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20 使用人の交替

 エクウスは会合を終え真っ直ぐシエルバ伯爵邸へと帰って来た。

 主の帰宅の先触れがあり、リリアージュと使用人たちはエクウスを玄関で出迎えた。


 会合の疲れか馬車での移動の疲れなのか、少し気落ちしているエクウスの表情を読み取ったリリアージュは、エクウスのことを執事長に任せ出迎えの挨拶だけをして下がることにした。


 他の使用人たちにはエクウスが直ぐに休めるように軽食や飲み物、湯浴みや寝具の準備を整えさせていた。

 エクウスはそのまま自室に戻っていった。


 前シエルバ伯爵当主シュヴァルの代から仕えている執事長は年齢と持病の腰痛で、数年前から仕事を続けて行くことに不安を感じていた。


 流感の影響で使用人たちの半数近くが入れ替わり、新任の使用人たちの細かい教育と自身の抱えている仕事で己の限界を感じていた。

 長い間二人三脚でシエルバ伯爵家を盛り立てていた侍女長の辞職の影響も大きかった。


 先日、侍女長の娘が二人目の子どもの出産で産後の日達が悪く命を落としてしまい、生まれたばかりの子どもと3歳になる子どもの世話をすることになった。


 侍女長の娘婿は商人で度々家を空けることがあり、既に彼の両親は他界している。

 兄弟はいるが頼れないという。娘婿だけでは子どもたちの面倒が見られず、一時的に孤児院に預けることになってしまう。


 愛娘の残した子どもたちを憂い、侍女長は鍛冶屋の旦那と共に孫たちの面倒を見るために、他領の娘の家の近くに家を借り移り住むことになった。

 腕のいい鍛冶屋の旦那は住むところにこだわらなくても、仕事が失くなることはないそうだ。


 執事長は近々シエルバ伯爵家を去ることを人知れず決意していた。

 エクウスが会合から帰って来た一週間後、執事長は半年後の退職を申し出た。


 エクウスは難色を示していたが、執事長の持病を気づかい暇を出すことを受け入れた。


 執事長の家系は代々シエルバ伯爵家の執事を排出している家だが、執事長には息子がなく妹の次男を候補に考えていた。


 執事長の甥は現在勉強のため、他領で執事として働いている。首席で学園を卒業し執事としても優秀であるが、独善的でもある。


 執事長は甥の性格や経歴などをエクウスに示し、仕事をしていくうちに支障があれば、エクウスの縁戚の中から執事長を選ばれても依存はない旨を提言していた。


 息子がいなかった執事長は自分の代で家系から執事が排出されなくなっても仕方がないと思っていた。執事としての資格は家系ではなく主が決めること。家系に甘んじることなく本文をわきまえ、執事としての誇りを持ち誠心誠意主に仕えること。


 執事長の交替にはまだ半年の余裕があるが、侍女長の選任は急務だった。


 エクウスは現在王都のタウンハウスで侍女長の補佐をしているローザ・ウェイン子爵夫人をシエルバ伯爵本邸の侍女長として迎え入れることにした。

 年齢はエクウスと同世代で、実家は代々王宮で文官として仕える領地を持たない貴族のイプルス子爵家の次女で身元も確かだった。


 イプルス子爵家は三人兄妹で父親の跡を継ぐ予定の長男は、親子で文官として王宮に勤めている。長女は学園時代に夫に見初められ伯爵に嫁いでいる。ローザは末娘であった。


 難があるとすれば、ローザが王都のタウンハウスで侍女として勤め始めた頃、エクウスに度々秋波を送っていたことだが、今はウェイン子爵家に嫁ぎ、子どもも設けているので心配は不要だろう。

 エクウスは使用人たちに秋波を送られることには慣れていた。筆頭伯爵家の縁が欲しい者は今でも後を立たない。


 夫と子どもと離れることになり、王都以外で生活をしたことのないのも気がかりだが、事は急を要した。


 しばらくの間様子を見ると共に、王都の侍女長にも詳細を伝え、念のために他の後任候補も探すように伝えてあった。

 ローザにも数ヶ月は試用期間だと告げている。


 ローザは今でもエクウスに想いを寄せていた。

 既に夫や子どもがいる身だが、エクウスを初めて見た時の胸の高鳴りが忘れられないでいた。


 ローザは王都のタウンハウスで過去に何度かエクウスの妻を見ていたが、地方出身で自分より10歳以上も年が若く、家格が下のリリアージュには素直に従える気がしなかった。


 シエルバ伯爵本邸で侍女長ともなれば、使用人として大出世であり給金も上がる。しばらくの間、王宮で文官の仕事をする夫や子どもたちと離れて暮らすこと、王都以外の慣れない土地での暮らしにも不安がある。しかし、ローザはエクウスの下で働くことに何よりも魅力を感じていた。

 胸に秘めた恋心に微かに火が灯った。


 ローザがシエルバ伯爵本邸の侍女長として着任したとき、エクウスとリリアージュが王宮で国王陛下への挨拶のため、王都のタウンハウスに夫婦で滞在していた時よりも気持ちが離れているように見えた。


 夫婦の食事は朝食のみが一緒で、会話も弾んでいない。リリアージュがエクウスの顔色を伺うような態度だが、エクウスは妻の様子に気を留めず淡々と食事をしている。

 結婚してから一年ほどしか経っていないのに夫婦に甘い雰囲気がなかった。


 ローザは執事長や他の使用人たちからシエルバ伯爵夫婦の事を聞いてみることにした。

 思った通り最近夫婦仲が良くないようだった。

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