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21 新体制のシエルバ伯爵家

 ローザは幼少期から家族に大切に育てられてきた。

 特に秀でた才能もなく子爵家の次女ということもあり、シエルバ伯爵家の使用人として働くことになったが、家族は『憧れのエクウス様のお側でお仕事出来てよかったわね』と言って励ましてくれた。


 ローザは手際がよく仕事を覚えるのが早かった。伯爵家の指導がよかったのかローザは次第に自分の仕事に自信が持てるようになった。彼女は侍女の仕事が向いていたのか、人に仕えることに不満は感じなかった。


 王都のタウンハウスではシエルバ伯爵家の家族が滞在する期間だけ、侍女として家族の身のまわりの世話をし、他の期間は王宮での臨時の手伝いや、伯爵家の調度品の管理、季節に応じての模様替えや備品の整理、合間にはマナーの復習等を行っている。


 伯爵家の家族の滞在時は領地の使用人も共に移動してくるので、王都のタウンハウスの使用人は必要最低限な人数で邸の保全や管理などの業務を回している。

 ローザは年若く機敏で、人当たりもよく使用人たちに気に入られていた。末っ子特有の処世術なのかもしれない。


 伯爵家に仕えて数年後にエクウスは結婚してしまい、自身の結婚のことを真剣に考えるようになった。ローザの縁談はイプルス子爵家に複数届いていたが、両親には仕事に慣れてからと結婚を渋っていた。


 結婚適齢期を少し過ぎたローザは父親の薦めで、イプルス子爵家と縁が深く、父の同僚の息子であるウェイン子爵家の嫡男と結婚の話が上り、シエルバ伯爵家の仕事を続ける条件で結婚を承諾していた。

 ウェイン子爵は仕事熱心なローザを快く思い、彼女の仕事を優先することを約束していた。


 ウェイン子爵家の家族は皆は穏やかな性格で夫もとても優しかった。夫は常にローザを気遣い、子どもが生まれても彼女に負担のない生活を送らせてくれていた。ローザは周りからみても恵まれた結婚生活を送っていた。


 華やかな王都で順風満帆な結婚生活の中、ローザはシエルバ伯爵家本邸の勤務の打診に胸が騒いだ。


 王都のタウンハウスにリリアージュを連れてきた時、彼女に想いを寄せるエクウスの様子を見て失意を感じていたが、ローザは心の中にあった僅かな恋心が揺れるのを感じていた。

 久しぶりに見たエクウスは若い頃にはなかった色香がにじみ出ていた。


 ローザは自分に向けられていないのがわかっていたが、リリアージュを見つめるエクウスの今までにはなかった恋慕を秘めた眼差しに胸がときめいてしまった。


 ローザはエクウスから目が離せなかった。


 退職予定のバンスは新任の執事長のトニーに付きっきりで指導していた。

 若くて生真面目な性格のトニーは2ヶ月もするとバンスがいなくても仕事をこなせるようになっていた。ただ思い込みの激しいところがあり、臨機応変な対応などが理解できないようだった。


「来週ご訪問予定のお客様について料理長と相談したか?」

「料理長にはお客様のリストを渡してあります」

「それだけじゃダメだ。旦那さまと三人で打ち合わせる時間を設けなさい」

「それだと効率が悪くないですか?」

「なんだと!お客様のもてなしの基準は旦那様が決められることだ。旦那様に確認しなさい」


 バンスはトニーに向かって声を荒げていた。効率がよいとか悪いの問題ではない。伯爵家を訪ねてくるお客様に対してのおもてなしが出来ていない。

 名前だけではどんなお客様を招いているのか使用人たちにはわからない。


 伯爵家にとって大切なお客様には最上級のおもてなしをしなければならない。

 商談に繋がるメニューや好みのお酒など細かい配慮が要求される。お客様の格付けは使用人が勝手に決めてはいけない。


「来週お見えになるのはどなただ?」

「アイビス商会のヴォルガ様ですね。平民の商人のようですから大したおもてなしは不要かと···」

「バカな···最上級のおもてなしが必要だ。料理長と侍女長に声をかけ、今夜にでも旦那さまと打ち合わせの時間を設けなさい」

「は、はい。了解しました」


 バンスは額に手を当てて大きなため息をついた。

 最近の小麦の売り上げが上がったのはアイビス商会のお陰だった。

 支払い先の書類も見ていると思っていたが、トニーは計算だけして取引先は見ていないのか···。確かに計算や書類の類いは完璧なのだが、それだけでは仕事が出来るとは言えない。

 今回のおもてなしでトニーに勉強させよう。


 バンスはトニーに前回のおもてなしの内容を記した書類を整えさせ、一緒にエクウスの元を訪れることにした。


「夜分に失礼します、旦那さま。打ち合わせが遅れましたこと、誠に申し訳ございません」

「ああ、すまない。私の方も失念していた」

 バンスの言葉にエクウスは寛大に答えた。


「そうだな。こちらの方には遠方から立ち寄るかもしれない。侍女長、念のために客室と付き人用の部屋も整えておいてくれ。それと厩の使用人にも連絡をいれてくれ」

「かしこまりました」

「料理長、彼は美食家だ。前回のメニューを踏まえて違う物を考えてくれ。食前のシャンパン、赤と白のワインなどの酒類は最高級のものを頼む」

「はい。かしこまりました」


「それと、これから我が領で養鶏業に力をい入れようと思っている。領の鶏肉を使ったメニューを取り入れるように」


 使用人たちはエクウスの指示に従いヴォルガを迎え入れる準備に取りかかった。

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