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13 伯爵領の峠道

 天候にも恵まれ、シエルバ伯爵領までの馬車の旅は順調に進んでいた。

 間もなく領地に差し掛かろうとしていた。


 伯爵領に入る峠で休憩をしていると、エクウスは寄り道をしたい所があると、リリアージュに伝えていた。

 エクウスの言葉を聞いていた年高の使用人たちは沈痛な表情をしていた。


「この先の街道で父と母が命を落としたんだ」

「えっ···」

「今はこの街道も整備して危険は少なくなったのだが···。当時は危険な道であることを重要視されていなかった」

 エクウスは膝の上で両手の拳が白くなるまで握りしめ、眉間には皺を寄せ、悔しそうな顔で話をしていた。


 リリアージュは黙って、ただ頷くことしかできなかった。

 エクウスは一息つき、

「王都に行く時は違う街道を通っていたのを覚えているかな?」

「はい。こちらの街道は静かですね」

 リリアージュの答えにエクウスは少し気持ちが落ち着いたようだった。


 エクウスの話は続いた。

 エクウスの母親の実家であるフェミナ伯爵領からシエルバ伯爵領までは、この街道が近道であったこと。


 当時、病床にあったフェミナ伯爵夫人を見舞うために、数ヶ月前からお母様がフェミナ伯爵家に滞在していたこと。


 王都の仕事の帰りに父親が、フェミナ伯爵家に立ち寄り、母親と一緒にシエルバ伯爵領に向かっていたこと。


 エクウスは父親の代わりにシエルバ伯爵領で執務を行っていたこと。


 シエルバ伯爵前伯爵夫妻は、数日続いた長雨で街道近くの宿で足止めされていたこと。

 雨も上がり、充分な安全確認をした上で街道を通ったこと。


 不運にも、落石に驚いた馬が暴走してしまい、伯爵夫妻の乗っていた馬車が、崖から転落してしまったこと。


 母親は即死に近かったが、父親は看取ることができ、エクウスと最後に会話が出来たこと。

 事故があった近くに慰霊碑が建っていること。


 エクウスの話を聞いていたリリアージュは、いつの間にか涙を流していた。

 エクウスはリリアージュの涙を持っていたハンカチで、優しく拭っていた。


「君を泣かせるつもりで話したのではなかったのだけど··ありがとう。父や母のために涙を流してくれて」

 エクウスはリリアージュの頬をそっと撫でた。

「エクウス様。お辛いのに私のためにご両親のお話をしてくれてありがとうございました。私も慰霊碑までご一緒させて下さい」


 エクウスはリリアージュの手を取り、近くにある慰霊碑まで案内した。

 澄み渡る青空の中、今日の街道からの景色は絶景だった。遠くまで良く見渡せた。

 ここで事故があったことが不思議なほどだった。


 慰霊碑は街道に近い高台にあり、太陽の光で緑が眩しく、壮大な景色が眼下に広がっていた。

 エクウスとリリアージュをはじめ、シエルバ伯爵家の使用人たちも、死者を想い、目を閉じ右手を胸にあて頭を垂れていた。


 風で木の葉が揺れる音、微かに聞こえる湧き水の音、鳥のさえずりが聞こえる。少しの間ここで、静かで穏やかな時間を過ごした。

 夕方までには伯爵家に到着する予定になっている。


 エクウスは馬車の中で、幼少期の頃の両親との思い出や、伯爵夫妻のことを話してくれた。

 リリアージュはエクウスの話を興味深く聞いていた。

 リリアージュが聞き上手であったため、エクウスは十歳以上年下の彼女に、精神的に依存しつつあった。


 他人に弱みをみせることを極端に嫌っていたエクウスは、両親が亡くなってから、身の上ばなしなどをしたことがない。それは今までの妻たちにも同様であった。

 しかしリリアージュの前では何故か饒舌になり、話をしていて気分がよく、心の安らぎを感じていた。


 シエルバ伯爵家には予定どおりの到着となった。

「旦那様、奥様、おかえりなさいませ」

 リリアージュは、本邸の使用人たちの出迎えに少しの懐かしさを感じていた。

 リリアージュは湯浴みと食事を済ませると、旅の疲れもあり、強い睡魔を感じてそのまま自室で就寝していた。


 充分に睡眠を取ることができたリリアージュは、体調も良くいつもより早い時間に目が覚めた。

 ひとりで夜着を脱ぎ、自分で着られるデイドレスに着替え、買ってきた植物図鑑をテーブルに広げ、興味深い部分をノートに書き出していた。


「奥様。おはようございます。直ぐに洗顔のお湯を用意いたします。身仕度を整えさせていただいた後、食堂にご案内いたします」

「ありがとう。お願いね」


 食堂に案内してもらうと既にエクウスは席に着き、執事と執務のことで話をしているようだった。

「エクウス様、おはようございます」

「リリアージュ、おはよう。朝食の後で庭を散歩しないか?」

「はい。エクウス様とのお散歩は楽しみです」


 朝食を終えるとエクウスは、リリアージュをエスコートして庭に出た。

 庭の奥まで来ると、整備中なのか、まだ何も植えられていない場所があった。


「リリアージュ。この庭は君専用の庭だ。君が買ってきた花の種や苗木を、好きなように植えるといい」

「えっ。まぁどうしましょう。···エクウス様···わたくしとても嬉しいです。あ、ありがとうございますっ」

 エクウスの言葉に感激したリリアージュは、少し声が上ずってしまい、顔が真っ赤になってしまった。

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