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38 采配と復讐

 エクウスの采配は間違っていなかった。


 執事や侍女などまとめ役を置かずに、一週間ごとに設けた話し合いで、得意な役回りを生かしたり、一部の者の利権や仕事の負担などを少なくし、風通しの良い職場の雰囲気を作りお互いに補助しながら従事させていた。


 ディーノは執事というよりも秘書の仕事が向いており、エクウスの右腕として手腕を振るっている。彼は元々グラス伯爵領主代理人として、事務の簡素化や効率化をやってのけた実力者だ。

 当初はグラス伯爵家の血縁者にシエルバ伯爵家の内情を明かすことに不安を感じていたが、エクウスはディーノの的確な助言を受け、議論を交わすようになり厚い信頼関係を築いていった。


 カミラも女性ならではのきめ細かい心遣いで、侍女たちや女中たちの公私構わず相談役としての役割も担ってくれている。彼女は執事としての才もあり申し分のない働きをしてくれている。

 エクウスはディーノとカミラの採用を決めて本当に良かったと思っている。


 ♢♢♢


 エクウスはリリアージュに手を掛けてしまった原因となった飲酒の件で、街の酒場に誘われた男について秘密裏に調査させた。

 男はリリアージュの実家のメディウム男爵領に隣接している男爵家の領主だった。

 男は領地経営も使用人まかせで、酒やギャンブルに溺れ毎日ふらふらと遊び歩いているような男だった。


 男が言っていたメディウム男爵家が羽振りいいという話は全くのでたらめで、メディウム男爵は領民たちに寄り添い懸命に領地経営を行っていた。夫人も質素倹約につとめ一家は変わりなく慎ましい生活を送っている。


 エクウスは男の使用人たちに金を渡して抱き込み、男に横領の罪を着せ投獄するように仕向けた。

 男の家は没落し一家は離散、数年間服役し出所した男を、奴隷の身分まで落とした後、破落戸の中に放り込み最後は事故に見せかけ処分させた。

 エクウスは男に対する怨みを数年に渡り用意周到に計画を立て厳罰を与えていた。


 エクウスは没落した男の領地の払い下げを国に申請し、間もなく国王から了承の証が届く予定だ。

 エクウスはリリアージュの死後、禁酒をしている。彼はこの後、生涯酒を嗜むことはなかった。


 エクウスは婚姻せず実子の跡取りを諦め、シエルバ伯爵家の遠縁にあたる者と母親の実家であるフェミナ伯爵家から各々、将来有望な男子二人を養子に迎えることにした。

 いずれかをシエルバ伯爵家の跡継ぎにすることにした。


 エクウスは自分自身への罰として生涯の禁酒、婚姻と実子の跡継ぎを諦めることにした。


 ♢♢♢

 

 シエルバ伯爵家に養子を迎えるため邸は一部を改装することになった。この機会にディーノを中心に邸の総点検も兼ね見回りをすることになった。


 エクウスはリリアージュが勉強部屋として使っていた一階の部屋と、彼女の愛した庭を見渡し深い溜め息をついた。

 ディーノはリリアージュの庭にある植物を見て驚愕の声を上げた。

「この庭はどなたが手入れされていたのでしょうか?」

「亡くなった妻のリリアージュだ。彼女はこの庭をとても大事にしていたんだ」

 庭を手入れする楽しそうなリリアージュを思い浮かべたエクウスは、目を細め薄い雲がかかった空を見上げていた。


「こ、これは···。えっ、エクウス様、私の知り合いの植物学者に連絡をしてもよろしいですか?それまでこの庭には誰も立ち入らぬよう手配させて下さいっ」

「了解した」

 エクウスは狼狽えるディーノに疑問を感じながら同意した。


 数日後ディーノの知り合いである植物学者と医学者がシエルバ伯爵邸にやって来た。

 彼らはエクウスに了解を取り、リリアージュの部屋にあった植物の成育をまとめたノートと、いくつかの草花の採取をした後、ディーノの用意した客室兼簡易の研究室で草花の選定と、ノートの検証を行っていた。


 彼らは簡単な研究結果をまとめエクウスに報告することになった。


「まずはシエルバ伯爵家のお庭を私どものような学者が押し寄せ、貴重な植物に触れさせてもらったことに深く御礼を申し上げます」

「国の権威である貴殿方にご協力することは、国の仕える私どもの務めです。どうか頭をお上げください」


 エクウスは応接室で深く頭を下げる学者たちを前にして心苦しくなった。過度な接待は無用という報せを聞き、研究の邪魔になってはと大したおもてなしが出来ていなかったこともあり、エクウスは更に恐縮していた。


「寛大なお心遣いありがとうございます。簡単な研究結果ではありますがご報告させていただきます。まずお庭には、呼吸器疾患や数年前の疫病に有効である我が国では成育しにくい薬草がいくつか発見されました。薬草の栽培過程の解る丁寧なノートは、そのまま薬草学会の資料になるものでした。ノートは持ち帰って纏め直し、学会で発表させて頂きたいのですが、いかがでしょうか?」


「·····是非に、妻の供養にもなります」

「では、奥様のお名前で発表させていただきます」

「えっ、いや····そうですか。どうぞよろしくお願いします」

 エクウスは学者の善意とリリアージュの秘めた才能に気付かずにいたことに胸が苦しくなっきた。

 リリアージュから奪ったものの大きさに魂が揺さぶられる。

 彼女の命、子どもの命、才能····リリアージュの全てを奪ってしまったと実感したエクウスは顔色を失っていった。


 エクウスは学者たちに断りをいれ、応接室を後にしてゆっくりと自室に戻っていった。


 にわかに応接室から出ていった顔色の悪いエクウスが気になったディーノは、学者たちの話の続きを聞いた後、彼の自室を訪ねることにした。


 エクウスが応接室を退室した後、シエルバ伯爵夫人が自分の趣味を受け入れてくれた夫に心から感謝していたこと、購入してもらった花の種に異なった種類の種が混じっていたことなどがノートに書き記してあったと、調査をしていた学者からの補足説明があった。ディーノは伝え聞いたことをエクウスにゆっくりと丁寧に話をしていた。


 エクウスはディーノの話を聞いたことで徐々に平静を取り戻していった。

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