との話し合いの場に同席してもらうことにした。


 行商で居所を転々としているヴォルガに、妻の訃報と薬草の取り扱いの件を手紙に出すと、打ち合わせの出席と日程の要望、リリアージュへのお悔やみの言葉とともに清楚で美しい花束が送られてきた。

 メディウム男爵やヴォルガとの打ち合わせは二週間後に行われることになった。


 シエルバ伯爵家の応接室ではエクウス、ディーノ、ヴォルガ、メディウム男爵の四人で話し合いが行われた。


 メディウム男爵はリリアージュの功績に涙し、娘に対するエクウスの想いを受け取り薬草の栽培を快諾してくれた。

 ヴォルガは薬草のブランド化と品種改良や品質の向上化、将来的に薬草学の研究所や学院の設立などの提案をしてくれた。


 数年後メディウム男爵領は国で一番の薬草の産地となった。男爵領には薬草学の学院や医療施設なども併設され、災害も緩和されたことにより潤沢な富を得ることが出来るようになった。シエルバ伯爵家とメディウム男爵家は後代に渡り、家格に関係なく互いを尊重し合う懇意な間柄となった。


 リリアージュのノートは論文として纏められ薬草学博士としての称号を与えられた。

 リリアージュ・シエルバ伯爵夫人は薬草学の権威とし後世に名前を残すことになった。


 次期シエルバ伯爵候補としてエクウスの母親の実家であるフェミナ伯爵家から、現フェミナ伯爵の次男であるフェルナンと、シエルバ伯爵家の遠縁にあたるハルビラ子爵家の嫡男ルミナスが選ばれ、二人は同時にシエルバ伯爵家に養子として迎えられた。


 次期伯爵候補の二人に面識はなかったが、彼らは数日で打ち解けたようだった。

 フェルナンとルミナスは各々王都の学園に通っていた16才だった。貴族の子どもたちが通う王都の学園は数校あるので、彼らは同い年だが別々の学園に通っていた。


 フェルナンとルミナスは各々の学園で成績優秀かつシエルバ伯爵家次期当主の打診があり、特別に早期卒業試験を受けさせ合格している。彼らは生活態度もよくマナーなども合格点である。


「君たちのどちらかがシエルバ伯爵家当主となり領を継いでもらうことになる。しかし君たちをの優劣を決めるのではない。既に二人とも私の息子だ。当主は一人に決めなければならないが、出来れば二人で伯爵家を支えて欲しい。聞いておきたいことはあるか?」


 エクウスはディーノを伴いフェルナンとルミナスを執務室呼び話をしていた。


「はい。私はフェルナン様とは半年程年上になりますが子爵家の出身です。次期伯爵様は爵位の高いフェルナン様ではないのでしょうか?」

「爵位などは関係ない。今は元子爵家で私の息子だろ。なぁ、ディーノ」

 遠慮がちに手を上げて話を始めるルミナスに、エクウスは微笑みながらディーノに目配せをした。


「ええ、そうですね。私は元グラス伯爵家の者でしたが、今はシエルバ伯爵家の執事を担っております」


「グ、グラス伯爵家ですか····もしかして、ご次男のディーノ様·····」

 ルミナスは口元に右手をあて執事のディーノの言葉に仰天していた。

 隣にいたフェルナンも瞠目し唖然としていた。


「私はシエルバ伯爵家でのお仕事に誇りを持っております。執事という立場ですが、エクウス様と一緒にお仕事をすることが出来て毎日が充実しております。それに妻と一緒にいられる職····」

「はぁー、わかった、わかった···」

 エクウスは咳払いをした後ディーノの言葉を遮り嘆息しながら呟いた。


「とにかく、まずは領地や伯爵家の仕事について少しずつ覚えて欲しい。しばらくはディーノに就いて学んで欲しい」

 顔を綻ばせているディーノを不思議に思いながら、フェルナンとルミナスは執務室を後にして自室に戻り、各々新しく付けてもらった従者とともに荷物の整理をしていた。彼らの部屋は隣同士だ。


 フェルナンとルミナスは歓迎の晩餐の席に呼ばれ、豊富な種類の肉料理に目を輝かせ舌鼓を打っていた。


「美味しい肉だろ。伯爵領の特産品なんだ。どんどん食べてくれ」

 エクウスは彼らが肉を頬張る姿に満足し得意気に話していた。

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