31 再会と転機
少女の父親は騎士であり母親は元貴族。
騎士の父親は文武両道で薬草の知識などが豊富であり、娘が興味を示した薬草の知識を幼い頃から教えていた。
アビーの手当も殆ど少女が施していたようだ。
元貴族の母親の躾が良いのか、少女は年齢の割に落ち着いていて、近所の人達にしっかりしている娘と評判が良かった。
「アビー。着いたわよ」
アビーはメディウム男爵夫人の横で大きく伸びをした。
男爵夫人と一緒に馬車を降りると使用人の案内で母娘の勤め先の宿屋に入って行った。
「ルル?ルルなの?」
アビーを見つけた少女は喜びが隠せないでいた。アビーも少女に駆け寄っていた。
「あなたのお母様とお話がしたいのだけど、お会いできるかしら?」
「あっ···はい。ルルを連れて来てくれてありがとうございます。すぐに母を呼んできます」
メディウム男爵夫人の問いかけに答えると、少女は小走りで宿屋の奥に入って行った。
「宿屋の店主に会わせて貰えるかしら?」
「···か、かしこまりました」
貴族の女性に声をかけられること等ほとんど無い受付の女性は、頭を下げたまま店主の元に向かった。
店主と母親が一緒に宿屋の奥から出てきた。
「奥様。お久しぶりでございます」
母親はメディウム男爵夫人に頭を下げた。それを見た店主も慌てて頭を下げた。
「三人でお話をしたいのだけど、お部屋はお借りできるかしら?」
「は、はい。直ぐに、直ぐにご用意いたしますっ」
店主はそう言うと急ぎ足でこの場を離れた。
メディウム男爵夫人と母親はアビーの事や少女の近況などの話をしていた。
「奥様。お部屋の準備が整いました。ご納得のいけるようなおもてなしができず、申し訳ございません」
「謝罪しなくてもいいわ。事前に連絡をせずに訪問したこちらの方が不作法ですもの。お話が出来る場を整えてくれてありがとう」
メディウム男爵夫人が無理難題を押し付ける貴族でないことに胸を撫で下ろし、宿屋の店主は深く頭を下げた。
「お仕事の邪魔になるといけないので端的に言うわ。貴女と娘さん、メディウム男爵家で働いてみないかしら?」
「えっ、え?私ですか?えっと···え?」
「ええ、そうよ。貴女たち母娘よ。気を悪くしないでね。こちらで貴女たちの出自を調べさせて貰ったの。その上で家で働いてもらいたいのだけど、返事は今すぐ欲しい訳ではないわ。どちらにしろ連絡を下さいね」
メディウム男爵夫人は母親に伝えたいことが言えて満足したのか、宿屋の安物のお茶を優雅に飲んでいた。
宿屋の店主と母親は顔を見合せ呆然としていた。
「ソフィアさん、いい話じゃないか」
メディウム男爵夫人が帰った後宿屋の店主は母親に向かって喜びの声を上げた。
「ええでも、···貴族のお屋敷で私なんかが勤まるかしら?」
「もし勤めが辛かったら、いつでもここに戻ってくるといいよ。とにかく行ってみなよ。娘のエミリも一緒だなんて奥様はいい人じゃないか」
ソフィアは宿屋の店主に不安を漏らしていた。
「エミリ、あなたはどうしたいのかしら?奥様やルルと暮らしたい?」
「んー。行ってみないとわからないわ」
エミリは首を傾げながらソフィアに答えていた。
「そうね。そうよね」
ソフィアはメディウム男爵家に行くことに決めた。
メディウム男爵夫人には、手紙で報せれば男爵家の馬車で迎えに来ると言われていたが、ソフィアはエミリと共に辻馬車を乗り継ぎメディウム男爵家に向かうことにした。仕事に不安はあったが、娘とふたりで暮らせることが嬉しかった。
ソフィアたちはメディウム男爵家に着いた。男爵夫人からもらったメモを門番に渡すと、確認に行った門番から直ぐに裏口に通された。
「まあ、来てくれたのね。お話は休んでからにしましょう。そうね、夕食後にしましょう。まずは貴女たちの部屋に案内させるわ」
ソフィア母娘は使用人に自分達の部屋に案内された。部屋で軽食をいただくと疲れていたのかエミリは眠ってしまった。
案内された部屋は自分達が暮らしていた部屋よりも広く、家具も整えてられており清潔に保たれていた。母娘ふたりの生活には充分な広さだった。
ソフィア母娘は夕食も部屋でいただき、男爵夫人に呼ばれるまで待っていた。
しばらくすると使用人が来て調理場の横にある談話室に案内された。
「お待たせしたわね。早速だけどソフィアにはお掃除か調理の補助を担当して欲しいのだけど、どうかしら?」
「は、はい。どちらでも大丈夫です」
「そうね。両方やってみて自分に合っている方を選んでもらいましょう。エミリにもお仕事があるのよ」
「はい。お手伝いします」
エミリなハッキリした声で返事をした。
「まあ、いいお返事ね。エミリ、あなたにはアビーのお世話をしてもらうわ」
「アビーですか?あっ、···ルルですね今日からアビーって呼びます。頑張ります」
「お給金の事だけど、メディウム男爵家は裕福ではないので期待しないでね。もちろんエミリにもお給金は払うからね」
メディウム男爵夫人の言葉にエミリは目をきらきらさせていた。
ソフィアはお掃除メイドとして順調に働いていた。週に一度の休みや仕事の拘束時間を考えると破格な給金で驚いた。賄いもあるしエミリといつでも会える。エミリは毎日使用人の子どもたちと一緒に楽しそうに小さなお手伝いをしている。
エミリの給金も子どものお小遣いにしては多い。
メディウム男爵夫人には感謝しかなかった。




