18 前シエルバ伯爵家当主シュヴァル②
シュヴァルはアニーシャと婚約したことにより公私ともに充実した日々を過ごしていた。
精神的にきつかった生徒会での仕事や王太子殿下に寄せられる相談事も体力的には疲れたが、アニーシャと付き合うようになってから、気持ちの余裕ができたのか何故か苦痛ではなくなった。
面倒な相談も今まで以上に相談者の身になって考えることが出来るようになった。他人事とは考えずに相手の立場に立つと自然と自分の考えを導くことが出来た。自分の思いを押しつけるのではなく、相手の話を聞き自分が思ったことを提案した。
親身に話を聞くだけで納得して帰っていく者が増えた。
生徒会の仕事も他の会員たちに割り振り、ひとりで抱え込むことを辞めた。適材適所を考えた。人に頼ることを恥ずべき行為だとは思わず、人に頼られることも面倒に思わなくなった。
生徒会員同士で意見を交わしスムーズな運営が出来るようになってきた。仕事は減らないが効率が良くなった。
♢♢
学園では年に二回、前期と後期に三週間ずつの長期休暇が設けられている。王都のタウンハウスや寮に残る者もいたが生徒の大半が領地に帰って行った。
お互いの両親からは手紙で婚約の了承をもらっているので、シュヴァルは彼女の両親に挨拶がてらアニーシャをフェミナ伯爵領に送って行くことを打診していた。
アニーシャの初めての長期休暇の時はランドルと二人でボーランド子爵家の馬車に乗り合わせ帰省していた。
アニーシャは最初はシエルバ伯爵領からは遠回りになるからとシュヴァルの申し出を断っていたが、彼の熱意に負けて申し出を受け入れることにした。シュヴァルと付き合い始めたとはいえアニーシャは、二人きりの馬車の旅に照れていた。今回の帰省の日を秘かに楽しみにしていた。
長期休暇に入りシュヴァルとアニーシャはシエルバ伯爵家の馬車に乗り帰省した。
最初はお互いに緊張していたが、未婚の男女が馬車の中で二人きりになるわけにはいかず、アニーシャの侍女とシュヴァルの従者が乗り合わせ、彼らが気を遣い話題に事欠くことはなかった。
二人にとって楽しい帰省の旅となった。
シュヴァルはフェミナ伯爵の好意で邸の客室に一泊させてもらい、アニーシャと帰りもフェミナ伯爵家まで迎えに来る約束をして、翌日シエルバ伯爵領に帰って行った。
シュヴァルの紳士としての振る舞いや人柄に、フェミナ伯爵家族は大喜びだった。
アニーシャもシュヴァルのことが誇らしかった。手紙や書類のやり取りだけではなくシュヴァルの人柄をみて、両親や家族に申し分のない婚約者として彼が認められてアニーシャは幸せいっぱいだった。
アニーシャをフェミナ伯爵領に送り、シエルバ伯爵領に戻ってから直ぐに、シュヴァルは彼女に手紙を書いた。
遠回りになるがシュヴァルも両親にアニーシャを紹介したかったので、約束していた日の3日前に迎えに行くことを手紙で伝えた。
アニーシャは快く了承してくれた。
その後も何度か手紙のやり取りをしていた二人はお互いに会えるのを楽しみにしていた。
この国の貴族は馬車の移動は防犯対策や不慮の事故などを避けるため、夜は緊急時以外に走らせることはほとんどない。
約束の日のお昼前に到着したシエルバ伯爵家の馬車は早朝に宿泊先を出発したのだろう。
アニーシャはシュヴァルの気持ちが嬉しかった。
「シュヴァル様お迎えに来てくださってありがとうございます。早朝の出立でお疲れでしょう?少しお休みになりませんか?」
「ありがとう。ではお言葉に甘えて少しだけ、休ませていただこう」
アニーシャと離れて10日ほどだが彼女と会うのが久しぶりに感じて、シュヴァルは少し照れてしまった。
「出来れば両親と共に昼食を召し上がりませんか?」
「予定より早い時間の訪問なのに昼食までさせてもらってよいのだろうか?」
「はい。既にご用意が出来ておりますのでどうぞお気になさらずに」
「···ありがとう」
シュヴァルはフェミナ伯爵家の気遣いに感謝していた。
アニーシャの両親と昼食をいただいていると、
「やはり、昼食のご用意をしてよかったでしょ」
と、アニーシャの母親に囁かれた彼女は真っ赤な顔になった。
アニーシャの顔を見てシュヴァルも真っ赤になった。
昼食を終えフェミナ伯爵夫妻に見送られ二人はシエルバ伯爵領へと向かった。
アニーシャに会ったシエルバ伯爵夫妻は彼女をとても気に入り早速母親と打ち解けていた。
2年後のアニーシャの卒業を待って二人は正式に結婚することになる。
学園に戻る馬車の中でアニーシャは真剣な顔でシュヴァルに話をしていた。
「わたくしのお母様のことで心配なことがあるのです」
彼女の母は数年前から精神的な病を抱えているようだった。
彼女の母はフェミナ伯爵家に嫁ぐ時に実家から侍女を数名連れてきていたが、最も信頼を寄せる侍女が数年前に病に倒れたため暇を出され、母親の側にいられなくなったことで、精神的に不安定になっていったようだった。
普段は穏やかに過ごしているが、季節の変わり目や天候などにも左右される病状のようだった。塞ぎ込み食事を取らなくなるようだ。
アニーシャは母親の病のことでシュヴァルに迷惑がかかることを恐れていた。ボーランド子爵家のランドルとの噂のことも正直に打ち明けた。
シュヴァルは私は君以外を妻にする気はない、心配ないよと、アニーシャの手を取り優しく囁き励ました。
休暇の間にシュヴァルはアニーシャとフェミナ伯爵家、ランドルとボーランド子爵家の事情をすべて調べ上げていた。




