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33 罪と罰

残酷な場面があります。

 シエルバ伯爵家の侍女になることは下位の貴族女性にとって箔が付き、万が一にでもエクウスに見初められれば、家族の誉れとして讃えられる。

 侍女として無事に勤めているだけでも今後の縁談に有利に働く。


 シエルバ伯爵家のような筆頭の高位貴族ともなれば、学園等で優秀な成績を収めた者や、縁故か推薦でなければ使用人として採用されない。推薦人は勿論のこと本人や家族に至るまで、徹底的に身元調査が行われる。

 今までは問題なかったはずが···


「なるほど、侍女長の命令か?その命令に疑問はなかったのか?執事長には相談したのか?」

「···」

「それに、君は一体誰に仕えているのだ。仕えるべき者は?侍女長が給金を出しているのか?少し考えればわかることだが、君の家門や親の教育が悪いのか?」


「···申し訳ございません」

 エクウスの問いかけに侍女たちは謝るしかなかった。

「私に謝っても仕方がない。君たち侍女は妻に仕えているのではないのか?」

「···お、奥様には、大変申し訳な···」

「妻はもういない!!」

 エクウスは侍女の言葉を割って怒号を上げた。


「目障りだ。食事は与えなくて良い。そのまま地下牢に戻せ。明日、処罰する」

 腰が抜けて立ち上がれない侍女たちを騎士たちが引き摺るように地下牢に連れていった。


「トニー。直ちにさっきの侍女たちの実家や家門との商取引を停止し、今後一族との関わりを一切禁止する。手紙も破棄してくれ。それと推薦人と一族に各々賠償金の請求をしてくれ。働いていないのに渡す金などない」

「賠償金の額はいかがいたしましょうか?」

「そうだな。各々の領地収入の一年分にしてくれ」

「···か、かしこまりました」


 トニーは顔と背中に冷や汗をかいていた。

 下位貴族とはいえ領地収入の一年分は大きな金額だ。賠償金の支払いや伯爵家との商取引の停止、シエルバ伯爵家の信頼が失墜した家など、他の貴族との軋轢も生まれるだろう。実家の没落は免れない厳しい罰だ。


「今から手分けをして下働きも含め使用人たち全員を個別に呼び出し面談を行う。内容は妻に嫌がらせをしていた者を一人一人に密告させること。各々名前が上がった者を報告してくれ。私も一部を担当する」


 エクウスと執事たちは慎重にリリアージュに嫌がらせをしていた者を聞き出していた。

 面談を終わらせた者には他言無用を徹底させ、まだ面談を終えていない者に内容を言ったものは騎士が地下牢に入れることになっていた。

 個別に呼び出されることに恐怖した使用人たちから面談の内容が漏れることはなかった。


 密告により侍女3人、他の使用人は4人、下働きは2人の名前が上がり、合計9人が明日処罰を受けることになった。


 処罰を受ける侍女3人の中には既に地下牢に入っている2人の侍女の名前も上がっていた。

 牢番が水を持っていったが、女たちは毒を警戒して誰ひとり飲むことがなかった。


 夜になり地下牢の女たちに1本のハサミが手渡され、髪を短く切るようにと告げられた。

 女たちは貴族女性の象徴である長い髪を震える手で切り合い、冷たい地下牢で身を寄せ合って夜を過ごすことになった。


 リリアージュを虐げていた使用人の中には2人の男もいた。男たちは実家が男爵家のリリアージュを見下していたようだった。

 彼らは子爵家の次男や三男であり、自分たちより身分の低い男爵家が出自のリリアージュに嫉妬をしていたらしい。


「女はいいよな。実力がなくても家格上の男と結婚するだけで持て囃される」

 などと、エクウスがいない時にわざわざリリアージュに向かって大声で罵り、笑い者にしていたと、他の使用人たちが証言していた。


 男2人は何も悪いことはしていないと言い張り、地下牢の牢番が持ってきた水をかけたり、罵ったりと横柄な態度をとり、終には大きな声で喚きだしたので、騎士たちは男たちに猿ぐつわし両手両足を縛り上げた。

 しばらく呻き声を上げていた男たちは諦めたのか夜中には静かになった。

 貴族の使用人たちの実家がそれぞれ没落の危機にさらされていることを彼らはまだ知らない。


 翌朝執事たちに集められた農夫たちは、伯爵家で使用人たちと同じ朝食が振る舞われ、彼らは満足した顔で厩舎に近い広場で上からの指示を待っていた。

 滅多に会うことの出来ない領主のシエルバ伯爵様直々に指示があると聞いて彼らは少し興奮気味だった。


 やがて広場に薄い麻袋を被せられた9人が騎士に連れられてやって来た。

 男も女も頭だけを出し、腕は出ていないので歩きづらそうだった。

 9人は横一列に並ばされそのまま地面に座らされた。


 エクウスが現れると農夫たちは跪き頭を下げた。座らされている9人も頭を下げた。


「ムチ打ち30回だ」

 エクウスの掛け声で、控えていた執事たちが農夫たちに各々ムチを渡し、麻袋を被った者にムチを打つように命じた。

「農夫たち、遠慮せず思い切りムチを打ってくれ。この者たちは犯罪者だ」


 男も女も関係なく農夫たちがムチを打つ。

 直ぐに麻袋が破れ鮮血が飛び散る。

 容赦のない農夫のムチ打ちに気を失う者までいたが、農夫たちは手を止めない。

 指示通り号令に合わせてムチを打つ。

 女たちの髪を切ったのはムチに髪が絡まるのを防ぐためだった。


 最初こそ悲鳴も聞こえたが今は誰も声を発しない。皆、痛みに耐えかねて気を失っているようだった。

 やがて屈強な農夫たちによる30回のムチ打ちが終わった。


 農夫たちには各々エクウス直々に褒美の銀貨と労いの言葉をかけられ、満面の笑みで伯爵邸を去って行った。

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