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2 エクウスの結婚歴

 エクウス・シエルバ伯爵は三度結婚しているが、どの妻とも子どもは授かっていない。

 貴族の嫡男として跡取りを残すことは大切なことだった。

 男女どちらでもいい。跡継ぎが欲しい。

 領地経営も順調で裕福な筆頭伯爵家。シエルバ伯爵家の血筋を跡絶えさせないためには実子が必要不可欠であった。

 エクウスは伯爵家の一人っ子として重圧を感じていた。


 最初の妻のアンジェリカは家格が同じ伯爵家の長女で、大人しく儚げで美しい女性だった。

 政略結婚とはいえ、エクウスは妻をとても愛していた。

 一年を過ぎた頃からアンジェリカは不妊に悩み、必要以上に自分を責めていた。

 エクウスは愛している妻には子どものことは気長に考えるように言っていたが、妻は重圧を感じ精神を病んでしまった。


 医者には療養が必要だと言われ、エクウスは渋々アンジェリカを実家に帰し静養させることにした。

 だが、妻は二度とシエルバ伯爵家に帰って来ることはなかった。

 アンジェリカや妻の両親と話し合い半年の別居生活を経て離婚をすることになった。

 エクウスの両親はすでに他界しており、父にも兄弟がいなかったので、シエルバ伯爵家では相談する相手がいなかった。


 数年後アンジェリカは幼馴染みの子爵家の嫡男と結婚し、三人の子どもを儲けていた。

 儚げな妻だと思っていたが実は活発で、馬を乗りこなし、野山を駆け回るのが好きだったようだ。

 エクウスの前では淑やかな妻を演じていたようだった。


 エクウスは失意の中新たな妻を迎えることにした。

 二番目の妻のメリアは伯爵家の次女で小柄で派手な印象の女性だった。

 とにかく金遣いが荒く、着飾ることが大好きな妻だった。

 裕福なシエルバ伯爵家では些細な出費であったため、メリアを咎めることはしなかったが、伯爵家の女主人としての仕事を全くしなかった。


 女主人の仕事を使用人たちに全てやらせていたので、投げやりになった経理担当者が多額の横領に手を染めていた。

 しかもあろうことか最近はメリアと一緒になって横領をしていたことがわかった。

 ドレスや宝石などを買いあさり散財していたため、夫人の月々の手当では足りず、経理担当者と一緒に横領していたようだった。


 しかもメリアは経理担当者や使用人たち数人と浮気をしていた。

 エクウスは呆れ果て、浮気や横領の証拠を集めメリアの実家の伯爵家に賠償金と離婚を申し出た。

 メリアの実家は深く謝罪し、婚姻の継続を願ったが、エクウスは他の男と情を交わした女性を受け入れることはできなかった。

 メリアは実家にも帰れず、連絡は途絶えている。


 三番目の妻カリーナは子爵家の長女で口数が少なく内向的な性格だった。

 エクウスは屋敷に閉じ籠りがちな妻を心配し、最初の妻の事があったので、知り合いから優秀な医者を紹介してもらい、カリーナの主治医として伯爵家に迎えることにした。

 紹介してもらった医者ウェートのお陰でカリーナも外に出られるようになり、夫婦同伴で最低限必要な社交や挨拶回りなどを頑張ってくれていた。


 ウェート医師の見立てでは妻の妊娠には問題がないようなので、エクウスは跡継ぎの誕生を期待していた。

 しかし数ヶ月後、ウェート医師とカリーナはお互いに惹かれあい駆け落ちをしてしまった。

 エクウスは二人を探したが見つからなかった。

 ウェート医師は隣国の王族の縁者だった。

 二人は隣国に向かったと思われる。

 二週間後エクウスは二人の捜索を断念した。


 妻が駆け落ちしたとあっては、シエルバ伯爵家の沽券に関わるので、自尊心の強いエクウスは、カリーナの実家には表立っての賠償金などは請求せず、実家で病気療養の上病死したと偽装することを望んだ。

 エクウスは隣国の王族経由でウェート医師に連絡を取り、カリーナの偽の死亡証明書を書いてもらう事で、二人の仲を咎めたりはしないと約束をした。

 妻の事で深く考えることが面倒になっていたエクウスはカリーナとの離婚さえ整えばよいと思っていた。


 三十歳になったエクウスは四番目の再婚相手など誰でもよかった。

 たまたま商談に来ていたシエルバ伯爵家の傘下にあるメディウム男爵との世間話の中で、長女に婚約者がいないと知って婚約を打診してみた。

 メディウム男爵は身に余るお言葉だと恐縮していたが、エクウスは、経済的な援助の申し出とともに、婚約の話を一度家に持ち帰り長女に話をするように言ってみた。

 四度目の結婚になるエクウスは、男爵からの断りの返事も想定していたが、経済的に苦しいメディウム男爵は真剣に頭を悩ませていた。


 小さな領地で小麦を中心とした農作物の生産と販売をしているメディウム男爵家では、二年前の水害の影響で領民からの税の取り立てを軽減していた。国に納める税金の足りない分は男爵家の私財から納めていた。

 災害で被害を受け苦しむ領民からは無理に税金の取り立てなどは行わなかった。

 領民には豊作になれば少し上乗せして税金を納めてもらうつもりだったが、今年は不作で男爵家の懐事情はさらに厳しい状況になっていた。

 持参金の用意ができない18才の娘には婚約者がいなかった。

 愛する娘には身売りをするような結婚はさせたくないが·····

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