22 ヴォルガの訪問
シエルバ伯爵邸では万全の体制でアイビス商会のヴォルガを迎えていた。
ヴォルガはエクウスの予想通り遠方までの商談があったようで、エクウスの勧めもありアイビス商会の数名とヴォルガはシエルバ伯爵家に泊まっていくことになった。
晩餐にはリリアージュも同席することになった。
「奥様。お久しぶりでございます。お元気そうでなによりです」
「ありがとう、ヴォルガ。エクウス様にはとても良くしていただいておりますの」
シエルバ伯爵夫婦とヴォルガは話が弾んでいた。
「ところで、以前旦那様にお渡しした薬湯の事なのですが、その後おかわりございませんか?」
ヴォルガは以前渡していた茶葉の効能をエクウスに直接聞きたかった。
「そうだな。口当たりは悪くないので続けられそうだ。身体の冷えを感じず最近は寝付きがよくなっている」
「そうですか。奥様はどうでしょうか?」
「わたくしも身体の調子が良くなってきています。特に手足の冷えを感じなくなり、朝の目覚めがとてもよくなりました。とても飲み安く優しいお味のお茶が気に入っています」
「それはよかったです。お二人とも薬湯がよくあっていらっしゃるようですね」
「ヴォルガ。追加の茶葉の代金の支払いをさせてくれ。しばらく妻と続けてみようと思う」
「ありがとうございます」
「ヴォルガ、相談に乗って欲しい事があるのだが···」
エクウスはヴォルガに仕事の話があるようだったので、食事が終わっていたリリアージュは、晩餐の席を後にすることにした。
「ヴォルガ、ゆっくりしてくださいね。旦那様、お先に失礼します」
「奥様、お休みなさいませ」
ヴォルガは右手を胸にあて、丁寧に礼をした。
「奥様はやはり素晴らしい方ですね」
「あ、ああ。ありがとう」
リリアージュを褒めるヴォルガにエクウスは軽く返事をしていた。ヴォルガは少し気になったが、エクウスの話に耳を傾けた。
「伯爵領内で養鶏の仕事を大々的に手掛けようと思っている。近々専門家も呼ぶつもりだが、小麦同様に付加価値をつけてみようと思っている」
「なるほど。それは素晴らしいですね。鶏肉と玉子ですね。くず野菜、貝殻や魚粉を加えた飼料を試してみてはいかがでしょうか?あとは飼育環境ですね」
「やはり君に相談してよかったよ」
エクウスはヴォルガの意見に感心していた。
「先程の晩餐の鶏肉はシエルバ伯爵領の鶏ですね。良い肉質だと思います」
「ああ、君はいつも私に欲しい言葉をくれる」
「お役に立てて光栄です」
エクウスとヴォルガの歓談は夜遅くまで続いた。
翌朝はシエルバ伯爵夫妻でヴォルガを見送った。
エクウスはヴォルガと実のある話が出来たと上機嫌だった。ヴォルガもシエルバ伯爵家の予想以上のもてなしに心から感謝していた。
月日は過ぎ執事長のバンスは予定通り来週退職することになった。バンスが気がかりなのは次期執事長のトニーのことだった。
エクウスにも進言していたが、数字や書類作成などは完璧ではあるが、思い込みで仕事を進めてしまうことや、他人の感情を汲み取れず、効率を重視するトニーの仕事に不安を感じていた。
バンスは新任の侍女長出あるローザのことも気にかかっていた。仕事の面では問題はないがエクウス様とリリアージュ様への態度の差が目につく。
バンスから見たローザはリリアージュ様に仕えることに不満を持っているようだった。
対してエクウス様には媚びるような態度だ。
バンスはトニーにローザの事を言っても理解できないと思った。仕事が捗っているのなら問題はないとするだろう。
バンスは悩ましい問題に頭を抱えていたが、エクウスに委ねることにして、シエルバ伯爵家を去っていくことにした。
バンスは『エクウス様には進言しておいた』と自分に言い聞かせていた。
執事長、侍女長、料理長が替わりシエルバ伯爵邸の雰囲気が変わっていった。
ー数ヶ月後ー
エクウスは本日の商談の後、シエルバ伯爵家の別邸に旧友たちを招き、十数年振りに会う約束をしていた。学園の旧友たちと夜通しで酒やカード等の娯楽を楽しむためだった。きっかけは偶然街で会った旧友のひとりからの軽い提案であった。
エクウスは最近、市場の視察のためシエルバ伯爵領以外に出かけることが増えていた。流行や庶民の生活から新しい事業の展開や仕事の役に立つ情報を自らの目で確かめたかった。予想以上に養鶏業が成功し、エクウスは益々仕事にのめり込んでいった。
「エクウス様、本日はお招きいただきありがとうございます。お仕事の話など聞かせて下さい」
「ようこそ、わが邸に。部屋も用意してある。ゆっくりと過ごしてくれ」
学友たちは泊まりがけで飲み食いし、騒いでも差し支えない伯爵家別邸での集まりを楽しみにしていた。
どこで聞いたのか、誰の紹介なのかはわからないが、中にはほとんど交流のなかった者まで現れ、妻と称した愛人を連れ込む者までいたが、エクウスは気付かない振りをして出迎えていた。一夜限りのお祭りのようなものだと考え、伯爵家の事業の宣伝だと認識していた。
学友たちは皆、伯爵家のもてなしに感心し大いに喜んだ。




