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28 葬儀

 アビーは夜になるといつも一階のリリアージュの部屋にあるソファーで寝ている。大きな音が二階から聞こえ身構えた。リリアージュに呼ばれているような気がした。


 二階には決して上がらぬようにと躾られていたが、アビーはリリアージュを探すため急いで階段を駆け上がった。

 リリアージュがいる寝室は少しだけ扉が空いていた。前足を挟みそっと扉を開け中を覗いた。


「···アビー来てくれたのね」

 リリアージュは消えそうな声で名前を呼んでくれた。二階に上がって来たことを叱られると思っていたアビーは一度止まる。名前を呼ばれて嬉しくなりリリアージュに駆け寄った。リリアージュは頭を優しく撫でてくれた。


 しばらくすると頭を撫でていてくれた彼女の手が止まってしまった。

「にゃーん」

 リリアージュに声をかけても答えてくれることはなかった。

 アビーは冷たくなっていくリリアージュの膝に寄り添い懸命に温めようとしていた。

 場所を変え一生懸命に温めても冷たいままだったが、アビーはリリアージュと離れたくなかった。


 昼過ぎになり急に寝室に人がたくさん集まって来たので、アビーは叱られる前にそっと出ていった。

 厨房にある勝手口の近くに行くと、アビーのご飯が置いてあった。アビーはご飯を食べ一階の彼女の匂いがする部屋で少しだけ眠ることにした。


 ♢♢♢


 納棺されたリリアージュは葬儀が行われるため、会場となる離れのホールに運ばれることになった。

 離れのホールは二年前にエクウスとリリアージュの結婚披露宴が行われた場所だった。


 侍女長以外は一時的に謹慎を解かれ黙々と葬儀の準備に取り掛かっていた。

 料理長を追い出したため急遽近くの街の料理店などから平民の応援を要請した。彼らは手際よく予想以上に良い働きをしてくれている。


 邸の外周を見張らせていた騎士から二名の侍女を捕らえたと報告があった。男だと直ぐに処分されていただろうが、騎士たちは女性を処分するのを躊躇ってか、判断を求められたので、地下牢に収監する事を命じた。

 伯爵家の侍女ともなればほとんどが下位の貴族女性だ。


 使用人たちの処分は後回しにして、エクウスも葬儀の準備に取り掛かった。


 リリアージュの実家であるメディウム男爵家の家族が到着した。

 憔悴している義両親と義弟をリリアージュの元に案内した。家族は泣き崩れエクウスはしばらく声をかけられずにいた。少し落ち着いたらホールの隣にある応接室で休んでもらうように使用人に命じて、エクウスはメディウム男爵家の家族の元を一旦離れた。


 葬儀が始まる前にリリアージュの死因について義両親に説明しなくてはならない。

 シエルバ伯爵家の主治医と打ち合わせした通り、不慮の事故ということに···


 メディウム男爵家の家族が少し落ち着いたようだと使用人から聞かされたエクウスは、彼らがいる応接室に向かった。


「シエルバ伯爵様。リリアージュは···元気だったリリアージュは···こんなに窶れて···何故、何故、命を落とす事になったのでしょうか?」

 メディウム男爵は唸るような声でエクウスに訴えた。


「リリアージュは、妻は···。···懐妊していて一週間程食欲がなかったようです。私は1ヶ月程前から、領地の視察や商談で留守にしていました。出迎えに出て来なかった妻の様子を見に行ったのですが、体調が悪く眠っていました。妻は夜中に目が覚め、足元が覚束なかったのか転倒し、打ち所が悪く亡くなってしまったようです。体調の悪かった妻をお昼位までは寝かせておいてやろうと、発見が遅れてしまい、こんなことに···妻にはすまないことをしました」


「·····不慮の事故だとおっしゃるのですね」

 エクウスの説明にメディウム男爵は溜め息混じりに言った。

 メディウム男爵はエクウスに対してそれ以上説明を求めなかった。

 何度説明を聞いても、シエルバ伯爵家のせいだとしても、愛する娘は帰ってこない。それならば最後の別れを大切にしなければ···。両手を力一杯握りしめ気持ちを切り替えることにした。


 メディウム男爵領のために領主の私が、私がシエルバ伯爵家との縁談を持ってきたのだ。私が縁談など受けなければ、災害もなく領地経営が上手くいっていっていれば···後悔したところで、もうどうしようもない。


 現実をまだ受け入れられない妻は泣き疲れて衰弱し、とても葬儀に参列出来そうにない。息子もただ泣くばかり。父親の私がしっかりしなければ···全身に力が入らず、膝は震えていたが、頭だけは妙に冴えていた。父親として最後まで見届けなければ、リリアージュを弔ってやらないと。メディウム男爵は己を奮い起たせた。


 ♢♢♢


 リリアージュに会いたくなったアビーは、彼女が倒れていた寝室の清掃をしている使用人たちに紛れて部屋に入っていった。そこにリリアージュはいなかったが、ベットの下に落ちていた朱色の珊瑚のネックレスを見つけ、咥えてそっと出ていった。


 アビーは一生懸命にリリアージュの匂いを辿り、離れのホールにたどり着いた。

 リリアージュに会いたい。会ってネックレスを渡したい。彼女の喜ぶ顔がみたい。優しく名前を呼んで欲しい。頭も撫でて欲しい。それだけでいい。


 アビーはそっとホールに入った。


 僕はホールの隣の部屋でリリアージュに似た声が聞こえたので覗いてみた。

 リリアージュの匂いに似ていた人に近づくと、驚いた顔をしていたが、彼女は僕をそっと抱き抱え、リリアージュの所に連れていってくれたんだ。

 リリアージュとはもうお別れしないといけないんだと、僕はそう思った。

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